オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

足なんて飾りですよ、あるいは業務改革はロックンロール

»

★20年振りにガンダム見てます
64__3 今は自転車乗りにとっては受難の季節である。運動しているので体はあまり寒くないのだが、問題は手と足だ。自分でおこす時速30kmの風のせいで冷たすぎてしびれてくる。
という訳で、自然と家の中でローラー台を漕ぐことが多くなる(自転車を固定式のローラーの上で漕ぐ、ハムスターの回し車みたいなヤツがあるのです)。

僕はハムスターほど純真ではなく、さすがに黙々とこれをやっていると飽きてくるので漕ぎながらDVDを見られるようにしている。最近見たい映画がつきてきて、20年振りにガンダム(初代の映画版)を借り、お正月にハアハア息を切らしながら見ている。

いやー、今更ですが、いいですね。名ゼリフを集めただけの本がでているくらいだから、とにかくセリフがいい(もちろん他もいい)。
特に大人になってから見返すと、ストーリーの緩急の「緩」にあたる、何気ない場面での名ゼリフにしびれる。

シャア・アズナブル「足がないな」
名もない整備兵「あんなもの飾りです。お偉い方にはそれが分からんのです。」

★このセリフはどういう文脈で言われたか
昔は一介の整備兵なのに粋なこと言うなぁ、くらいにしか思っていなかった。でも、プロの業務改革屋になってから聞くと、このセリフこそが僕らの仕事を表している様な気がしてきたのだ。

このセリフに至るまでの流れを簡単に復習してみよう。
(すみません、今回の記事はガンダムを一回も見たことがない方はスルーしてください)

1:人型戦闘兵器であるモビルスーツが宇宙でも地球でも活躍
    ↓
2:戦争の主戦場が宇宙に/姿勢制御技術の進歩
    ↓
3:宇宙での闘いに特化したモビルスーツの開発に着手
    ↓
4:あれ、このモビルスーツの場合は足なんていらないんじゃね?
    ↓
5:偉い人にはそれがわからない

ある環境、ある前提においては、モビルスーツが人型であることのメリットは大きかったはずだ。だからこそ、それを開発できたジオンは30倍の国力の連邦に対峙できたのだ。(上記1)

ところが、いずれその前提は崩れる(新技術の開発などで、ゲームのルールが変わる)。(上記2)

前提が崩れたのであれば、新たな前提の上で最適なやり方を模索しなければならないはずだ。ある前提が変わっても踏襲すべきもの、ゼロベースで考え直さなければならないものの見極めが、最終的な性能を決める。(上記4)

だが、人々はなかなかそれに気づけず、生理的な拒否反応や理論武装された反論が起こる。ジオングの開発時も、偉い人から相当反対意見があったんでしょうね。(上記5)

★ビジネスでも同じことがよく起こる。
例えば「書類を前提とした業務プロセス&それにあわせた組織構造」は30年前では最適解だったのだろう。きっと。だがITが進歩した今となっては最適解ではないかもしれない。
でもそこで働く人々にとっては、「あなたが立っている大地は丸いですよ」と言われるようなもので、全くピンとこない。
こういったケースは大企業から小企業まで、様々な組織で観察できる。

単にITを導入すれば最適な状態になる訳ではない。ココで大事なのは「ITを導入すると、それに伴って業務や組織の最適解だって変わるでしょ」という所なのだ。
「新しい姿勢制御技術を採用して宇宙で闘うなら、モビルスーツの最適形状も変わるでしょ」と言い換えてもよい。

くどいけれど大事なことなので何度でも言うと、「新技術や競争環境が変わる、といった前提条件の変化は、連鎖的に最適解の変更をもたらす」ということになる。

僕と古河電工の関さんが「プロジェクトファシリテーション」という本で描いたプロジェクトでの事例に当てはめてみよう。

1:工場ごとに細やかな人事制度を作ってでも、労使協調を図るのが経営上の最優先課題
    ↓
2:より低コストでの事務処理が求められる経営環境になった。労使対立も穏やかになった。
    ↓
3:工場ごとの細やかな人事制度は、むしろ業務を効率的に行うための足かせに
    ↓
4:あれ、もう工場ごとにルールを決める必要ってないのでは?
    ↓
5:頭ではそれが分かっても、心情的に賛成できない人が多い

モビルスーツの足の話と似ている気がしません?

★「飾りです」と見極めることこそが業務改革の神髄
大事な転換点は上記の4である。「あれ?」と気付くこと。
上記のように整理して書くと、気付かない方がおかしいように思うのだが、実際には状況は混沌としているので、そんなに簡単ではない。

なにより上記1の様な前提にどっぷり浸かってしまっていて、その前提の上でしかものを考えられないのだ。仕事の中身に詳しい人、優秀な人ほど前提や環境に適応しきってしまい、そのパラダイムの外から考えるのは難しくなる。整備兵の「偉い人は・・」は「優秀な人は・・」に読み替えられる。

それが難しいからこそ、他社の事例やビジネス書にヒントを求めたり、高いお金を払って「あれ?」と空気を読まずに言ってくれるコンサルタントを雇ったりするのだ。

★業務改革はロックンロール
最後に、ちょっと近い話として、僕が以前に発作的にツイートした言葉を載せておきたい。

企業改革はロックンロールだと思ってやっている。既得権やら部分最適やら名残りやらこれまでのお付き合いやら俺が若かった頃はなぁとかオレがいるからこの業務回っているんだとかそれは隣の仕事なので・・とかに対して1つ1つFuck!と言って回るのがスタートだからだ。

ま、実際にはFuck!ではなく、 もっとお上品に言う。「そんなの、顧客の立場からすると知ったこっちゃないっすよ」とか。これだって、若造から言われたら随分むかつくことだろう。

まとめ
業務改革では「ゼロベースで業務を考えなおせ」とよく言われる。だが全くのゼロではなく、たいていは「昔は当てはまっていたが、今は当てはまらない大前提」を一個はずして考えるだけなのだ。でもそれが難しい。君はあの整備兵になれるか?
今日はここまで。

Comment(7)