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リーダーシップと人間性が無関係な実例、あるいはジェフ・ベゾス果てなき野望

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「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」を読んでいる。

本、オモチャ、クラウドサービスなど、アマゾンのサービス開発の歴史をひたすら追った本。500ページかけて淡々と進むので、途中で挫折する人も多いと思う。僕はこういう本を丁寧に読んで思考を疑似体験するのが好きだから、あまり苦にはならない。時間はかかるけど。

さて、この本で印象的なのは、ジェフ・ベゾスがかなり嫌なヤツだということだろう。
例えば、クラウドサービスを開発中のこと。無限の拡張性を求めるベゾスに対して、「予想外の需要があったらその時に対策を考えればいいのでは?」と口を滑らせた担当者に対して、ベゾスは・・

「私の方に身を乗り出してこう言ったんです
『オレの人生を無駄遣いするとは、どういう了見だ?』と。
その後、お前はダメ人間だと長々叱られましたよ。」


これはすごい。「俺の人生」ときた。つまりベゾスにとって、アマゾンで働く人々は「俺の人生の野望を達成するための駒」にすぎない。そう思っているだけじゃなくて、面と向かって言うところがすごい。
(ちなみに、「俺の人生を無駄遣い」というフレーズは他の場面にも出てきたので、お気に入りの罵倒語なのだろう)

リーダーシップの教科書には、「部下にとって、自分の仕事が意味のあるもの、社会に貢献するものだと、感じられるようにしましょう」とか書いてある。でも「俺の人生」と言われたら台無しだ。
それ以前に、部下を罵倒するのは通常、仕事では絶対NGだ。パワハラとかそういう意味ではない。部下の意見に罵倒で応えると、次からは上司に意見できなくなくなる。そして部下を萎縮させるといい仕事をしてくれなくなる。単純に組織の生産性が落ちるのだ。



ただし、それでもベゾスのもとには優秀な人材が集まる。もちろんGoogleやAppleなどとの人材獲得競争は激しいし、人材流出も起きているようだが、それでも良いサービスを次々と打ち出し、複雑な物流をマネージできているのだから、常に一定以上の人材が集まっていると考えなければならない。
何故なのだろうか。


それは、ベゾスにビジョンがあるからだと思う。
ベゾスのビジョンと言うのは、それほど突飛なものではない。そういう意味でいわゆる「ビジョナリー」というのともちょっと違うと思うのだが、
・地球上の商品がなんでも買える店を作る
・顧客の体験が第一
・利益が出る方法ではなく、安く売れる方法を考える
みたいな、誰もがいいとは思うけど中々難しいよね、という事をクレイジーなまでに追求する。目指そうとする場所がクレイジーなのではない。目指し方、徹底度合いがクレイジーなのだ。

当たり前の事をブレずに追求するから、みんなどちらに向かって努力すればいいのか分かる。これはとても大事なことだ。
特にアマゾンは創業以来長い間、
「ものを売るだけのビジネスはそれほど革新的ではないのでは?」
「自前で物流施設を持つと投資効率が低くなるのでは」
「そもそも黒字化できるのか」
など、ネット通販というビジネス自体が疑いの目で見られてきた。
そういう中で、ベゾスだけがブレなかった。結果としてたまたま正解だっただけなのかもしれないが、ブレずにクレイジーなまでに追求してきた、という事はやはり凄いと思う。


以前、リーダーには
「やるべきことが分かっている時に、皆のモチベーションを上げる人」

「そもそも何をやれば分かっていない状況で、それを指し示す人」
の2種類いる、という記事を書いた。

優れたリーダーが途端に頼りなくなる現象について、あるいはリーダーシップ2類型

ベゾスはインターネット黎明期という、究極的に「何をやればいいのか分からない時代」に登場した、究極的に「こうやれば上手くいく!」を指し示すタイプのリーダーなのでしょう。だから人間性がちょっとアレでも、リーダーとして成立している。


ベゾスは未来を指し示す能力や単純な頭の良さが飛び抜けている。きっと凡人があのリーダーシップスタイルを真似してはいけないのだろう。「未来が見えているつもりの、単なる嫌なヤツ」についていく人は誰もいないから。

それを承知で、それでも、リーダーについてあまりにも人間性が強調されてきた事には強い違和感を覚える。

僕のバーチャル師匠であるG・M・ワインバーグの本には、こんな逸話が紹介されている。


ソフトウェア開発プロジェクトでのこと。大きな不具合があり、5,6人がチームを組んで調査をした。調査方法を決める議論をリードする人。みんなの意見を整理する人。問題がありそうな場所を指摘する人。
色々な人がいたが、結局不具合の解消に一番力を発揮したのは、議論をそっちのけで黙々とソースコードを読み、1つのバグを発見した人だった。オタクっぽい、社交性がなさそうな人だったのだが。


何が言いたいのかというと、人にアレコレ指図したり、みんなの意見をまとめるだけがリーダーシップじゃないということ。
ベゾスはもちろんアレコレ指示するタイプでもあるのだが、リーダーシップの源泉は多分それではなく、先を見通す力、難しい課題の答えを見つける能力、やり通すしつこさなのだと思う。
人間性にあふれる人よりもそういう人こそが、混沌の中でみんなを導くことができる。
そのことを彼の事例は教えてくれる。僕らはベゾスにはなれないが。

 

 


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