あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

A社からの手紙、あるいは日本企業で変革を起こすということ

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最初に、ある手紙を紹介したい。

差出人はある会社の経営企画室の室長。この頃、変革プロジェクトを立ち上げようと苦心されているこの方の相談に乗っていた。しばらく訪問していなかったので「進んでいますか?」と問いかけてみたところ、このメールが返ってきたのだ。

お世話になっております。
右手に企画業務、左手に年度計画業務と、ジャグリングの様にクルクルとこなしたいところですが、期末へ向けて雑多な業務に羽交い絞めにされている感じです。
現在の思考は以下のような状態です……

過去1年動いた結果、物事が進んでいないというのは、結局のところ投げかけた石(意志) が小さ過ぎて、河 (経営側)にさざなみ程度の波紋しか広がらず、すぐに立ち消えてしまったという事だと感じています。
外部環境(マクロ・ミクロ)は刻々と変化しており、事業もどんどん変化しています。そして経営のニーズも。

事業、経営に目を向け、一旦そういった全体の構図、ビジョンを描いた上で、今一度プロジェクトに立ち戻ったときに、もう少し違う風景が見えるのでは? と、経営企画部のメンバー一同、思考の幅も時間軸も広げて再考しています。

一方で、現在の業務や基幹システムをミクロの観点であらためて棚卸をしており、特徴、長所、短所などを、なるべく客観的な視点から整理しています。その過程で、社内では当たり前となっている常識が、世間一般から見ると非常識に見える部分も垣間見えてきました。良くも悪くも・・・ですが。

これらの試行錯誤を次なる行動を起こす前のトレーニングととらえ、ディスカッションを重ねつつ、思考の筋力と持久力を蓄えております。もうしばらくお時間を頂戴できればと思います。


思いのこもった、いい文章だと思う。
経営企画室長として業務を改革していきたいという意志。そして思うように社内で受け入れられない苛立ち(1年間努力を続けても、変革プロジェクトを始めることすらできていないのだから無理もない)。何をしていけばよいのか明確にしきれない歯がゆさ。立ち止まらないためにはできることから手を動かさなければ、という焦り。そしてなんとか前に進もうとするあきらめない気持ち。

あなたは組織の現状を変えたいと思ったこと、変えようとチャレンジしたことがあるだろうか。もしあるのならば、この手紙は他人事ではないはずだ。



失敗するプロジェクトは多い。
だが、それ以上に多いのが、始めることすら出来ないプロジェクトだ。



仕事がら、企業で変革を起こそうと悩み、奮闘している、彼のような方の相談に乗ることが多い。

今の業務に問題があるのは分かっている。
会社の組織風土も変えたい。
情報システムにも問題山積みだ。

だが、組織のどのボタンを押したら変革は始まるのだろうか?
どうやって押せばいいのだろうか?
この問題意識をどうやったら分かってもらえるのか?

あまりにも掴みどころがなく、フリーズしてしまう。


僕自身はコンサルタントだが、この段階で「コンサルティングサービスを買って下さい。そうすればうまくいきますよ」と売り込むことはしない。相談に乗ることしかできない。

まず、何がしたいのか?
なぜ変革プロジェクトを立ち上げる必要があるのか?
こればっかりは、コンサルタントを雇う前に、自分たちの事として悩み抜かなければならない。


一緒にを書いた古河電工の関さんは、事あるごとに、
「何をやりたいかをしっかり考えずにコンサルタントを呼ぶべきではない。自分たちの場合は、その議論にかなり時間をかけた。そして外部支援者(コンサルタント)には中立性と外圧とスピードを求めたし、コンペの時にもその観点で厳しく選んだ」とおっしゃっている。


また別のリーダーは
「変革プロジェクトの成功は90%、立ちあげで決まる。実行局面では社外に優秀な方がたくさんいて、力を借りられる。でも、やりたい事がこちらで見えていなかったり、途中でぶれたら、プロジェクトは必ずうまくいかない」
ともおっしゃっている。



最初がグダグダなプロジェクトは、いくら後から奮闘しても成功しない。

最初に議論するべきことを議論し、決めるべきことを決めておくこと。
抜け道はない。
考えるべきは、いかに迷走せずに、王道をまっすぐ進むかだ。


変革プロジェクトを立ち上げる時に、何をやりたいか、しっかり考えるのが大事なことは、一旦わかったとしよう。
でも、何をどう考えればいいのだろうか。どのレベルまで考えたら、いいのだろうか。誰を巻き込めばいいのだろうか。

変革プロジェクトの立ち上げなど、やったことがない方がほとんどだ。
何をいつまでに、どれくらいの深さで議論すべきか。どういう心構えで臨むか。どんなフォーマットを作れば考えが進むのか。考えるために現状調査はした方がいいのかよくないのか。
変革の中身を考える前に、段取りを考える所で躓いてしまうのはもったいない。
変革の中身は自社オンリーワンの世界だが、段取りは変革プロジェクトのセオリーに従った方がいい。


そこで、セオリーを学びたいと思うのだが、あまり良い本がこれまでなかった(相談に乗っている方に、参考書を聞かれてもオススメできるモノがなかった)。

業務改革についての本を読むと、「アップルのビジネスモデルは・・」とか書いてある。それはそれで面白いんだが、今、目の前の自分の会社の現実や、ミドルマネージャーとして自分ができる事との差が大きすぎで、役には立たない。


さらに、変革プロジェクトについての良書は、欧米で書かれた翻訳書ばかりだ。だが、変革プロジェクト、特に立ち上げについては、翻訳書はあまり役に立たない。
変革プロジェクトの立ち上げ方は、組織風土に強く強く依存するからだ。

トップが変革を構想し、いかに部下に従わせるか、みたいなストーリーを読んでも、日本企業で、何とか同志を集めながら変革を起こそうとしているミドルマネージャーの役には立たない。

誰がウンといえばプロジェクトが始まるのか、よくわからないのが当たり前だ。
社長が明確な方針を打ち出さないなんて当たり前だ。
散々説明してYesと言ってくれた人が、協力してくれないなんて当たり前だ。

好きか嫌いかは別として、僕らは、この、日本組織の風土という現実に足元をうずめながら仕事をしている。
こういった組織でも、変革は起こさなければならないし、成功させなければならない。


そのための本がなかったから、書いた。

「業務改革の教科書―成功率9割のプロが教える全ノウハウ」

冒頭に紹介した経営企画室長の様な方に、役立てて欲しいと思い、2年半かかったが、何とか書き終えることができた。

 

先週末から本屋さんに並んでいます。

目を通してくださった方からは、
「実務書なのにすごく読みやすい」
「すぐに使ってみる」
「濃い・・」

との声をいただいています。

 

変革プロジェクトを巻き起こす、または巻き込まれる、全てのプロジェクトワーカーへ。




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講演のお知らせ
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日本システムアドミニストレータ連絡会の第14回全国大会という立派な場で、講演をさせて頂く事になりました。

講演タイトルは「反常識の業務改革」
http://www.jsdg.org/public/contents/conference/14zenkoku/top.html

・記事にも触れた、古河電工の関さんとのダブル講演です
・場所は横浜、10/5(土)15:30スタート
・「上級アドミニストレータ」という資格を持った方の集まりです。

関さんが会員なのが縁で、声を掛けていただきました。
2,000円を払えば非会員でも聴講可能だそうです。
もちろん、関さんと白川以外のセッションもあるようですので、
Webサイトをご覧になってみて下さい。

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