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【書評】『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』:イノベーションの法則

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日経BP社 / 単行本 / 392ページ / 2011-06-30
ISBN/EAN: 9784822248567

気がつくと、世の中はApple製品だらけである。昔からAppleの熱狂的信者というのは少なからずいたわけだが、どこかマイノリティの悲哀も感じさせていたはずだ。それが今や、堂々のメインストリームである。おそらく変わったのは、スティーブ・ジョブズではなく、世の中の方であるだろう。

経済が厳しい時期に、優れたイノベーションが登場することは歴史が証明している。失われた10年とも呼ばれる00年代にipod、MacBook Air、iphone、ipadと次々に新しいイノベーションが誕生してきた。時代は、イノベーションを求めているのだ。

本書は、そんなスティーブ・ジョブズのイノベーションをテーマにした一冊。スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』でおなじみ、カーマイン・ガロ氏によるシリーズ第2弾である。

◆本書の目次
はじめに 世界は多くのジョブズ - スティーブジョブズを必要としている
第1章 ジョブズならどうするだろうか?

法則1 大好きなことをする
第2章 自分の心に従う
第3章 キャリアをシンク・ディファレント

法則2 宇宙に衝撃を与える
第4章 エバンジェリストを奮いたたせる
第5章 ビジョンをシンク・ディファレント

法則3 頭に活を入れる
第6章 新しい体験を探し出す
第7章 考え方をシンク・ディファレント

法則4 製品を売るな。夢を売れ
第8章 その異常こそ天賦の才の表れ
第9章 顧客をシンク・ディファレント

法則5 1000ものことにノーと言う
第10章 洗練を突きつめると簡潔になる
第11章 デザインをシンク・ディファレント

法則6 めちゃくちゃすごい体験をつくる
第12章 我々は、みなさんの成長をお手伝いするためにいるのです
第13章 ブランド体験をシンク・ディファレント

法則7 メッセージの名人になる
第14章 企業社会最高の語り部
第15章 ストーリーをシンク・ディファレント

最後にもうひとつ・・・・・・まぬけに足を引っぱれられるな

冒頭から、イノベーションを生み出すための仕組み作りを否定しているのが印象的だ。いわゆるイノベーションワークショップ、イノベーションコンサルタントなど、イノベーションを触発するための仕組みや流儀について、「ジョブズはそんなことをしない」と一刀両断である。イノベーションを起こすのは仕組みではなく人である。そして、まるでスティーブ・ジョブズ自身が行うかのように人を奮い立たせようとしているのが、本書の特徴である。

奮い立たせるものの一つは、ビジョンである。Appleと同じような技術を持っている企業は、その当時、ほかにもたくさんあったという。実際に、ジョブズの転機となったのは、ゼロックスのPARCを訪問した時のことであった。しかし、ゼロックスはコピー機のことしか頭になく、コンピューターの覇権を取るにも至らなかった。ビジョンの裏付けがなかったため、目の前の技術がどれほどの価値を持つのか理解できなかったのである。

そのような優れたビジョンを作成するために重要なのが、他人と違う見方が出来るということである。ジョブズの眼に映るものが、我々と違うわけではない。違うのは認知である。そのために、ジョブズは物理的にも、知的にも斬新な体験を求めてきたという。カリグラフィーの美、インド僧院での瞑想、メルセデス・ベンツのディテールなど、過去に経験のないことをたくさん、頭に詰め込むのが一番いいそうだ。自分の作った会社から追放される経験なんて、その際たるものだったであろう。

また、顧客の声への向き合い方にも、興味深い点がある。顧客の声からイノベーションがおきることはないという。根底にあるのは、ヘンリー・フォードの言葉「何が欲しいかと顧客に尋ねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」というものだ。これは、顧客の声を聞く必要がないということでは決してなく、自分が欲しいものは何かを考え、顧客に新しい解決手段を提示するということがイノベーションを生み出すということなのだ。

このように、ビジネスマンなら誰しもの琴線に触れる、目から鱗な一冊であるのだが、さらにこんな使い方も考えられる。自分の周囲にいる「なんちゃってスティーブ・ジョブズ」を取り扱うために、活用するのだ。「イノベーション」などという単語を連発した瞬間、「それ、ジョブズも似たようなこと言ってましたよ」などと言って一節を紹介する。関係が良好になること、間違いなしだろう。小さなイノベーションも、起こせそうである。

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