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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

日本の産業イノベーションのために移民政策の見直しを

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 今、シリコンバレーが注目されている。日本からは、学生から経済団体まで様々な層の人が視察に来るようになった。実は、このような日本でのシリコンバレーブームは私の知る限り3回目だ。逆に「シリコンバレーを作った25人」に選ばれているレジス・マッケンナによれば、「シリコンバレーの時代はもう終わりだ」とメディアが騒いだことは、シリコンバレーの歴史の中で既に5回あるという。

 実は、シリコンバレーは、経済の好不況や世界からの注目度合いの波に関係なく、活動が継続され、そのエコシステムは常に進化し続けている。私がシリコンバレーでベンチャー界に身を置いて22年になるが、起業意欲や実際のベンチャー創業の活性度はあまり変わらず活発だと思う。どうしてそのような活力が維持されているのかについては、投資環境、教育環境の素晴らしさ、起業家への支援の仕組みの厚みなどがよく語られるが、その観察は間違っていないと思う。しかし敢えて極論すればそれらは結果であって原因ではないのではないか。起業が盛んで活性化されているから仕組みがついてくるのだ。では、シリコンバレーの活性が持続する真の理由はどこにあるのか?それは人にあると思う。もっと言えば、人の新陳代謝だ。

 シリコンバレーでは、エンジニアの3分の1は移民で、そのうち3分の2がアジア出身、経営陣の中に移民がいる技術系企業の割合は4分の1以上にのぼるという。大成功した移民も少なくない。サンマイクロシステムズ、ヤフー、グーグルの共同創業者は、それぞれインド、台湾、ロシアからの移民だ。まさに現代のアメリカンドリーム。世界のそれぞれの国で優秀でなおかつ起業家魂のある俊英がシリコンバレーに続々と集まって来る。強烈なハングリー精神を持った彼らは、創業者としてばかりでなく、急成長するベンチャー企業をモーレツ社員として支えている。同じ人ばかりが滞留していると人材はだんだん陳腐化してくる。そして既得権益を守る側になりがちだ。新しいハイテク移民は、既存のベンチャーコミュニティーに緊張感を与え、シリコンバレーの弛まぬ変革を促進している。その流れに対して足を引っ張り始めているのが就労ビザの問題だ。

 移民の国アメリカと言っても外国人が就労ビザを得ることは並大抵ではない。起業家が一番取得し易い投資家ビザ(E-2)では最近では数千万円の資金の用意が必要でハードルが高い。エンジニアなどに適した専門職ビザ(H1-B)には毎年の割当数が決まっている。今年の割当は65,000人であるが、それに対して申し込みは124,000人あったという。急成長に合わせて人を増員していく技術系ベンチャー企業にとって、ビザの問題は死活問題となっている。そんな中で「スタートアップ法3.0」法案や「移民刷新法案」が今年始めに米連邦議会に提出された。資金調達や米国での雇用などの一定の条件を満たした外国籍の起業家に毎年75,000人に就労ビザを発行する案(前者)やH1-Bビザの発給割当を11万5000に増やそうというもの(後者)。さらに、前者の法案では、外国人がアメリカの大学で技術分野の修士・博士号を取得しその後5年以上その分野でキャリアを積んだ者に年間50,000人分の移民ビザ(永住権)を発給するという。法案が通るまでにはまだ紆余曲折が予想されるが、党派を超えた動きは注目に値する。この問題はシリコンバレーがグローバルなハブとなっている証左でもある。

 翻って、日本に留学する年間14万人の外国人のうち技術系は2万人強。卒業後日本で就労ビザを取得する技術系留学生の数は推定3000人ほど。日本人の若者がますます少なくなる中で日本が活性化するためには、人の問題は避けて通れない。優秀な技術系留学生に永住権を与えるなど、移民政策の大胆な見直しは待ったなしではないだろうか。

(日経産業新聞 2013.12.2)

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