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【書評】『突然、僕は殺人犯にされた』:一丸になる強さと同調圧力

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竹書房 / 単行本 / 284ページ / 2011-03-22
ISBN/EAN: 9784812445044

ある日ネット上に、自分が殺人事件の犯人であるという書き込みがされる。見の覚えのないことなので放っておいたら、誹謗中傷の声は段々大きくなり自分の周囲にまで被害は及ぶ。やがて、自分の周囲や業務にも影響が出始め、社会的にも大きなダメージを受ける。すべて実話の話である。本書は、お笑い芸人のスマイリーキクチ氏が、十年に渡って受け続けた誹謗中傷の全貌を綴った一冊である。

◆本書の目次
第一章 :突然の誹謗中傷  
第二章 :謎の本
第三章 :ひとすじの光明
第四章 :正体判明
第五章 :重圧、そして新たなる敵
第六章 :スゴロク
特別付録:ネット中傷被害に遭った場合の対処マニュアル 
ネットにおける負の歴史を、そのまま描いたような内容である。その一方で、問題はネットだけに限定されるものではない印象も受ける。著者への誹謗中傷が沸点を超える時には、必ず既存マスメディアの影響も及んでいる。まず、一度目はTVのコメンテーターを務める元警視庁刑事による書籍の中で、「犯人の一人は出所後、お笑いコンビを組み、芸能界デビューしたという」と記述された時。二度目は、同様にその殺人事件への関与が噂された女性タレントが、死去した時。これらによって拡散された風説が、「本気で殺人犯と思い込む者」、「どうにかして殺人犯に仕立て上げたい者」、「犯行に異常な興味を抱く者」達を大量生産し、事態は収拾がつかない方向に向かってしまう。    

ひとすじの光明が指し出すのは、著者が刑事告訴に踏み切ってからである。紆余曲折を経て、誹謗中傷していた人物達が特定される。「妊娠中の不安からやった」などと供述する女性も出てくる。それが真実かどうかということより、腹イセができればそれで良かったのである。ゲーム感覚で誰かが中傷し、他の者は負の感情にイタズラに便乗し標的を追い詰める。いわゆる日本的いじめの縮図、そのものである。ネットの存在はそれを可視化し、加速化したにすぎない。同質な集団で形成される、日本社会の未成熟さが浮き彫りにされたとも言える。


危機に直面した時に一丸となる日本の強さと、同調圧力によって足の引っ張り合いをする弱さは、表裏一体なのだなと
改めて思う。昨今のように、復興へとみんなが一つになっている時にも、負の同調圧力は呼応する。だが目的が明確な時は、標的も多いから、波は強いが寿命は短い。しかし、いつの日か復興は成し遂げられる。その時に全体が目的を見失い、負のスパイラルが蔓延するとしたら、こちらの方が寿命が長く厄介な気がする。物質的な豊かさの復興だけでは不十分と思うのは、気が早すぎるだろうか。


最後に、これだけネットに苦しめられた著者も、ネットによって支えられ、勇気づけられた一面もあると記述している。リスクばかりを恐れて、いたずらにネットを回避することの無いように、巻末には「ネット中傷被害に遭った場合の対処マニュアル」なるものも付けている。そのポジティブな姿勢には、救われる思いがする。
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