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【書評】『天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』:マイノリティの多様性

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講談社 / 単行本 / 338ページ / 2011-02-01
ISBN/EAN: 9784062155137

著者は、世界にほんのわずかしかいない自閉症でサヴァン症候群でもあり、かつ共感覚の持ち主であるという。
そして、その能力はすさまじい。円周率は22500桁を暗誦し、10ヶ国語を操るそうである。本書は、そんなダニエル・タメット氏が脳をテーマに、その働きと力について描いた一冊である。

◆本書の目次
第1章 空より広い
第2章 脳を測る---知能と才能
第3章 ないものを見る
第4章 言葉の世界
第5章 数字本能
第6章 独創性という現象
第7章 視覚の不思議
第8章 思考の糧
第9章 数学的な考え方
第10章 脳の未来
ここ最近読んだ本の大半が、この一冊に集約されるのではないかと思うくらい、濃厚な一冊になっている。通常なら、本章の一章分のネタで一冊の本が書けるくらいではないだろうか。そして、そこに描かれているのは、実に不思議な世界である。
   
著者は円周率を暗記したとき、頭の中で数字が入り組んだ多次元の、色のついた質感のある形として現れて、風景として見ることができたそうである。ちなみに、1は明るく、11は丸く、111は明るくて、でこぼこしており、1111はさらにそれが回転していたとのこと。また、バルカン語とスカンジナビア諸語の語彙と文法構造を基にし、「マンティ」という新しい言語を創作してしまったエピソードも紹介されている。そして、この著者の最も優れているのは、この現象や要因への考察を伝達するための「自己説明能力」なのである。

著者が、ここまで自分をさらけ出してでも伝えたかったことは、人格への尊重ということではないだろうか。その天才的な個性が、サヴァンだからの一言で片づけられてしまうということに、幾度となく絶望してきたのであろう。しかし、花粉症に罹っている人の能力が千差万別であるように、自閉症やサヴァン症候群に罹っている人の能力も千差万別なのである。人格は決して方程式では解けないのだ。


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