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インドネシアでの新幹線の失注について

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shinkansen.jpg先月駆け巡ったニュースの中にあった一件について、「惜しかった」と思った国民も多かったのかもしれません。

インドネシアでの高速鉄道の入札において、日本の新幹線が採用されずに中国が受注した例の件です。

この件については、当初、日本側提案の新幹線が採用される可能性が取り沙汰されていましたが、土壇場でフタを開けてみたら、中国側が逆転勝利を収めたのでした。

背景にどんな政治的な判断が、インドネシアの新大統領を中心としてあったかも一部では書かれていましたが、真意はわかりません。

気になる点として今回取り上げたいのはむしろ、日本勢が敗退した後に官房長官が発したコメントについてです。

ちょうど、ソフトブレーン創業者である宋文洲氏の意見が参考になると思ったので、ご紹介したいと思います。
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「理解しがたく、極めて遺憾である」とか「まったく常識では考えられない」と批判したのです。受注に失敗した側が顧客の判断を「理解できない」「極めて遺憾」「常識がない」と批判するとはどういうことでしょうか。

政治問題ならわかりますが、発注側の顧客に向かってこれらの言葉を吐くとはまさに「常識がない」行為であり、顧客のニーズや気持ちを「理解できていない」証拠です。受注に失敗して当然でしょう。

良い物が売れるのではなく、売れる物が良いもの。売れないのに物がいいと自慢する経営者には必ず共通点があります。それは、

(1)顧客のことを「神様」と祭り上げながら上から目線で自社の技術力や品質ばかり強調して顧客に押し込む

(2)競合製品との勝負には熱心なくせに、製品を離れて顧客の悩みを深く掘り下げる努力をしない

などの顧客中心ではなく、自己中心の姿勢です。

私は日中間の高速鉄道の技術や品質の差を知りませんが、乗った感覚としては中国の高速鉄道は新幹線よりもっと揺れが少なく静かです。初期に事故も有ったのですが、むしろそれがきっかけで管理が厳しくなり安全性が格段に上がりました。高温酷寒など様々な環境の下で、日本の約10倍の高速鉄道網をよくもこんな短期間にスムーズに製造し管理できるようになったものです。

9月17日、ロサンゼルス-ラスベガス間の高速鉄道を2011年に建設許可を得たXpress West社が中国の高速鉄道を採用すると発表したため、一旦迷走したインドネシアの高速鉄道は急速に中国方式に決まりました。

それでも日中間の技術差があったとしても、顧客のインドネシアはあくまでもそれを承知の上、自分の都合で総合的に判断したはずです。「理解できない」「常識では考えられない」とは「私を選ばないあなたは常識がない」と言っているのです。
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以上が同氏の語った文面です。
私はなぜこの文章を紹介したのでしょうか?
それはもちろん、官房長官の発言が気になったからではありますが、それだけではありません。

我が国の新幹線の性能は確かに世界でも希有ですが、今回のように失注したのには理由があるということです。非常にいい製品だからといって必ず受注できる保証はどこにもなく、お客さまが何を求めているのか?を知ることが一番大切だということです。

さらに、新幹線の優位性は今のところ間違いありませんが、中国の高速鉄道の性能も確実に上がっていて、格下だという評価は戒めないといけない、もっと我々は検挙にならないといけないということです。




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