オルタナティブ・ブログ > マイク丹治の「グローバル・アイ」 >

 セールスジャパンの経営を始め、様々な事業活動に携わるマイク丹治が、日々仕事を通じて感じていることをつづります。国際舞台での活動も多いので、日本の政治・社会・産業の課題などについて、グローバルな視点から、コメントしていきたいと考えています。

知性ある社会を!

»

この間ネットのニュースで、戦後平和を守ってきた、そして世界のどの紛争にも直接関与していない日本人にノーベル賞をという動きが国内であるのを見て、唖然とした。もちろんわが国が平和を守ってきたことは事実だし、世界中に紛争が発生している中で、わが国は平和的解決だけに協力してきたことも概ねその通りだと思う。

だが、それは米国が安保に則ってわが国に軍備を置いていることによって、抑止力が働いていることもあるし、世界情勢の中でわが国を物理的衝突に巻き込まないようにしようという諸外国の協力もあった結果だと思う。もちろんわが国政府も、平和憲法の趣旨を守り、国民もこれを大事にしてきたことは間違いないが、それをノーベル賞で表彰してもらおうと自ら言いだすなど、そもそも僭越であり常識を疑う。仮にわが国の平和が評価されるとすれば、それこそ海外からそのような推薦が上がった場合だと思うし、わが国が世界に評価されるほど世界の平和に貢献していると胸を張って言えるようになってからではないか?まだ、そのような時は来ていない。

先日NHKが東大の安田講堂事件の回顧報道を行っていた。当時の大学側の幹部の会議録が出てきたというのが一つのきっかけだったようだ。私は、当時まだ中学生だったので、詳細は知らないが、この事件が結果としてわが国の知性に終焉を迎えさせたと常々思っている。

若者が体制に対して疑問を突き付けるということがなければ、社会は成長しない。安田講堂事件は、元々は医学部の不適切な処分に関する反対運動だったようだが、最終的には他大学の急進派まで巻き込んだ武力闘争になった。もちろん武力を使うことは適切ではないが、大学側が機動隊を導入するという決断をしたことが、その後のわが国の学生の活動に大きな制約を与えたことは否めない。

当時の幹部で唯一まだご存命の坂本教授が述懐されていたのが印象的だ。学生の、何故学問をするのか、という問いに答えられなかったと。そして安田講堂事件以降、学生運動は徐々に沈静化し、大学は職業訓練とモラトリアムの場と化し、そして志を持つ学生は稀になって行った。もはや国家のため、国民のため、世界のためという志をもつ東大生はどれだけいるのだろうか?

そのような悲観的な気持ちを大きく揺さぶる素晴らしいニュースが、小保方氏のSTAP細胞だ。30歳という若さにも驚くが、生物学会の常識を覆す大発見を数年前に実現し、ネイチャー誌の批判にもめげず継続して世界に認めさせたという粘りにも驚愕させられる。そして、周りにも多くの支える人々がいたのだろうと思う。

彼女の発言で感動するのは、百年先の人類のために私たちは実験を続けていくのだ、というような言葉だ。このような志を持つ若者がいることは、我々にとって大きな救いだと思うし、常識を覆す発想をもって、地道に努力を続けていくということこそが、若者への期待であり、それを支える一つが大学教育であり、社会なのだろうと考える。

なお、小保方氏の大発見について、相変わらず意味不明のプライバシーに踏み込んだ報道が行われていると感じている。どうやってこのような人物が誕生したのかというのは、もちろん関心を持つべきことだと思うが、それを不必要な取材と憶測で報道すべきではない。それこそ、限られた本人の発言や事実を、簡潔に淡々と報じ、それを一人一人の視聴者が自ら反芻して考えることが大事なのではないか?このようは報道のレベルの低さが知性の低下に拍車をかけている。

Comment(0)