オルタナティブ・ブログ > めんじょうブログ―羊の皮をかぶった狼が吠える >

シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

経済的自立が起業家を育てる

»

 シリコンバレーの中心にあるサンタクララ大学で起業論を研究している教授とのランチでこんな話題になった。「研究によれば、成功するベンチャー企業の創業者は、大学を出てすぐの若者よりも30-40歳代がむしろ多い」そうだ。学生の延長で創業されたヤフー、グーグル、フェースブックといった超成功企業の印象が強いが、多くのベンチャー企業が、既存企業で経験を積んだ30-40歳代前後の「働き盛り世代」の人たちによって興されていることにも注目すべきだろう。世界最大のeコマース企業となったアマゾンの創業者ジェフ・ベソスは30歳の時に起業したが、元々IT技術者だったベソスは、起業する前にはすでにヘッジファンドの技術担当役員になっていた。ベソスほどではないにしても、私の回りには40歳くらいで起業してそれなりの成功をしている人がたくさんいる。

 翻って、日本の働き盛り世代の人たちは、会社生活にどっぷり浸かり、長時間の勤務をしながら身を粉にして頑張っている。多くの人は家庭を持ち、子供の教育や家のローンで大変な時期だ。この状況では、リスクの高いベンチャー創業や新興企業への転職を考えるのは難しい。

 シリコンバレーの働き盛り世代はどうか。

 40歳くらいのアメリカ人の知り合いがベンチャー企業の立ち上げに失敗し、次の仕事探しで相談に来たことがある。「それは大変だ!」と私は大急ぎで就職口を探し、すぐに連絡した。彼からの返事はこうだった。「ヒロシ、ありがとう。これから友人のヨットでハワイへの航海に出ることにした。その間にこれからのことをじっくり考えようと思う。2か月後にまた連絡するよ。」

 収入が途絶えることに恐怖を感じずにじっくり考える時間があるのは、資産があるからだ。持ち家があり、ある程度の貯金と株などの金融資産を持っているから、じっくりと次のチャンスを見つける気持ちの余裕がある。このような経済的な自立が起業を可能にする。

 このような自立が可能な理由は、若い頃に稼ぐ道があるからだ。たとえば、ベソスのように金融機関でがむしゃらに働き若いうちに蓄財する、大企業で次々に昇進して幹部となり高収入を得る、成長期にある新興企業で働き給料をもらいながらストックオプションで利益を得る、など上昇志向の強い人にはいろいろと稼ぐ道がある。

 日本は、終身雇用と年功序列の仕組みがまだ根強い。終身での雇用を保証する代わりに、処遇のバランスをキャリアの後半から定年に厚みを持たせ、逆にキャリア前半では、仕事の貢献に比べて報酬を著しく押さえる仕組みになっている。高度成長時代には昇進というニンジンが一生懸命働く原動力となってきたが、低成長時代に入ってからは残業代のために長時間働く習慣だけが残ってしまった。未来の産業を引っ張るべき人材が、時間労働者の考え方に染まってしまうのはもったいない。

 小分けされた現金収入に異存する時間労働者の精神では、未来のために資金、知識、時間を「投資」する余裕はないし、新たなキャリアを外に求める余裕もない。自分自身の収入を自分の力でコントロールできる自立をもたらす仕組みに変えることが必要だ。それには、やる気のある若者にはより大きな仕事の機会を提供し、年齢に関係なく惜しみなく処遇すべきだ。例えば、20歳代でも役員並みのボーナスを与え、30歳代で事業部長を任せる、など思い切った転換が必要だ。こういうロールモデルが、働く人の意識を時間労働者的発想の呪縛から解き放す。

 若者の起業を促進することばかりでなく、仕事のできる若者を大いに処遇し、経済的自立を促そう。そうすれば、日本から再びソニーやホンダのようなベンチャー企業が出て来る日も遠くないだろう。

Comment(0)