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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

シリコンバレーで現代マーケティング理論を創造した男

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 シリコンバレーのベンチャーキャピタル銀座を言われるメンローパーク市サンドヒルロードにある宴会場で、先日同窓会が開かれ、300人ほどの卒業生が集まった。と言っても学校の同窓会ではなく、レジス・マッケンナ・インク(RMI)の同窓会だ。RMIは、「シリコンバレーを作った25人」のひとりと言われるレジス・マッケンナが1970年に創業したコンサルティング会社だ。私もRMIのパートナーとして、レジス始め多くのアメリカ人と一緒に仕事をした。レジスとは何度も日本に出張するなど深く関わり、今でも友人であるのは私にとって宝だ。

 本当のシリコンバレーの秘密を知るには、現在の姿だけでなく、シリコンバレーで先人がどう道を切り拓いてきたかを理解するのが重要だ。その意味で、RMIの同窓生の面々と旧交を温めるのは興味深かった。

 RMIの歴史には、レジスが引退する2000年までに大きく分けて3つの時代がある。最初は、1970年代のシリコンバレーの黎明期。レジスは、マーケティングの重要性を技術系の新興企業に説き、急成長を後押しした。インテルがマイクロプロセッサー事業に舵を切った時からインテルを指導し、市場展開にはマーケティング戦略が鍵であることを納得させ、インテルの現在の地位を築くきっかけを作った。その後、スティーブ・ジョブスに請われアップルのマーケティング戦略を主導し、巨人IBMに対抗するキャンペーンなどを演出。(因みに、アップルのロゴはレジスの指導でデザインされたもの。)マーケティングは広告宣伝や販売とは同義語ではなく、ユーザーエクスペリエンスを提供し、共感してもらう戦略であることを説き、技術系の新興企業でもマーケティングが重要だということを普及させた。今や、シリコンバレーでは、ユーザーエクスペリエンスを考えることは企業の常識となっている。

 1980年代から1990年代半ばまでは、現代の技術マーケティング理論の基礎が作られた時代だ。特に、革新的な製品は、市場の「インフルエンサー」(影響力のある人)からの伝搬で広がることを示した。そして、新しい製品を訴求する時に、アーリーアドプターと呼ばれる先進ユーザーからマジョリティと呼ばれる市場の中心的なユーザー層の間には「死の谷」または「キャズム」が存在することを示したのもレジスだ。その門下生であるジェフリー・ムーアがキャズムに関する著作を出版して一般に広まった。今でもキャズム理論はベンチャー企業や新規事業担当者の間ではバイブルとなっている。

 1995年、インターネットの商用化によりネット時代の幕開けとなり、それ以降企業と顧客の関係性が劇的に変わった。レジスは、それを「リアルタイム」と「双方向」というエッセンスで説明し、ネット社会でのソーシャルマーケティングを予言した。さらに、マーケティング活動はほとんどがネット上で行われるようになるだろう、とも予言している。21世紀に入ってから、ソーシャルネットワークとスマホが市場原理を完全に変えてしまったが、基本的なマーケティング原理は以前から既に議論されていた。現在のソーシャル系サービスの勃興は偶然ではなく、このように先人が築いた基礎が踏み台となっている。

 レジスに将来ビジョンが見えたのは、本人の感性ばかりでなく、多くの先進的なベンチャー企業と付き合っていたことが大きい。常に市場のフロンティアに立つことにより、人よりも早く未来を見ることができたのだろう。

 それでは、これからの10年はどうだろう?私は間違いなくIoT(Internet of Things; モノのインターネット)だと思う。あらゆるモノと人がネットでつながり、産業分野の垣根を越えてデータが繋がってくる。これは、新・産業革命と言えるほどの衝撃があるのではないか。レジスなら何と言うだろう。次に会う時に聞いてみよう。

(連載コラム「新風シリコンバレー」日経産業新聞 2014年10月21日)

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