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キャリアデザインの講義で話してきたこと

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「“キャリアデザイン”という講義の中で、体験を元にしたIT業界についての話をして欲しい」
という依頼があり、先日、母校に行って来ました。
対象の学生は、大学2年生。就職活動には、まだ入っていません。
どういうことを目指して、そのために何をしていくかを考えるための講義なのですが、
「希望の職種を聞くと、Webデザイナーやゲームプログラマーなど、今ひとつ、職業と好きなことの区別がついていない学生が多い・・OBの話を聞いて、学生に現実を知って欲しい」
とのことでした。
ゲームプログラマーを目指すのが悪いことだとは思いませんが、「ゲームが好きだから、ゲームプログラマーになりたい」では、「ケーキが好きだからケーキ屋さんになりたい」と言っている小学生と変わりません。
せっかく大学まで進学して様々なことを勉強しているのですから、もっと視野を大きく持って、将来の自分と向き合って欲しいところです。

最初は、わたしの経歴や今まで経験してきたプロジェクトの例などのお話をしました。

学生たちは、それほど、興味を示しません。

まあ、OBの実体験、と言っても、四半世紀以上年齢が違う人の体験談ですから、時代背景も違います。
あまり、ピンと来ないのでしょう。

続いて、IT業界には、実際にどういう職種があるのか、それぞれの役割や、求められるスキルなどについて説明します。

またもや、学生たちの反応は今ひとつ。

でも、それぞれの職種の年収の比較表を出したあたりから、顔つきが変わってきました。

これは、転職サイトDODA に掲載されている職種別平均年収から抜粋したものです。

職種平均年収
(万円)
ITコンサルタント 599
プロジェクトマネジャー 597
全体平均 450
SE・プログラマ 435
WEBデザイナー 378
※DODA 職種別の平均年収より抜粋

ITコンサルタント、プロジェクトマネジャーは、理系職種ランキングの中でも、4年連続で1位、2位となっています。
ところが、SE・プログラマは全59業種の平均より、やや下、Webデザイナーにいたっては、下から数えた方が早いくらいです。

職業を選ぶのに「年収が全て」では、もちろん無いです。
でも、「報酬=仕事の価値」という側面もありますから、より高いものを志して欲しい、という気持ちも強いです。
また、Webデザイナーは、近年、flash等のプログラミングやSEOの知識なども求められるケースもあるようですが、ベースはやはりデザインスキルであり、情報系の学生がそこを目指すのは、ちょっと違うように思うのです。

そういう話をすると、「そんな・・」という動揺しているような表情の学生も。

では、ゲームプログラマーは、どうでしょう。
財団法人デジタルコンテンツ協会がまとめた「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究委員会報告書」によると、ゲームプログラマーの平均年収は4,641,390円と、先ほどのDODAのSE・プログラマより若干高めです。

ゲーム業界は忙しい、とよく聞くので、残業代が多いのかも知れません。
ところが、同報告書の「年収×労働時間」の項目を見ると、ゲーム開発者(プログラマーだけでなくプロデューサー、ディレクターなども含まれる)は、週の労働時間が55時間を越えると、それより少ない人より、年収が逆に下がっています。

週労働時間現在の年収
(万円)
35時間未満 4,316,667
35-45時間未満 5,136,140
45-55時間未満 5,325,158
55時間以上 5,075,609
※財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究報告書」現在の年収×労働時間より

裁量労働制など、会社から残業時間を調整されない人が、多く働いているようです。

本当にゲーム業界は忙しいのか、繁忙期についての質問を見てみます。

あなたが関わった直近のプロジェクトでは、どのくらいの繁忙期がありますか。

繁忙期はない 3%
最終的なベータ・テストの時 22%
あらゆるマイルストーンの前 53%
毎月 15%
その他 5%
※財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究報告書」繁忙期間より

あなたが関わった直近のプロジェクトでは、どのくらいの長さの繁忙期がありますか。

1週間未満 8%
1-2 週間未満 9%
2 週-1 ヶ月間未満 16%
1 ヶ月-2 ヶ月間未満 22%
2 ヶ月-3 ヶ月間未満 15%
3 ヶ月以上 28%
※財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究報告書」繁忙期間より

この2つを見る限り、繁忙期が慢性化しているように見えます。

繁忙期の週の間、あなたはどのくらいの時間働いていますか。

35 時間未満 0%
35-45 時間未満 4%
45-55 時間未満 15%
55-65 時間未満 31%
65-80 時間未満 28%
80 時間以上 19%
※財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究報告書」繁忙期間より

55時間以上の人が約8割、これは、週の労働時間なので、1ヶ月に換算すると、約60~180時間の残業が発生していることになります。

繁忙期が慢性化していて長時間労働が続くが給料は変わらない、平均年齢を見ても、20代、30代が多く、若いうちしか出来ないのかな・・という気がします。

20-24歳 7.1%
25~29歳 21.0%
30~34歳 26.4%
35~39歳 26.2%
40~44歳 14.0%
45~59歳 3.6%
50歳以上 1.7%
※財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究報告書」回答者の年齢層より

この話はショックだったのか、講義後、志望職種を書いたシートを見直す、という学生が大勢いたようです。

念のため、わたしは、WEBデザイナーやゲームプログラマーを目指す人を否定している訳ではありません。

ただ、こうした実態を理解した上で、将来、自分がどうなりたいのか、「キャリアデザイン」について考えみて欲しい、と思うのです。
エラソーに言っているわたしも、学生のときに、明確に、キャリアについて考えて、就職したわけではありません。
また、考えていた、としても、現在のわたしを想像することは出来なかった、と思います。
でも、それでも、いいのです。一度描いた「キャリアデザイン」は絶対的なものではありません。都度、見直していけばいいのです。

先ほどのゲーム開発者の年齢構成の表は、40代以降がかなり少なくなっています。
これは、ゲーム開発者全体の数字ですから、プログラマーに限ると、もっと若年化するかも知れません。

「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究委員会報告書」には、

多くの開発者が仕事に満足を感じているが、勤続年数の短さや平均年齢の若さをみると、将来的なキャリアを描けないのが実情であろう

とも書いてありました。
実際に、自由記述の回答も掲載されていましたが、「キャリアやステップアップなどが不透明」、「40 歳以降のキャリアの展望がまったくみえない」など、キャリア形成についての不安を訴える開発者の声があがっていました。

講義を受けた学生たちはまだ2年生。仕事、キャリア、というものを、実感として捉えることは難しいかも知れません。
でも、せっかく「キャリアデザイン」という講義があるのですから、将来の自分をきちんと考えてみるキッカケにして欲しいと思います。

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