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中国の新たな仕掛け

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china.jpg中国は、GDP(国内総生産)の今後の伸びの予想が7%前後まで落ちてきたことばかりが強調され、経済の勢いはピークを越えてしまい、失速していくだけだ、という意見もある中、それでもまだ高い経済成長率を保持し、何より日本を追い越して米国に次ぐ世界第二位の経済大国に躍り出たことは、紛れもない事実であり、決して過小評価してはいけないことです。

一方で、国の規模は桁外れに大きく、巨像と言われる所以であり、国家としての運営・舵取りには相当な困難が伴い、共産党による一極体制と資本経済の両立というもう1つの側面からも想定される習国家主席を中心とした指導層が、あの手この手で大きな像を動かそうとしていることが、政治には素人の私にも容易に想像ができます。

今回は、現在の中国の置かれている状況を交えながら、進もうとしている方向性について最近あまりにも大きな話題となっているトピックを含めて、少し論じてみたいと思います。


そのトピックとは、言うまでもなくAIIB(アジア投資銀行)のことです。
筆者はこの新しい銀行について、国際政治、外交分野での解説を詳細に試みることは専門家にまかせるとして、要点を絞ってビジネス経済分野への影響についてご説明をしたいと考えています。

中国にとってAIIBの設立を主導することは、明らかに国際政治経済の分野で自国が中心となって特にアジア地域ではリーダーシップを発揮していきたい、という強い意志表示だということに疑いはありません。

なぜそうしたいのか、そうしないといけないのかは、グローバル経済における中国の置かれた状況に閉塞感があるからです。

つまり、先進国のグローバル企業を中心として我先にと競って製造拠点の設置が進み、目当てである安い労働力を獲得して自社製品を低コストで生産する流れが近年ではスタンダードになっていました。

ところが、中国側からするとただ単に国民は安い人件費で、時には問題になるほどの過重労働を強いられ、人々の不満は安い賃金も相まって募るばかりになってきました。

問題はこれだけではなく、これまで安かった中国の人件費も最近では高騰ぶりに拍車がかかり、あと数年で米国の賃金水準を追い抜くほどまでに高くなる、とまで指摘されるようになったきたのです。

これによって、次に発生してきたのが、低賃金というアドバンテージを失った先進国のグローバル企業たちがチャイナ・プラス・ワンと呼ばれるような、中国以外のもっと人件費の安い国を探し始め、動きの早い企業からすでに中国からの撤収が始まっているという事象です。

中国側からして何が困るかといえば、海外の企業が始めた製造業から一番欲しかった製造ノウハウなどの機密事項を取得することなく、撤収が始まってしまうことによって、手元には何も残らない、ただ単に国民による安い労働力を活用されただけ、に終わってしまうことです。

今でこそ世界一の人口を擁する中国ですが、80年代に始まった一人っ子政策によって、労働人口の増加は頭打ちを迎えます。信じられないでしょうが、あれだけ多い人口も今後はあまり増えなくなってしまうのです。

それでも13億人という人々が暮らしている国ですので、旺盛な消費、分厚くなってきた中間層による購買力は桁はずれです。

ちなみに、14年の訪日外国人の旅費消費額のデータをご紹介すると、1位は断トツで中国であり、5583億円で前年の約2倍にもなり、シェアも19.5%→27.5%に伸び、1人当たり23万1753円(同10.4%増)を使った姿はとても頼もしくあります。

しかしこういった一面は、外国にとっては有り難いのですが、中国側からすると財が国外に出ていく一方で、全く面白くない訳です。

筆者が習近平を中心とした指導部の心情を察するに、世界の企業から安い労働力が散々使われ、ようやく得た賃金によって膨らんできた中間層は、国内での輸入品ばかりにお金を使い、または海外への買い物旅行でお金を使い、最悪、最後には先進国になる前に力が尽きてしまう、という迎えたくないシナリオを恐れているのかもしれません。(実際に、中国は先進国になる前に人口ボーナスが終わるという見方あり)

中国は世界の中で、特に経済分野で強い影響力を及ぼす本当の意味での大国になりたいのであり、今回のAIIBはそんな強い欲望を表す一手だったのだといえるのです。

ただ、我が国の経済やビジネス環境への影響は今のところは軽微だと予想します。ご存知のように先月末までが期限だったAIIBへの初代設立メンバーへの参加は見送りましたが、日本が主導権を握っているADB(アジア開発銀行)との共存は可能だと言えることがその根拠です。

あくまで筆者の意見ですが、AIIBへの参加を焦る必要はないと考えます。
理由は、今でも、さらに将来もしばらくは米国が世界一の影響力を保持し続けると予想できるからです。

根拠は米ドルの強さを見れば一目瞭然です。

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