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【書評】『日本人の知らないユダヤ人』:懐疑、覚悟、リスク

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著者: 石角 完爾
小学館 / 単行本 / 224ページ / 2009-11-09
ISBN/EAN: 9784093798068

映画『ソーシャル・ネットワーク』で、マーク・ザッカーバーグが彼女と別れた後「彼女の母親はドイツ系だから」と呟く一言をご記憶だろうか。この台詞は、マーク・ザッカーバーグがユダヤ系アメリカ人であることを意味している一節である。彼に代表されるように、ユダヤ系の人物というのは、少々変わりものではあるが、大きな成功を収めている人物が非常に多い。ちなみにマーク・ザッカーバーグに最初に大型の投資を持ちかけたワシントン・ポスト紙のドン・グレアムは母親がユダヤ系、最近Facebookへ大型投資を行ったゴールドマン・サックスも創業者はユダヤ人である。

本書の著者は、日本人として生まれながら、ユダヤ教へ改宗された人物。ユダヤ教に興味を持ったきっかけから、改宗までになすべきこと、ユダヤ教の生活、考え方までが、日本人との比較でわかりやすく紹介されている。いわば”中の人”によるユダヤ人論といえるかもしれない。ちなみに、ユダヤ教に入信するということが、ユダヤ人になるということを意味する。

◆本書で紹介されているユダヤ人の特徴
・問い続けること
日本には「一を聞いて十を知る」ということわざがあるが、ユダヤには「千を聞いて百を知る」があるそうだ。学びが宗教に義務付けられ、なかでも問い続けるということが美徳されている。健全な懐疑主義をもつことがユダヤ人らしい生き方でなのである。

・あきらめない
紀元二世紀にローマ帝国に鎮圧されて以来、1948年まで自分の国を持てなかったユダヤ人は、民族への誇りが強く、あきらめとは無縁である。ユダヤ教における神を相手にしても、納得しない限りは戦うことを辞さないタフネゴシエーターでもある。そして迫害・差別などの歴史をもつこの民族は、いつ政治状況の標的にされるかわからないという覚悟を受け入れて生きている。

・リスク管理
日本で有名な「毛利元就の三本の矢」の逸話。ユダヤ人が聞くと、なぜ「三本まとめて折られてしまうリスクを考えないのか」ということになるそうだ。いつ国外に逃げ出さない状況になるかも知れないということを念頭におき、持ち出せて換金のしやすい、ダイヤや宝石のビジネスに関わっている人も多いという。また物づくりより、仕組み作りを指向する傾向にあるのも、ここに要因があるのかもしれない。
本書で特に印象的だったユダヤ人の姿は、①「プラットフォーム」や仕組み作りへの傾注、②世界各国に散らばっている強固なネットワーク、③コミュニティの中で、自分の素の姿をさらけ出す強烈な自己主張、といったところである。そして、そのようなユダヤ人の振る舞いとFacebookというサービスとの間に強い親和性を感じ、その関連性にも深く興味を憶えた。Facebookがハーバードをはじめとするアイビーリーグの大学カルチャーにルーツがあるのは有名な話である。ただ、そのルーツはユダヤ教にもあるのではないかなど、問い続けながら読んでみるのも面白いと思う。


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