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Wiiなどの事例でとても分かりやすい。競争の無い青い海を行く『日本のブルー・オーシャン戦略』

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「レッド・オーシャン戦略」、「ブルー・オーシャン戦略」という言葉を、聞いたこと、ありますか?

「レッド・オーシャン戦略」が、競争相手と既存の市場を奪い合う赤い血潮に染まった激戦状態での戦略であるのに対して、「ブルー・オーシャン戦略」は、広大で深く力強い青い海のような競争の存在しない未知の市場空間を作り出すという戦略です。

でも、そういう概念は何となく分かるものの、具体的にどういう戦略で、何をすればいいのか、今一つイメージがうまくつかめていない人が多いのではないでしょうか。

日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く>日本のブルー・オーシャン戦略』は、ブルーオーシャン戦略を理論化し、提唱しているW・チャン・キム教授に直接師事を受けた安部義彦氏とビジネススクールで戦略論やマーケティングなどの教鞭をとる池上重輔氏の共著によるもので、ブルー・オーシャン戦略を正しく理解し、具体的にどう活用すれば良いかが分かりやすく書かれています。

この本の特徴は、理論やツールの説明の中に、ふんだんに事例が盛り込まれていることです。40を越える事例は、海外のものだけでなく、日本企業の事例もたくさんあるので、身の回りや自社のケースに置き換えて、具体的にイメージすることができると思います。
W・チャン・キム教授らによるオリジナルの『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)ブルー・オーシャン戦略
』では、概念としては理解できても、今ひとつピンと来なかった人も、この『日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く>日本のブルー・オーシャン戦略』を読めば、身近なものに感じることが出来るのではないでしょうか。

まず、最初に登場する事例は、任天堂のWiiです。縮小しつつあるゲーム市場で、新しい需要を創造しユーザ層を広げているWii。ほぼ同時期に発売されたソニーのPS3と考え方、アプローチの仕方を比較することで、今までの戦略とどう違うのか、より明確にイメージをつかむことができます。
ここで、WiiとPS3との戦略の違いが、「戦略キャンバス」、「バリューカーブ」といったツールで視覚的に説明されています。戦略キャンバスは、現在の自社、競合そして業界標準が提供しているバリューをプロットする図で、横軸に既存業界各社が重視しているファクタ、縦軸に顧客が受けるバリューレベルの高低を描きます。プロットされて描かれた折れ線グラフがバリュー・カーブです。
初期と2006年の頃の家庭用ゲーム、それに、PS3のバリュー・カーブを戦略キャンバスに描き、

この図を見ると、PS3は確かに従来の業界内の競争ファクタを徹底的に磨き上げ、向上させて作られた次世代マシンであり、レッド・オーシャン戦略を極めた製品であることがわかるだろう。たとえば、リアルさという競争軸を取ってみても、PS3のグランツーリスモなどはアーケードゲームをしのぐばかりのリアルなグラフィックスだ。

と説明があった後で、今度は、WiiとPS3のバリュー・カーブを比較して、
これは、明らかにPS3とはまったく別の戦略性を持って作られている。これまで主婦やおじいちゃん、おばあちゃんなどのノン・カスタマーを遠ざけてきたコンテンツの難しさ、コントローラの複雑さをなくし、またそうした層にとってはあまり重要ではないと思われるグラフィックスの高精細・高品質さもあまり強化せず、そのかわりにシンプルさを増やし、家族みんなで手軽に楽しめるおもしろさ、インタラクティブに体を動かす躍動感などを新たに創造している。

と、Wiiがどこに資源をフォーカスし、ゲームの新市場を創造したのかを明らかにしています。

Wiiの事例で、ブルー・オーシャン戦略の大きな流れを掴んだ後、
「ブルー・オーシャン戦略の考え方」、「レッド・オーシャン戦略との違い」、そして、「その実現のための基本コンセプトやツール」、「戦略の策定プロセス」、「利益を上げるためのビジネスモデルの構築手順」、そして「実行」と、実践する上で、重要な事柄は、個別の章で、さらに詳しく、様々な事例を使って、具体的に学習ができるようになっています。

例えば、「現地探索」という新市場の方向性を探索するプロセスでは、
「6つのパス」と言われる「視点」を使って戦略の前提そのものを問い直すことで、レッド・オーシャンから抜け出すヒントを見つけ出すアプローチについて書いてあるのですが、パスごとに事例が紹介されています。


  • パス1 オルタナティブを広く見渡す
     事例:NTTドコモ iモード
  • パス2 業界内のほかの戦略グループに学ぶ
     事例:明光義塾
  • パス3 チェーン・オブ・バイヤーズに目を向ける
     事例:ネスレ シングルサーブ缶
  • パス4 併用される補完材や補完サービスを見渡す
     事例:任天堂 ファミリーコンピュータ
  • パス5 機能と感性のどちらで顧客にアピールすすかを切り替える
     事例:QBハウス、ユニクロ、NOVA
  • パス6 将来を見通す
     事例:セコム、シマノ、アドバンテッジパートナーズ

どうです?この事例の量。
これらの事例は、ブルー・オーシャン戦略を意図的に使って行ったことでは無いかも知れませんが、ブルー・オーシャン戦略が、多くの事例から共通のファクタを抽出し、統計的に優位な方法論として落とし込まれているものだと分かります。
だから、天才的なヒラメキを持つカリスマ経営者に頼らなくても、組織的に視野を広げ、従来の市場の枠組みを超えることができるのです。

ブルー・オーシャン戦略は、3つの中核要素からできています。


  • 「バリュー・イノベーション」 コストを押し下げながら買い手にとってのバリューを高めようとする
  • 「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」 変革に対する組織面のハードルを短期間で乗り越え関係者の支援を得やすくする
  • 「フェア・プロセス」 戦略にまつわる手続きの公平性

ブルー・オーシャン戦略は、戦略をどう考えるか、というだけでなく、どう実行していくか、ということにも重きを置いてあることが分かります。この本でも、
どれほど優れた戦略でも、実行しなければ無意味である

とし、変革を実行するためのプロセス、ポイント、対応策について、丁寧に書かれています。
フェア・プロセスの説明の後には、「周囲の意見をすべて反映しなくてはいけないのか」という疑問や「コンセンス型の日本式経営」と勘違いが無いように、こんなことも書かれています。
フェア・プロセスで重要なことは、従業員がその意志決定に関わり、意見を表明する機会が公式に与えられ、一度はきちんと検討された、という事実である。そして、意見を否定する場合は、なぜノーなのか(別の意見がイエスなのか)の選択基準を、明確に示すことである。
日本の御神輿型経営者やコンセンス型意思決定とは違い、経営者が最終判断を行うものである。

これらの、組織を動かす方法は、ブルー・オーシャン戦略を実行するときでなくても、様々な場面で、活用できると思います。
これだけでも、一読の価値あり、です。

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