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【書評】『カラスと髑髏』:過去を想像すること

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著者: 吉田 司
東海教育研究所 / 単行本 / 398ページ / 2011-01
ISBN/EAN: 9784486037170

副題に「世界史の闇のとびらを開く」とあり、表紙をめくると”神話崩しの物語と書かれている怪しさ満点の一冊。著者は自分自身のことを魔術師と呼び、膨大な知識を軽いタッチで語り出す。その怪しさに妙にリアリティがあるからタチが悪い。あれよあれよという間に日本の初源の姿が露わになり、日本と世界がつながる。最後まで油断のできない一冊である。

◆本書の目次
第一部 日本・アジア編
第一章 「初源の物語」への旅
第二章 太陽から飛び去ったカラス
第三章 生命の原郷・熊野
第四章 馬と刀の道
第五章 ”アメリカ橋”を渡った果てに

第二部 ヨーロッパ・アメリカ編
第六章 ヨーロッパ精神の初源の光景
第七章 「クリスマス」に隠された暗号
第八章 「柱」よ、語れ
第九章 十字軍と近代資本主義
第十章 大航海時代とエルドラド
第十一章 国が国を食う時代
第十二章 合衆国の真の名前は?
前半は「天皇制」、「武士道」がテーマ。しかしキーワードはカラスと熊。日本の神話にも登場する「三本足の烏」、日の丸の起源という説もある「熊」、これらが高句麗のシンボルと同一でもあるというところから、日本の起源を辿っていく。著者の持ち味は、結論へと一直線には向かわずに、さまざまな話をかき混ぜながら、どんどん拡散していくところだ。これにより妄想は、一気にエンタテイメントへと昇華されていく。

一方で後半のテーマは「キリスト教」と「資本主義」。ここでも珍説、奇説が盛りだくさんに紹介されている。
・クリスマスの起源は、アンチ・キリストの異教の神オーディンだった?
・十字架の起源は狩猟民マタギがクマの心臓を十字に斬るところから?
・マリアさまの処女胎児は事実ではない?
・モーセの正体はユダヤ人ではなく、エジプト人?
・アダムスミス、「神の見えざる手」の神はギリシャ神話の最高神ゼウス?
信心深い人にとっては、常識をひっくり返されるような諸説の数々であろう。しかし、いかにノンフィクションとは言え、ルーツを遡っていくとフィクションとの境界線はあいまいになっていく。つまり突き詰めていけば、過去は想像することしかできない。

著者の根底にある思いは、過去を想像することは、未来を想像することと同義であるということだろう。自分達が信じてきたものが、いかに根拠の乏しいものであるか、その気付きを得ることによって、未来もまた変わるかもしれないということなのだ。
今一度立ち止まり、自分の足元を見つめるきっかけを作ってくれる一冊である。

※本書は、書評コミュニティ「本が好き」様よりご献本いただきました。厚く御礼申し上げます。


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