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【書評】『グラハム・ベル 空白の12日間の謎』:1867年のソーシャル・ネットワーク

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日経BP社 / 単行本 / 368ページ / 2010-09-23
ISBN/EAN: 9784822284398

「ネットワークサービス」、「スタートアップ」、「盗作騒動」、「裁判沙汰」と聞けば、何を思い浮かべるだろうか?映画『ソーシャル・ネットーワーク』のことではない。これらは全て、ソーシャルメディアの元祖ともいうべき「電話」をめぐる、発明家グラハム・ベルの話なのである。トーマス・エジソンとならび称される稀代の発明家にいったい何があったのか?
1867年における「電話発明の真相」を追いかけた本書は、従来の通説を大きく覆すノンフィク・ションミステリーである。

「ワトソン君-ちょっと来たまえ」。この呼びかけによって誕生した
電話の「達成の瞬間」は、発明の歴史の中でも最も良く知られている話である。さらに特許については、同日に別の人物からも内容の重なりある出願がなされたのだが、ベル・グラハムの方が二時間早かったため、取得することができたという。その二時間遅れで英雄になりそこねた男の名は、イライシャ・グレイ。本書のもう一人の主人公である。

著者は、サイエンス・ライター。発明家の研究を行っている際に、全くの偶然からグラハム・ベルの特許取得の経緯に不自然な点があることに気付く。グラハム・ベル自身のノートを辿っていくと、全く不自然な流れで、発明の肝となった「液体送信機」に関する記述が加わるのだ。そして、同じ記述はイライシャ・グレイのノートからも見つかる。そして、そこから著者の真相を求めた物語が始まるのだ。著者の研究シーンと、ベル・グラハムの研究シーンが交錯しながら、電話線のように細い一本の糸をつなぎ合わせていく描写は迫力があり、目を離せない。

著者の結論はあくまでも仮説にすぎないが、特許取得に関しては、某かの不正な行為があったのではないかと主張している。仮にそれが事実だとすると、何がそこまでして彼を突き動かしたのか。それはグラハム・ベルとその周囲が、電話という技術の背後に潜む、商業的な可能性について正しい認識を持っていたということなのだ。「テクノロジーによって変化する市場を、技術的な見地からの視点だけでなく、社会学的なスキル、中でも論理的な思考によって裏付けられた分析で突き進める」、これは百年以上たった今の時代にも、最も必要とされるスキルであると言われている。

それにしても、歴史認識とは非常に危ういものである。その時代、その時の権力者の都合により、歴史は常に塗り替えられてきたということを、我々は忘れてはならないのだ。グラハム・ベルは、彼自身が設立した会社が後にAT&Tという大企業になり、自分の名声がここまで神格化するとは思ってもいなかったであろう。
しかし、死後の名声と引き換えに、彼が生前、罪悪感を抱いたまま日々を送っていたとしたら、それもまた悲劇である。


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