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通勤手当は存在自体が不公平である、あるいはワークアウトで会社を作るということ

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★会社を変革するツール
ワークアウトという意思決定ツールをご存知だろうか?僕は随分前に「GE式ワークアウト」という本を読んで、自分の会社でもやってみたいと思っていた。

簡単にどんなものかを説明しよう。

・有志が1日集まって「会社を良くするための提案」を作る
・1日の最後に組織の最終意思決定者(例えば事業部長や社長)に対して提案プレゼンを行う
・提案に対して、意思決定者はその場で「Yes/No」を意思表明しなければならない

本では、有名なGEの「業界No1かNo2のビジネス以外は撤退する」というルールをやめるべき、という提案があり、ルールが実際に廃止された事例などが載っていた。(No1かNo2に見せかけるために、業界を無理やり小さく定義して、ビジネスの成長を阻害していたため)
そこまでダイナミックでなくとも、ちょっとした無駄業務の廃止提案など、社員が発案して会社を良くするための仕掛けとして優れていると思う。

ウチの会社は、ワークアウトがなくとも社員の提案でいろんなことが変わってきた。基本的に言い出しっぺが尊重されている会社だと思う。年に1回、1泊2日で全社オフサイトと称して合宿所にこもり、自分たちで会社を作るための議論をし、そこから新しいものが生まれてきた。(例えば、オフィス移転も2年前の全社オフサイトでの提案がきっかけになっている)

だが社員数が100人を越えて、残念ながら「こうしましょうよ」と気軽に言える雰囲気は流石に薄れてきたように思う。少なくとも「新入社員であれ、ベテランであれ、会社の皆に対してどんどん提案して良いんだよ」というスタンスを示し続けるために、ワークアウトをやってみることにした。
当日は全部で4つのチームが参加したのだが、
・文書管理のあり方を見直す
・中途採用の方針を変える
などなど、バリエーションに富んだ提案になった。

僕はかれこれ10年くらい前から考えていた「通勤手当を全社員同額にする」というテーマでチームを組んで参加した。一応経営者なので、別にワークアウトという場で提案する必然性はなかったのだが、社員全員の待遇に関することなので、広くオープンに議論したほうがいいテーマだと思ったからだ。チームには、実務の責任者である経理担当者や同額になった時に損害が大きい長距離通勤者などがあつまり、何のためにやるのか?どうすれば受け入れられるのか?具体的にどういう制度にするか?を議論した。


★通勤手当って存在自体が不公平である
僕は郊外に住んでいるので、他の社員に比べると通勤手当を多めにもらっている。これ、よくよく考えるとおかしいと思うんですよ。
思考実験として、以下の2人を想定してみよう。

Aさん
・赤坂在住のため、会社まで徒歩。通勤手当は0円
・家賃は20万円(ウチの会社は家賃補助なし)
⇒負担は「家賃20万円+通勤0円-通勤手当0円=20万円」

Bさん(例えば白川)
・町田在住のため、会社までバスと電車。通勤手当は5万円
・家賃は10万円(赤坂よりずっと安い)
⇒負担は「家賃10万円+通勤5円-通勤手当5円=10万円」

Aさんの方がBさんよりも負担が大きい。それよりも問題なのは、会社として、Bさんに対してたくさん報いる給与制度になっていること。家賃補助がないのに通勤手当だけあるから、結果としてBさんへの待遇を良くしている。
Bさんは緑豊かで保育園に通わせやすいという私的な理由で町田に住んでいる。それは尊重されるべきなので好きにすればよいが、会社としてAさんよりもBさんを優遇すべき理由はなにもない。会社の都合だけを考えれば、通勤が楽で元気に働ける可能性が高いAさんの方を優遇してもいいくらいなのに。
どちらにせよ、「通勤に便利」or「緑豊か」のどちらを大切にするのかは個人の価値観に委ねるべきで、会社が口を出したり待遇に差をつけるのはおかしい。好きにすれば良い。

なぜ僕らの会社は(そして世の中の殆どの会社は)、家賃の全額を補助しないのに、通勤費は(ほぼ)全額補助するのが当たり前だと思いこんでいるのだろうか?ゼロベースで考えたら、こうはならないはずだ。単に世間に流されているだけだ。
僕はこういう思考実験を経て、通勤手当を支給するほうがむしろ、社員同士が不公平になると考えるようになった。


★利益分配型組織とPay for performance
こういう議論を展開すると「通勤手当って福利厚生なので、会社が払うのは当然の義務でしょ」という反論がくる。まあ、給与を「資本家から勝ち取る労働者の権利」と考えている人はそういう主張をするんでしょうね。だが、ウチの会社は「社員みんなが稼いできたお金を、貢献度に応じて分配する(もちろん株主にも分配する)」という会社だ。単なる理念ではなく実態としてそうやってカネを配っている。業績が良ければ分配額は増えるし、悪ければしょっぱい額を皆で分け合う。
そういう会社なので「会社から、貰えるだけぶんどる」というマインドは、そもそも実体にそぐわない。だからこそ、大事なのは「社員間で分配する時の公平性と納得感」となる。だから「Pay for performance」という考え方で、貢献度と給与はかなり厳密にリンクさせてある。そういう価値観からすると「遠いという理由でたくさん手当が貰える」というのは、かなり不公平なのだ。いくら世の中一般がそうだったとしても。
(余談だが家族手当的もない。家族がいること自体は、評価や待遇に対して有利にも不利にもならない。Pay for performanceなので、仮に「家族がいて仕事のやる気が高まる」という社員がいるなら、その結果パフォーマンスが高くなるだろうから、それを評価するだけ)


★経費申請に時間を使うことのバカバカしさ
僕らはお客さんとともに変革プロジェクトを成功させるために、日々汗を書いている。当たり前だが、経費申請をやるために仕事している訳ではない。プロジェクトの成功に寄与しない時間は、ゼロに近づけるべきだ。
なので、経費申請をしないで済む制度にする。毎月固定金額を支払う制度にすると、いちいち申請しなくて済む。

僕らはお客さんと一緒に業務改革/効率化のプロジェクトをよくやる。
効率化のためにITを使ったり、制度をシンプルにするが、一番いいのは仕事をなくすことだ。だが「いままでやっていた仕事をバッサリやめる」という決断ができる日本の会社はほとんどない。
コンカーなど、経費申請を効率化するためのパッケージソフトはいくつかある。ウチの会社のシステムもちゃんと乗換案内みたいなものと連携しているので、ある程度は楽ができる。でもどんなによくできたITも、「そもそも経費申請しなくていい」にはかなわない
そういう方法があるなら、僕らが率先してやってみて、うまくいくならお客さんに教えてあげるのってコンサルティング会社としてはあるべき姿のような気がする。


★変わることを楽しもう!
お客さんでの変革プロジェクトをリードするのが、僕らの仕事だ。いわば普段は「変える側の論理」にどっぷり漬かっている。だが、変えられる側の経験をすることはかなり稀だ。

通勤手当を一律化すると当然、今に比べて損する社員も出てくる(もちろん得する社員もいる)。例えば(僕のように)郊外に住んでいるとか、(僕のように)しょっちゅう会社と客先を往復するような社員は、他の社員よりたくさんの通勤手当と交通経費を受け取っている。それが全社員で一律化すると、受取額は当然減ってしまう。
こういう社員にどう配慮すべきか?また当人はどんな気持ちになるのか?どういう説明をすれば納得するのか?などなど、変革される側の経験は組織全体にとって大変貴重だと思うのだ(多少感情的なもつれがあることも含めて)。そういうことをマネージして成功に導くのが僕らの本業なのだから。

ウチの会社はフラットに意見を言えるだけに、何かを変えようとすると意外と反対意見も多く集まる。お客さんとのプロジェクトでは変革を推進する側なのに。
異論反論がバンバン出る組織であり続けるのと同時に、「変える提案が出たら、うまくいくか分からなくてもとりあえず変えてから考えよう。問題あるなら戻してもいいし」というくらい、変えることへのフットワークが軽い会社でありたい。

実際、本件についてはありがたいことに、自分自身多少の損得よりはPay for performanceの原則を大切にしたり、経費申請しなくて済むことを歓迎する社員が多いみたいだ。お金に関わることなので、もう少し議論は続くかもしれないけれども。


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ここから先は蛇足だが、僕らがどんな制度にしようとしているのかを参考までに書いておく。
今現在の制度は、通勤手当と交通経費を支払う、極めてノーマルな制度。

今後は以下のような制度に変更しようと考えている。
・全員一律の交通経費を決定し、支給する。
・経費総額を削減する意図は全くないので、一律の金額は全社員の平均にする
・(遠方への出張を除き)交通経費は一切申請しない
・遠方かどうかの判定基準は、関東の場合「武蔵野線/南武線ラインの外側の客先は経費申請可能」とした
(例えば丸の内の古河電工さんに行くなら申請できない、日野の日野自動車さんは外側なので申請可)
・煩雑なので書かないが、通勤手当と経費では税金の考え方が違う。課税分と非課税分を法律に従って仕分ける

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会社のITはエンジニアに任せるな! ―――成功率95.6%のコンサルタントがIT嫌いの社長に教えていること
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