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情報システム部門はなぜ子会社化されたままなのか?あるいは子会社に切り出す意味について考えてみる

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大変いまさらであり、職業上、答えられないのはマズイような疑問なのだが。

大企業の情報システム部門はなぜ子会社化するのだろうか?
または、なぜ子会社化したままなのだろうか?


業務改革とそれに伴うシステム刷新を仕事にしているので、多くの情報システム子会社の方々とお付き合いがある。コンサルタントとシステム子会社の方って、対立構造になったりするのかな?と思う人もいるかもしれないけれど、とんでもない。プロジェクトを成功させるためには、絶対にタッグを組む必要がある。


というわけで普段から何気なく接しているのだが、なぜ本社から分社しているのだろうか、と考え始めると意外と理由が分からない。もちろん一般に言われている「分社の理由」はだいたい知っているけれども、それが合理的だとはどうしても思えないのだ。



★よく言われる分社理由1:コア業務じゃないから
コア業務じゃない仕事はアウトソースした方がいい。そこに貴重な人材を投入するのはもったいないし、市場から調達したほうが安くていいものが手に入る、という理屈だ。
その一貫として、まずは情報システム部門を切り離してしまえ、ということだ。

でも僕はほとんどの産業にとって、自社の情報システムを構築・維持することはコア業務だと思っている。だからそもそもこの話がよく分からない。
これについては1年前に記事を書いた。

装置産業という自覚はあるか?あるいは、自社のシステムに関心と誇りを持てないのは悲しい



★よく言われる分社理由2:外販
情報システム部門は、売上をあげないコスト部門だが、子会社化して他社にサービスを販売すればプロフィット部門になる。マイナスからプラスへ!魔法のようだ!

外販率を高め、親会社から独立したビジネスとして成功しているケースもあるが、圧倒的多数なのは「外販はほんのチョロっとで、親会社、グループ会社からの売上がほとんど」という会社だ。

外販するということは、専業を含む多くの会社を相手に、市場でガチで競争するということだ。甘くない。情報システム子会社の中でもエース人材をあてる必要が出てくる。

でも、ちょっとまってほしい。
外販してグループ外からチョロチョロ売上を稼ぐのと、グループとしての本業である本社のビジネスを最高の品質で支えるのと、どちらが本当の意味でグループ貢献度が高いのだろうか。それを冷静に比較しての結論なのだろうか。


どちらにせよ、20年前に「外販で稼ぐぞ!」といって子会社化し、未だにほとんどできていないのであれば、戦略を見なおした方がいい。


★よく言われる分社理由3:人材確保
「システムが作りたいと思って情報工学を勉強してきた専門家だけが、システムに関われる」という命題が正しいのであれば、子会社化してそういった専門家を集めるのも1つの作戦ではある。
そこまでいかなくても、「システムはシステム志望の学生さんじゃないと」という感覚は根強くある。

でもそれって本当なんですかね?全然ピンとこない。
システム屋と言っても幅広いが、情報システム部門に求められる能力は、超高度なアルゴリズムを作る能力というよりは、
・自社の業務に合わせたシステムを作る(作らせる)
・そのために、自社の業務や制度を言語化する
・システムをテコにした業務改革をリードする
・技術の進展に伴い、自社のアーキテクチャーを構想する
・社内社外の多くの人々を1つのプロジェクトにまとめる
といった仕事だ。

こういう仕事に「僕、システム作りだけをやりたいんです!」と言って就職活動する人が向くとは、正直思えない。




あと、別な観点としては、親会社で採用した人をシステム屋さんに仕立て上げる方が、
「市場では手に入らない、自社の業務を熟知した、自社への忠誠度が高いITリーダー」
を育てやすい気がする。だってシステムを作りたくて入社したんじゃなくて、その会社に惚れて入社した訳だから。根拠の無い仮説ですけれど。


★よく言われる分社理由4:人材評価と待遇
人材確保の話ともつながるが、システム屋さんは比較的「手に職」という商売なので、人材流動性が高い(転職しやすい)。だから親会社の他の部門と同じ人事制度だと適切に評価し、給与を払うことが難しい。
そこまでいかなくても、営業や経理などとは別のキャリアパスを考えないといけないのは確か。

これはまあ、そうかもしれません。ただ、例えば営業部門と技術部門で全然異なる人事評価制度、キャリアパスを持っている会社は沢山ある。子会社化する絶対的な理由にはならないと思うんですけどね。



★それに対してデメリットは?
子会社とはいえ、別の会社である以上は事務処理が煩雑になる(発注、受注の手続きなど)。他にもデメリットは色々あると思うが、ここでは2つに絞って書きたい。


a)企画と実務の分離
一般的に、情報システム部門を分社化しても、企画部門は本社に残る。IT戦略を立案したり、他の部門とのつなぎ役、情報システム子会社への発注役をつとめるためでもある。
実務をやらずにいきなり企画が出来るようようになる人はいないから、子会社側と人材交流しながら(キャリアとしては本社と子会社を往復しながら)、両方の役割をつとめることになる。

でも、やはり会社がわかれていることの影響は無視できない。徐々に
「あなた、作る人。私、食べる人。」
というマインドになっていく。
特に、システムの作り手である子会社の側が、作ることに集中してしまって、「このシステムは本当に業務に貢献しているのか」「もっとコストを押さえる方法はないのか?」といった疑問を持たなくなる。

また少し別の観点だが、ユーザーである業務部門と作り手であるシステム部門の人材交流も、分社によってしにくくなる。100%純粋なITスペシャリストでいいならば市場で買ってくればいい訳だから、自社で育成すべきは自社の業務をよく知っている技術者。だとしたらもっと人材交流させた方がいい。


b)市場からも組織からもガバナンスが効きにくい
情報システム子会社が完全に独立した組織なのであれば、市場競争にさらされる。ショウモナイ事をしていたら生き残れないから、必死に努力をする。
逆に情報システム部門が完全に親会社の一部門なのであれば、組織としての統制が効く。

だが、多くの情報システム子会社は中途半端な状況だ。親会社のシステム構築はほぼ独占受注になる。つまり、市場の淘汰圧は効きにくい。
にも関わらず、一応外販もしている独立した企業なので、親会社の意向も効きにくくなる。例えば「このプロジェクトにエースを投入してよ、あんな仕事より」みたいな要望は中々届かない。コストダウンの必死さもトーンダウンしがちだ。

結果として、市場ガバナンスからも組織ガバナンスからも逃れたエアポケットが生まれやすい。こうした中でも優れた組織を作り、優れたサービスを提供し続けるのはかなり難しいように思う。もちろん目指している方々は多くいらっしゃるが。



と、思いつくまま挙げてみた。
これでも情報システム部門は本社の一部門ではなく、分社されていたほうが良いのだろうか?昔、ある種のはやりとして分社化が行われたのはいいとして、もう何十年も経ったのだから見直しは必要なのではないだろうか。
「いやいや、こういう理由で未だに分社していたほうが合理的なのだよ」という方がいらしたら、是非教えて下さい。

この記事を書いた後、「何故だろう?」という僕のつぶやきに対してFacebookでコメントを頂いたので紹介したい。

評価体系と人材採用の面はやはり大きい。特に幹部登用などでシステム部門が軽視される傾向があるのが問題。
また、本体でいい人材が確保出来ても、キャリアパスへの漠然とした不安から、システム専業の会社に転職してしまうケースが多くある。
それでも私は分社しないメリットが大きいと思っている派ですが。

ふーむ。そうだとすると、最初にあげた
「システムの仕事を自社のコア業務だと考えるか?」
という事につきるのかもしれませんね。
コア業務だと考えて重視しないならば、結局、最優秀な人材は確保しづらくなる・・。

製造業で生産技術畑の方がいずれ経営者になっていくのとは違って、金融や流通でIT畑の方が経営者になるケースが少ないのは、本当に問題が大きいと思う。

アマゾンの様なITネイティブな会社に押されてしまう一因になっているのではないだろうか・・。

コメントありがとうございました!




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先日、出版記念と銘打った2回シリーズのセミナーが無事開催されました。

夜の開催にも関わらず、100名以上の方が来られて会場はギチギチ。

一方的に話すだけではつまらないので、いつもQAコーナー30分以上もうけます。
そこで頂く、様々な質問にお答えするのは、僕らにとってもとても勉強になります。業務改革を志す方々が、企業の中でどういう点で困ったり悩んだりしているのか、リアルに分かりますので。

今回は質問票をあらかじめ配布しておき、講演開始前から集め始めました。講演中に多少回答できるケースもありますし。
そうやって積極的に質問を募集したので、とても沢山の質問が集まってよかったです。時間の関係で全部には答えきれませんでしたが。
中には「人生で大事にしていることは?」みたいな、有名人に聞くような質問もあったりして、さすがに回答に困りました・・。

★この話をベースに、本を書きました!

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