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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

ものづくりのアクセラレータ現れる

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 最近シリコンバレーではインキュベータではなく「アクセラレータ」が大はやりだ。今までインキュベータとして運営してきたところもアクセラレータに衣替えしつつある。インキュベータは基本的にはオフィスの賃貸が主であるが、アクセラレータは一定期間で形あるベンチャー企業をスタートさせるためのサポートをする。文字通り起業を「アクセラレート」(加速)させるのが目的であり、イメージ的には寺子屋に近い。この分野のパイオニアであるYコンビネータや500スタートアップでは、一回の募集で数百社以上の応募があり、その中から20社ほどのチームが選定される。一社当たり数百万円の資金が提供され、3ヶ月みっちり起業に全力を投入する。最初のアイデアが途中で頓挫して方向転換することも珍しくない。こうして、最終日にピッチプレゼンテーションを有力VCの前で行う。このように驚くほど短時間に加速化された起業が可能になったのは、ソフトウェアの開発コストと時間が桁違いに効率化したことと、プロトタイプを市場で試す場がインターネット上で素早くできるようになったからである。VCとしても、切磋琢磨しながら短期間に磨きをかけた案件が多く輩出されるのは歓迎だ。

 では、アクセラレータの質はどこで決まるか?それはリーダーだ。優秀な起業人材がしのぎを削り、トップクラスのメンターが集うには、カリスマ性のあるリーダーが大事。Yコンビネータは元々プログラマーでソフトウェアエンジニアの間で絶大な人気のあったポール・グレアムが始めたし、500スタートアップはeBay出身のカリスマ、デイブ・マクルーアが立ち上げ、現在でも教祖のような存在である。

 そのアクセラレータがさらに進化しつつある。今まではクラウド上のアプリ開発が中心分野だった。最近、一見地味な企業向けソフトウェアを中心としたアクセラレータやハードウェアを開発するアクセラレータが出て来た。

 注目される新しいアクセラレータのひとつがアルキミストだ。大手VC出身で、スタンフォード大学でベンチャー創業の講義をしているラビ・ベラーニが始めたこのアクセラレータの特徴は、事業分野を企業向けソフトウェアに絞っていることとスポンサーにシスコやSAPなどの事業会社が控えていることである。企業向けであるので、最初から大手企業がスポンサーについていることは顧客のフィードバックを得る上で大きな価値となる。

 もうひとつ注目すべきは、ハードウェア分野のアクセラレータが出現してきたことである。例えば、ドラゴンイノベーションやレムノスでは工作機械を揃えてものづくり系の起業をサポートしている。さらに、日本にとって衝撃的なアクセラレータがある。ハクセラレータ("ハード+アクセラレータ")は、2012年に開始したものづくり専門のアクセラレータであり、中国の深圳とアメリカのサンフランシスコ(シリコンバレーに隣接)に拠点がある。実際の開発作業は深圳で行い、最終報告会はサンフランシスコで行う。その特徴は量産まで視野に入れた指導が含まれることだ。アメリカ人を始め世界中から深圳に集まり、100日ほどそこで寝食を共にする。その間、深圳に集結している多くの生産工場と交流が持てる。晴れて製品の生産が実現する場合、速やかに量産に移れるように指導している。このように、日本がお家芸と信じてきた「ものづくり」の分野でも、日本を飛び越してアメリカ(特にシリコンバレー)と中国の間で密度の濃い事業創造の活動が行われているのである。

 先月、東大発ロボットベンチャーのSCHAFTがグーグルに買収された。日本が誇るものづくり系のベンチャー企業が本国の日本で資金調達に苦労している間にアメリカのネット系企業が買収してしまった。日本は、今までの「ものづくり」信仰に安住することなく、シリコンバレーと日本をつないだ新しい形の「ものづくり」系のアクセラレータを真剣に考えるべきではなかろうか。

(日経産業新聞 2014.1.14)

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