シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

シリコンバレーの奇跡の生態系、個人が支える

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去年、安倍総理がシリコンバレーを訪問して以来、日本のシリコンバレーブームが本格化してきた。そんな中、スタンフォード大学で日本人対象のベンチャー関連カンファレンスが開かれた。かなりの数が日本から参加し、シリコンバレーの日本人ベンチャーキャピタリストやオープンイノベーションを推進しようとする企業の駐在員などが一堂に会した。私もスピーチする機会をいただいた。

私はシリコンバレーに移住して25年になるが、今回で日本のシリコンバレーブームは3回目だ。シリコンバレーの強さの秘密について毎回同様の議論が繰り返されるので、カンファレンスでは、あえて「間違いだらけのシリコンバレー理解」という挑戦的なテーマでお話しした。

シリコンバレーの特徴は多くの専門家が解説している。ベンチャー・キャピタル(VC)からの潤沢な資金、株式公開だけでなく大企業による買収によるエグジット、スタンフォード大学などからの人材供給と活発な産学協同、失敗に寛容な社会、などどれも素晴らしい話ばかりだ。

しかし、シリコンバレーは、人と金の流れが循環する奇跡のサイクルが見事なのであり、個々の事象だけで考えては理解を誤る。

リスクを追う起業家がリスクマネーをVCから調達し、成功すると巨万の富を得る。それがロールモデルとなって、次々とベンチャーに挑戦する人が現れる。運悪く失敗しても財務的・社会的な損失は少なく、再度チャレンジする人が多くいる。

一方、VCは、数多いベンチャー企業から厳選してポートフォリオを組み、VCの出資企業に大きなリターンをもたらしている。それにより、オルタナティブ投資として金融業界で認知されるようになり、VCの安定した資金調達が可能となった。

この循環の個々の事象はすべて「結果」であって「原因」ではない。循環が生まれて、個々の事象が進化してきたのだ。

例えば、シリコンバレーがまたがるサンノゼ市などの各市は「我々の市がシリコンバレーを作った」ようなことを言う。しかし、事実は逆で、ほとんどの市は急発展するシリコンバレーの新興企業に対応できず、さまざまな形で足を引っ張った。オフィスビルの建築許可の遅れなどはその典型例だ。そのような行政の無理解を改善するために、行政と産業が相互理解を深めようとJoint Venture Silicon Valleyという非営利団体が創設された。(私も微力ながら協力したことがある。)

このように、シリコンバレーは基本はすべて自主独立であり、人為的な施策がシリコンバレーに好循環をもたらしたという証拠はない。むしろ施策は後からついてくる「結果」なのである。

では、シリコンバレーの循環の根源はどこにあるのだろうか。それは「個人」だ。今、世界中に知られるようになったVCの仕組みも40年前まで存在しなかった。先進的で世の中を変えるようなインパクトのあるベンチャー企業の立上げを是非後押ししたい、という強い思いで自ら資金を投入し、周囲を巻き込んでいったのは個人だった。

後に世界最大の半導体製造装置メーカーとなったアプライド・マテリアルズは、ジーン・クライナーとトム・パーキンスが投資した。クライナーとパーキンスは後にVC会社を立上げ、現在のVCの礎を作った。これがシリコンバレーで現在最も有力なVCのひとつであるクライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤースである。その他にも、インテルに投資したアーサー・ロック、コンパックに投資したセビン・ローゼン、エレクロニック・アーツに投資したドン・バレンタインなどすべて個人中心なのである。(バレンタインの作ったセコイア・キャピタルは、現在世界最強のVCと言われる。)

シリコンバレーにいる日本人は、個人の顔が見える人材が多いように思う。自らの意思でこちらに移住して来たつわものはもちろんだが、駐在員でも個性的な人がいる。意外に思うかもしれないが、官公庁から駐在で来ている人にも自立心のある「個人」が多い。これらのシリコンバレーのサムライたちが、日本の未来を背負っていくことを期待している。

(日経産業新聞 10/20/2015)

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