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【書評】『アライバル』:通常の基準値を大幅に上回る”希望”を検出!

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河出書房新社 / 単行本 / 128ページ / 2011-03-23
ISBN/EAN: 9784309272269

グラフィック・ノヴェルという新ジャンルの一冊。いわゆる文字のない絵本なのだが、一つ一つのカットが驚くほど精巧で緻密に作られている。古いスライドを連続で映写したかのようなその手法は、新鮮味に溢れ、文字が一切ないにも関わらず実に雄弁。翻訳家の岸本佐知子氏は、「翻訳したくて、翻訳できなくて、地団太をふみました」との弁を残している。

著者はオーストラリアのイラストレーター兼作家、ショーン・タン氏。四年間にわたって描き続けた絵で構成されている。父親がマレーシアからオーストラリアにやってきた移民であり、本作は新たな土地に移民してきた者が主人公になっている。

ストーリーは、SF仕立ての展開。妻子と別れ、一人新天地に乗り込む主人公。彼が新天地で目にしたのは、見たことのない建物、見たことのない乗り物、見たことのない生物、見たことのない食物。新天地で出会う人は、それぞれ過去に辛い経験を持つ。しかし、やがてそこでの生活に新しい希望を見い出す。

新天地における主人公の戸惑いや希望が、新しい表現手法を通すことにより、読み手にもダイレクトに伝わってくる。本書こそが絵本の新天地なのである。自分自身を投影させ、行間を読むことによって成立する本書は、読むたびに異なった印象を得ることができるだろう。新しいことにチャレンジする人生の節目、パラダイムが移り変わる時代の節目に、何度となく読み返したい一冊。

↑冒頭は、妻との悲しい別れから始まる。

↑新天地へ到着。見たことのない建物。

↑12コマに分割され、計算し尽くされたカット割り

↑過去の辛い思い出の一コマ

↑新天地での見たことない生き物(左上のカット)

↑希望に満ち溢れたシーンのひとコマ。絵のトーンの明暗で、識別している。

↑時間の経過を、植物の春夏秋冬で表現

 
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