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「自社ならではの強み」は何か?いかに育んでいくか?

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「自社ならではの強み」は何か?

今年1月末に「「バリュープロポジションが大切」...と言っても、どうやってバリュープロポジションを考える?」で書いたように、その一つの方法はコア技術を考えることです。

 

たとえば、デジカメの台頭で、本業である写真フィルム市場の90%が蒸発してしまった富士フィルムでは、コア技術は「写真フィルム」ではなく、「有機材料」「無機材料」「薄膜技術」「光学」「画像」「メカ・エレキ」の6つと考えました。そして化粧品や高機能材料などに多角化を進め、高収益を維持しています。

このように考えると、「写真フィルム」はコア技術ではなく、「製品技術」であることがわかります。

 

この「コア技術」について考える際に、とても参考になる書物が、「コアコンピタンス」という考え方。

「コアコンピタンス」という考え方自体は、1990年にゲリー・ハメルらがHarvard Business Reviewに寄稿した論文"The Core Competence of the Corporation"で登場し、広まった概念です。

もう24年前の論文ですが、ここには高度成長期の絶頂にあった多くの日本企業が登場します。

 

「コアコンピタンス」の考え方は、ゲリー・ハメル著「コア・コンピタンス経営 」(日経ビジネス文庫)にまとまっています。

既に20年近く前の本ですが、「コアコンピタンス」以外にも多くのことに触れられており、学ぶことがとても多い本でした。

本書から、特にコアコンピタンスについていくつか取り上げてみたいと思います。

 

---(以下、抜粋)---

(p.72から)

製品の開発は100メートル競走のようにスピードの勝負だが、産業の発展や変革を巡る競争は、100マイルの自転車競争、遠泳競争、マラソンを合わせたトライアスロンに相当する。

---(以上、抜粋)----

ここでは後者がコアコンピタンスに相当します。製品開発とコアコンピタンスを明確に分けて、考えることが大切であり、時間軸のとらえ方を変える必要があるのです。

ともすると私たちは「製品こそが強み」と考え勝ちですが、そうではありません。そのことについて、次のように書かれています。

---(以下、引用)---

(p.134から)
コアコンピタンスとは、もっと広い意味の顧客にとっての付加価値を意味している。たとえば、アップルコンピュータの「ユーザーフレンドリー」や、ソニーの「ポケットサイズ」、あるいはモトローラの「コードレス」などである。キヤノンにはカメラ事業、コピー機事業、プリンター事業などいろいろな事業部門がある。しかし、キヤノンが自社をそれぞれのマーケットに対応した戦略的事業部門の集まりとしてしか見ていなければ、次のカメラ、次のコピー機、次のプリンターというイノベーションしか起きない特定の製品と市場をセットで自社を定義してしまう企業は、自社の運命を市場の運命に縛りつけてしまうことになる。

(p.315から)
コアコンピタンスとは、顧客に特定の利益をもたらす一定のスキルや技術を言う。ソニーにとってその利益とは携帯性で、そのためのコアコンピタンスが小型化である。フェデラルエクスプレスが提供する利益は定時配達で、そのための高いレベルのコアコンピタンスが物流管理である。

(p.319から)
コアコンピタンスは幅広い製品やサービス全体の競争力に貢献する。この意味でコアコンピタンスはどんな特定の製品やサービスよりも上位に置かれる存在であり、また社内のどの事業部よりも大切である。

(p.364から)
空白エリアのビジネスチャンスを明らかにするには、市場ではなくコアコンピタンスから始めて、ある特定の企業力を特定の顧客にもたらす利益を利用することを考えなければならない

---(以上、引用)----

このように考えると、コアコンピタンスは「コア技術」の集合体でもあり、事業などのコアビジネスは市場や顧客ニーズに対応できるようにコアコンピタンスを元に生まれてくるものであり、製品はコアビジネスの周りで生まれるものである、ということがわかります。

 

このコアコンピタンスは不変なのか?それについては次のように述べられています。

---(以下、引用)---

(p.336から)
一〇年単位で見たときに、ある時期にコアコンピタンスであったものが、次の時期の単なる能力の一つになってしまうことがある。

(p.244-246から)
企業の経営資源をしのぐような野心やレバレッジする力がないと、ありあまるほどの経営資源があっても戦略の決定がおろそかになりかねない。….野心が経営資源を永遠に上回っているというストレッチこそが、競争優位を生み出すエンジンの燃料である

---(以上、引用)---

つまり、コアコンピタンスは陳腐化するし賞味期限がある、ということです。

たとえばかつてのソニーは本書にあるように「小型化技術」がコアコンピタンスでしたが、今や多くの企業がこの能力を身につけてしまいました。現在のソニーの苦境は、ここにあるのかもしれません。

 

5年・10年単位で常に「自社はどうあるべきか?」を考え、自社のコアコンピタンスを見据えて、長期的にどのように伸ばしていくか考えていく。

そのためには常に背伸びをし続けていくことが必要なのでしょう。
 

 

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