オルタナティブ・ブログ > 大人の成長研究所 >

ライフワークとしての学びを考えます。

声を響かせるためにプロも密かにやっているお手軽なトレーニング「ブタバナ」

»

ボイストレーニングをするときは、口呼吸を行います。

鼻呼吸することは間違っていません。
アマチュア合唱団では、歌うときに鼻で息を吸っている方がまだ多いですし、プロでも息継ぎの音さえ影響する静かなアカペラ宗教曲などにおいては、そっと鼻から息を吸うこともあります。

ボイストレーニングにおいては、口呼吸をおすすめしています。
理由は3つあります。

1、口の中が広くなる

「ボイストレーニング教室に通っているんだけど、声がなかなか良くならない」とおっしゃる方にまず共通するのが、「口の中がせまい」ということです。口の中がせまいと、どんなに良いトレーニングをしたとしても、とたんに声は響かなくなります。
良いホールや声の響く教会は天井が高く空間が広いですね。口の中を良いホールと同じ状態に持っていくのが最大のコツです。

「大口を開ける」ということではありません。
よく「縦に指三本が入るくらい開けなさい」と言われます。初心者の場合は、そもそも口自体が開きませんので、「とにかく開けましょう」という段階のトレーニングでは有効な方法です。
しかし、本当に声を響かせようと思ったら、口の前を開けてしまうと声は拡散してしまい共鳴しなくなります。オペラ歌手は何千人のホールでもマイクなしで声が届きますが、野外劇場ではマイクを使うことがよくあります。それは、響きが散ってしまうため声が届かなくなるからです。
口も同じ状態に持っていきたいのです。
そのためには、口の開け方は制限しなければなりません。口の前は上品な「おちょぼ口」程度の開き方で十分。そのかわり、口の中は思い切り開けるようにします。

ただ、「口の中を広くとる」と言っても、実はなかなか簡単にはいきません。

大抵の人は、舌があがってしまい口の中を狭くしています。
そのため、舌を固くせずに下げることが大事。
鼻から息を吸っていただくとわかりますが、鼻から息をすっているときというのは、舌の奥が喉の上に上がり口の中が狭くなります。口の中をいかに広く、そして、いかに素早く空間をとるかということが、良い声を出すコツです。
もちろん、「鼻から息を吸ったあと舌を下げて空間をとれば良いのでは?」と思いがちですが、鼻で息をすって、そのあと良い声を出すために口の中の空間をとろうと舌を下げるのに、時間のロスが生じます。発音している間というのは、ゆっくりしゃべっていたとしても、かなり一瞬です。また、よほど訓練していないと、一度あがった舌は瞬時にしっかりと下がりきるものではありません。

だから、ボイストレーニングにおいては、息を吸うときに口の中を開けるために、アゴを下げて口を開け、ベロは下の歯に軽く触れる程度にのばすポジションをとれるようにトレーニングする必要があるのです。

口の中に空間をとる状態が出来てくれば、鼻から息を吸ってもある程度の声がでるようになります。しかし、口の中は口を開けて息を吸うよりはどうしても狭くなり響きは落ちます。


2、素早く準備できて息がたくさん吸える

口から息を吸うことで、口の空間が広くとれると、素早く有効に言葉を準備できます。
声を響かせるためには、しゃべるときの母音をいかに広くとるか、ということが大事です。話す時のベストポジションは、基本的に口の中が「オ」の発音をしている状態を維持しながら、すべての言葉をさばいていきます。
そのためには、息を吸う時に、素早くこのポジションを作って準備できていることが大事です。鼻から吸うと舌が上がって口の中がいったん狭くなるので、どうしても準備が間に合わなくなってしまいます。

良い声を出すためにはたくさんの息が必要です。ボイストレーニングでは呼吸のために呼吸をつかさどるインナーマッスルである横隔膜を使います。しかし、せっかく横隔膜を使えたとしても、たくさんの息を素早く吸うことができなければ、良い声にはつながりません。横隔膜がエンジンなら、息は燃料になります。口からすった方が素早くたくさんの息が吸えるのです

3、喉頭が下りる

良い声を出すときというのは、喉頭が上がっている状態でないほうがベストです。(喉頭とは喉仏のことです)
カラオケで叫んでいるとき、声が疲れてきたとき、大抵は喉頭が上がりすぎている状態になっています。喉頭の上下は声の音色に影響します。
喉頭を下げるにはどうしたらよいのでしょうか?
それは、あくびをしたり、水を飲んだりするときです。
口から息をすうことで、口をあけたとき、あくびのときのように喉頭が良いポジションにきます。そのまま発声すると良い声になるというわけです。

以上、口から吸うのが良い理由3つを説明しました。

   * * * * * *

そこでプロは、口の中の空間を開けるために、密かに行っているトレーニングがあります。

よく合唱の練習などで「軟口蓋(ナンコウガイ)を開けましょう〜」と言われていませんでしたか?

あくびのときや、うがいのときに上がっているのですが、大抵はどこが動いているのか良く分からないことが多いのです。
さらに強く意識するために、声楽家によっては、軟口蓋をスプーンでつついて刺激しながらトレーニングをする方もいます。やはり気持ち悪くなるのでしょう、「もう、最初の頃は洗面器を持ちながらやったんだよ~」と話していたのを聞いたことがあります。ううむ・・・洗面器ははちょっと勘弁してほしいですね。
 
そこで、軟口蓋を自然に刺激して意識できるようにする方法をご紹介しましょう。


それは「ブタバナ」というものです。
変な名前ですが、正式にこう呼ばれています。

★★ ブタバナのやり方 ★★

アゴを下げて呆気にとられたような顔をして、息を吸いながら「フゴフゴフゴッ・・・」と音を出してみましょう。
イビキをかくときの音に似ています。鼻の方まで振動を感じるようにしてみてください。

絶対に「ガガガーッ」と豪快にやってはいけません。一定の音で途切れずに長さを保ちながら、ちょっと湿り気のある音色にできれば、良い「ブタバナ」です。美しいブタバナができるように。
また、「ブタバナ」は軟口蓋やその周辺がリラックスしていないとできませんから、発声の最中や、本番前のリラックス確認にもよく用いられます。

以前、ソプラノ歌手の女性と飲みに行ったときのことです。
かなり酔っ払ってしまったのか、ろれつの回らないしゃべりの合間に、無意識に「ブタバナ」を行っていて感心したことがあります。(酔っ払うとリラックスするせいか、ブタバナが上手くできることもあります。)
プロはいついかなるときでも良い声を出すことが頭から離れないのだ、ということが分かりました。

ぜひ、ブタバナでリラックスして口の中の空間をとれるようになって、良い響きを得られるように。
暇さえあれば軟口蓋を意識することが大事ですよ。

ボイトレとは関係ありませんが、健康面においては、人ごみや満員電車で口から息をすっていると、ばい菌がのどに付着しやすくなりますので、注意が必要です。どうしても外でトレーニングしたいときは、マスクをするなどしてみると良いかもしれません。

Comment(0)