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「初音ミク」ムーブメントを育てたニコニコ動画という場

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「初音ミク」ムーブメントというCGM(Consumer Generated Media)を活性化させた要因の一つに、「ニコニコ動画」という場をあげることができると思いますので、それについて、まとめてみます。ニコニコ動画の特徴は3つあります。

(1)匿名性が確保されていること

(2)一時的な関係性

(3)非対称の効用が交換されている

まず、(1)匿名性が確保されていること、についてですが、ニコニコ動画はメール・アドレスによる登録制のため、完全な匿名性が確保されているわけではありません。しかし、ある程度の匿名性は確保されていると言えます。

そして、匿名性が確保されていることによって、ニコニコ動画では、現実の世界における束縛から解放されます。つまり、社会的な関係とは無関係な、(2)一時的な関係性、が発生します。たとえば、普段は会社勤めをしているサラリーマンであったとしても、ニコニコ動画においては、作曲家やイラストレイターになったり、あるいは、それらのコンテンツの視聴者になったりすることができます。

このクリエイターと視聴者の関係は、ニコニコ動画においてのみ発生する一時的なもの、ということができます。そして、これは、現実における社会的な関係を伴わないものなので、純粋な評価が得られることになります。わかりやすく言うと、会社の人とカラオケに言った場合には、会社の人間関係が優先されるために、正確な歌唱力の評価が下されにくいのに対して、ニコニコ動画では、多数の視聴者が、いろいろなかたちで評価を下してくれます。

そして、(3)非対称の効用が交換されている、とは、「かたちの違う満足が交換されている」ことを意味します。クリエイターと視聴者との間、あるいはクリエイター間で、かたちの違う満足が交換されています。この「満足の交換の体系」がCGMを支えていると考えています。これについては、下記のエントリーを参照してください。

「初音ミク」ムーブメントから考えるCGMの弱点
http://blogs.itmedia.co.jp/london/2007/11/cgm_d7f4.html

また、私は、CGMを活性化させるには、多数の視聴者の存在が必要だと考えています。実際に、コンテンツを作っているのはクリエイターたちですが、そのモチベーションを維持・発展させているのは、多数の視聴者の存在だと思います。ですから、会費無料でもかまわないから、できるだけ多くの会員を集めた方がよいことになります。

もう一つは、多様なジャンルのクリエイターが集まった方が、CGMは活性化すると言えます。これは、あるジャンルのクリエイターは、別のジャンルのクリエイターに対するリスペクトの気持ちを抱き安いということと、多様なコラボレーションが期待できるからです。

特定のジャンルのクリエイターに限ったコミュニティは、初めは盛り上がったとしても、次第にクリエイター間のライバル意識が強くなってしまうのと、それに応じて、視聴者が熱狂的なファンとアンチにわかれて争いが始まり廃れてしまう可能性が高いと思います。しかし、何でもありのニコニコ動画は、こうした点を回避できていると思います。

すでにニコニコ動画は、多数の会員と多様なクリエイターの集まる場として機能しています。ですから、『ピアプロ』のような、ニコニコ動画を補完するサイトをのぞけば、ニコニコ動画のようなCGMを支える場として機能するサイトを、後発で作り上げるのは、なかなか大変なことなのではないかと思います。

もちろんニコニコ動画が今後どのように発展していくかについては予測不能な部分もあります。しかし、すでに私たちは、ニコニコ動画と「初音ミク」ムーブメントを通じて、CGMの楽しみ方を覚えてしまったことは、特筆すべきであると言えます。

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