オルタナティブ・ブログ > 公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」 >

コンサルティング業務に従事する公認会計士が、最新ニュースから電車の中吊り広告まで、ビジネスパーソンの雑談の手助けになるような「ロジカルネタ」を提供します。

【書評】「99%ありがとう ALSにも奪えないもの」

»

こんにちは。今日もお読みいただき有難うございます。


今回紹介する本は、11月21日に発売された「99%ありがとう ALSにも奪えないもの」です。

著者の藤田正裕さん、通称「ヒロ」さんは外資系の広告代理店に勤務しています。が、30歳のときに身体に異変を感じて検査を受けたところ、医師から「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を宣告されます。

ALSは一言で言うと「徐々に体が動かなくなる病気」です(詳しくはお調べください)。10~20万人に1人という割合で発生する難病で、根治する方法は見つかっていません。

身近なところでは、マンガ「宇宙兄弟」でも、ALSで父親を失った女性宇宙飛行士が出てきたり、ストーリーのひとつの要所として用いられている病気でもあります。


そんなALS患者の著作です。

 

 

本、というより日記。

ヒロさん(と、呼ばせていただきます)が冒頭で書いている通り、この本はどちらかというと、ノンフィクションやルポ、あるいは自伝ではなくて、あくまでも「日記」のようなスタイルでつづられています。

自伝などの場合、ひとつの伝えたい「軸」があって、それに沿った肉付けを時系列順に行っていくのが通常ですが、ヒロさんは幼少期からごく最近までの出来事を、その日その時感じた言葉でそのままつづっています。だから「軸」をあえて定義するなら、ヒロさん自身の「ありのままの生き様」ということになるだろうと思います。

日記というのは書いてみれば分かりますが、その日その時の喜怒哀楽で全く表情が変わるものです。この本もまさにその色とりどりがそのまま紙面に落とされています。

著名人の自伝では「常に前向き!」「ブレない心!」そういうものが描かれがちですが、この本では普通の男性の「前向きだったり後ろ向きだったり」「明るかったり暗かったり」そういう揺れ動きを追いかけることが出来ます。

 

 

ALSが特別、というより、日々がもれなく、特別なのだ

ヒロさんがALSを発症したのが30歳のとき。で、この本では「発症前」と「発症後」がだいたい半分ずつのボリュームで書き分けられています。

読者としてこの本を手に取ったとき、やはり気になるのは「発症後」のことだろうと思います。そして、ヒロさんがALS患者になってから感じた「友情の大切さ」「病の残酷さ」「それでも、生きるということ」・・・。それらが綴られたそれぞれのページには、確かにずっしりとした重さがあり、色々なパワーを受け取ることが出来ます。

で、本の前半は患者になる前の、ヒロさんの幼少期~青年期の日々がつづられています。

ドラマであれば、それは、「病気によって奪われた彩りあふれる日々」として描かれるところだろうと思います。

しかし、ヒロさんが書いていることは実は全く逆で「病気でも奪えない、ヒロさんの『今』を作る要素」としての、過去の自分。

この本の副題はまさに「ALSでも奪えないもの」。筋力を奪っていくALSという病気でも奪えない、ヒロさんという「個」にしっかりと根付いているもの。それを象っているのが、30年間の(そして現在も続いている)日々なんだろうと思います。

私たちにとっては、それはまさに現在進行中で進んでいる「日常」。その尊さが、染み入るように伝わってきます。 

 

だからこそ、考えるのは「自分だったら・・・?」ではない。

障がいや病気を抱えた人の手記を読むとき、どうしてもやってしまうのが、「自分だったらこんなに強くいられるだろうか・・・?」ということ。

でもヒロさんの日記は、必ずしも強くない自分がしっかりと書かれているから、それを考えずにいられるのです。いやむしろ、この本を読みながら自然に意識が向くのは、「自分だったら・・・」という仮定ではなく、「等身大の自分」のはずです。

もっと言えば、読者に去来する問いかけは、「仮に病気になったら、強い自分でいること」ではなく「今ここにいる自分がもっと『ありのまま』で在ること」だろうと思います。

  • 自分とは何者なのか。
  • 誰に囲まれて生きているのか。
  • どんな日々を謳歌しているのか。
  • そして、どんな未来を夢見ているのか。
  • 何に笑い、泣き、怒っているのか。


そうやって、ひたすら自分を見つめたくなる本です。是非、手にとってみてください。

Comment(0)