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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

「ドラえもんがいなくなったのび太」がどう戦略をやり遂げたのか?あるいはファシリテーションの無限の可能性

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フコクしんらい生命保険という会社がある。僕らのお客さんだ。
この会社で僕らは、全社戦略の立案をファシリテートした。

僕は、企業を変革する時に、「ファシリテーション」という考え方が非常に有効だと思っている。それを示す、完璧な事例だった。
少し長いストーリーだが、読んで欲しい。


★あるグラフ
最初にこのグラフを見て欲しい。何のデータかは秘密だが、景気よく業績が上向いていることは見て取れると思う。

この記事で取り上げる戦略の成果だ。もちろん、これは戦略の一歩でしかないのだが、まずはホッとしている。

実績グラフ.jpg



★2012年9月:この会社にいま必要なことは?

フコクしんらいは、とても小さな保険会社だ。社員数250人ほど。
だが、僕に声をかけてくださった時、社長は社内のコミュニケーションが活発ではないことに悩んでいた。

理由はいくつかある。
営業、事務、資産運用・・・職種ごとのプロが集った集団だったこと。出身母体が様々だったこと。
小さい組織にも小さいなりに、コミュニケーションの悩みはある。


もう一つの大きな課題として、これから会社が進む方向、つまり戦略を見定める必要もあった。
もちろん会社設立当初からのミッションはあり、それはぶれていないのだが、「では、どうやったらミッションを達成できるのか?」という道筋が示されていなかったのだ。

そういう状況で僕が提案したのは、こんなプロジェクトだった。
・部門目標を集めても全社戦略にはならないので、会社全体で考えること
・だから、検討チームには部門横断で中堅社員を集めること
・誰かから戦略を与えられるのではなく、社員から引き出して練ること
・合宿を中心に、徹底議論すること
・コンサルタントは思考の底上げやファシリテーションに徹すること



★2012年11月:激論の末、戦略を見出した

このプロジェクトは、当初の想定以上に盛り上がった。

戦略のインプットにするために顧客の声を聞きに行ったり、「よき戦略」についてレクチャーをしたり、プロジェクトメンバー全員が「自分なりの戦略ストーリー」を練ったり、葉山の合宿所で夜まで議論したり、役員にぶつけるためのプレゼンテーション資料を作ったり、戦略の裏を取るために改めてデータにあたったり・・。


結局、戦略立案プロジェクトからは、2つの戦略ストーリーを役員会に上申した。
受け取った役員はまたまた合宿所にこもり、どちらの戦略ストーリーを採用するかを徹底議論。
採用する戦略ストーリーが決まった後は、会社としてそれを実行するための組織や人事を詰めていった。

僕らケンブリッジは、これらの議論をファシリテーターとして支えることに徹した。もちろんプロとしてアドバイスはしたが、あくまで「自分達はこの会社をどうしたいのか?」を考えだし、表現したのは中堅社員の皆さんだ。


会社設立以来、がむしゃらに走ってきたこの会社で、これからチャレンジする方向を示すことができたのは、大きな成果だった。
「自分たちに戦略立案なんてできるのか?」と半信半疑で取り組んできたプロジェクトメンバーの皆さんも、打ち上げでは何かをやり遂げたような、ホッとしたような顔をしていた。


全社ミーティングで戦略の発表と質疑応答。
そして年末のクリスマスパーティでは、戦略を作り上げたチームの奮闘ぶりを振り返る(ちょっと感動的な)動画が流され、「これから会社を上げて取り組むぞ」という思いを確認しあった。

しかし、戦略を立てることと実行することは、全く別の仕事だ。
キラキラして見えた戦略を、やり切るのがどれくらい大変なことなのか、これから2年かけて思い知ることになる。



★2013年1月:戦略組織は立ち上がった。が...

戦略を実行するため、戦略組織が作られた。
中心メンバーは菊池さんという中堅社員。この方は、戦略立案プロジェクトにもっとも意欲的に取り組み、戦略の細部を詰めた中心人物だった。

もちろん「戦略を立てる人=戦略を実行する人」のほうが、変革はうまくいく。戦略意図への理解の深さが違うし、「何としてもこれを実現する」というモチベーションは、戦略を作った人が一番高いからだ。


戦略立案後、戦略組織のミッションや実行計画を立てた時点で、僕らコンサルタントは去ることになっていた。
もちろん、戦略実行を最後まで見届けたいという心残りはあった。ただ、「ここから先はケンブリッジさんには頼らずに、自分たちでやり切る」という言葉もあり、「菊池さんが戦略組織に入ってくれるなら」と、お任せすることにした。

もちろん、戦略組織には菊池さん以外にも、素晴らしいメンバーが集められた。そのスジの大ベテランで社員からの人望も厚い方が部門長として。戦略組織のミッションと同じ事を、独自にバリバリやって実績をあげていたエースも参加してくれた。
役員合宿で、戦略を本気で実行する枠組みを練っただけの事はあり、これ以上は望めないというメンバー構成だった。



★2013年4月:「ドラえもんがいなくなったのび太」の苦闘

しかし、戦略があり人が集まればすんなり進む訳ではない。
社内の関係部門に「これが全社戦略だから、実行に協力して」とお願いした所で、その部署なりの経緯や都合がある。ざまざまな理由で協力してくれないことも多かった。
顧客はもちろん、こちらの戦略にかける思いなど、お構いなしだ。いいと思えば買うし、思わなければ買わない。そっけないものだ。
簡単にいえば、当初考えていたよりも、世間は厳しかった。

菊池さんによると、「4つの辛さ」があったという。
自組織の辛さ。
他部門との辛さ。
全社の辛さ。
市場の辛さ。
外部環境である市場の辛さはともかく、せめて自部門くらいは一枚岩になろうよ・・。


この頃、飲みに行くと菊池さんが言っていたのは、「僕なんて、ドラえもんが未来に帰っちゃった後の、のび太みたいなもんですよ」という愚痴だった。

ドラえもん(ケンブリッジ)に頼って戦略を立案し、戦略組織の活動計画を立てたはいいが、いざ実行する段になると、現実の壁にぶち当たる。もう一度頼ろうとしても、もうドラえもんはいない・・。

そんな弱音を吐きながらも、実際には菊池さんは行動を止めなかった。
部下を教育し、社外に飛び出して顧客と議論し、ベテラン達と青臭い議論を重ねた。

ようやく組織としてやりたい事がすり合い、メンバーの得意領域を活かした役割分担がしっくり行き、One Teamとして動き始めたのは、組織が立ち上がってから、半年ほどが経過した後のことだった。

まず、戦略組織の腹が決まり、ものすごく泥臭い活動を続け、学んだことを整理して誰でも実行できるように整えて...。



★2014年4月:1年後のブレイク

ついに圧倒的な成果が出始めたのは、僕らケンブリッジが参加して戦略を立案してから、1年がたった頃だった。
一度勢いがつけば、そこから先は速かった。


今では、戦略組織は解散している。
「新しい、特殊なことをやっている奴ら」という目で見られていた戦略組織の成功により、彼らが全社のスタンダードになったからだ。
戦略DNAは全社に広がった。
まさに、揶揄ではなく文字通りの「発展的解消」というやつだ。



★戦略立案における、ファシリテーションの有効性

終始、このプロジェクトをリードした菊池さんは

戦略で重要なことは、浸透させること。
こちらが「伝えた」ことと、「伝わった」ことは別もの。
言い続けることの重要さを思い知りました。

と言っている。


多くの人を巻き込んで新しいことをやる時、結局鍵になるのは、
・いかにかっこいい戦略を立てるか
ではなく、
・いかに人を巻き込み、実行しきるか
なのだ。

普段、僕はコンサルタントとして、この「ひとを巻き込んで実行しきる」ところまでを支援することが多い。
中途半端に支援すると、やりっ放しで萎えてしまうことが多いからだ。

しかし、この、フコクしんらいでのストーリーを改めて菊池さんから聞くと、コンサルタントが前面に出過ぎないのは正解だったと思う。

誰かに押し付けられたのではなく、自分たちが考えた戦略だということ。
自分たちで「なんとか実現させたい」と願っていた戦略だということ。

ファシリテーションというコンセプトの下、当事者を巻き込み、議論を積み重ねたことで、このようなマインドまでもっていけた。
新しい取り組みの常として、立案した時には考えもしなかった苦難が待っていたが、現実を反映させながら戦略を変えていくことができた。
これも、自分たちで作った戦略だからこそ、できたことだ。

僕らコンサルタントは、そのための地ならしをしたに過ぎない。


ちょっと勉強熱心なビジネスパーソンのほとんどが、ファシリテーションという言葉を知るようになった。「会議をうまくやる技術」と理解されていることが多い。

しかし、ファシリテーションは司会や議事進行とは別の概念だ。
辞書を引くと「促進する」と書いてあるが、ほとんど意味不明。
例文などを読むと「ものごとを円滑に進める助けをすること」というニュアンスが読み取れる。

会議での合意を円滑に作ることを、「会議をファシリテートする」と言う。
組織が力を発揮できるようにするなら「組織ファシリテーション」だ。
プロジェクトを前に進めるのは「プロジェクトファシリテーション」だ。

そう、ファシリテートする対象は何でもいい。
このフコクしんらいでのストーリーは「会社全体の変革ファシリテーション」のとても良い事例だと思う。



★もっと詳しく、菊池さんの話を聞いてみませんか?

この戦略立案から実行までの苦難のストーリーを、「ケンブリッジプロジェクトファシリテーション研究会(CPFA)」という勉強会で発表したところ、大変反響がありました。
いろんな会社の方から「ウチの会社でも今度合宿で議論しよう」といった声があがったり。
そこで、もう少しオープンな場でも事例を公開する許可をいただきました。


当時の資料や動画をそのままお見せして詳しくお話する上、菊池さんとケンブリッジによる、当時を振り返っての「今だから話せる、当事者苦労話」も盛り込みます。
菊池さんのオープンでキレのいいトークに期待してください!
(のび太とかいいながら、話はめちゃうまいし、イケメンです)

ご案内は下記ページから。
https://www.ctp.co.jp/events/index.html


最初にご用意していた席があっという間に満席になり、「あー、ブログにURL載せんのやめよっかなー」と思ってたんですけど、広い部屋に変更できたみたいです。

ちなみに、フコクしんらい事例紹介のセミナー以外にも、
「ケンブリッジの方法論をなんでも教えちゃうから、よく来場者からいいの?と心配されます系のセミナー」
も沢山ご用意しました。合わせてご参加お待ちしてます。

ちなみに、こちらも1月、2月分は満席が多いみたい。同じテーマの3月分はまだ余裕があるらしい。おいでませ。

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