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英LastFM訪問記・・・「WEB2.0? うーん、よくわかんない」

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『日経トレンディ』11月号のWEB2.0特集の依頼で、イギリスのLastFMに取材に行ってきました。誌面では書ききれなかったこともありますので、ここで紹介します。

London_076_2LastFMは、"音楽SNS"とカテゴライズされるサービスで、ユーザーがパソコンで聞いた音楽のデータを収集して、同じような音楽の趣味(Music Taste)を持つ人たちを紹介しあう、というのが基本サービスです。これに、ブログとしての機能や、タグをつける機能、ネット・ラジオの機能などが盛り込まれていて、WEB2.0的な音楽サービスとして注目を集めています。

London_077_1いままでは英語圏だけのサービスでしたが、日本では、エキサイトと提携して、この7月から日本語版のサービスを開始しています。LastFMの本社は、ロンドンのイースト・エンド(東端)にあります。地下鉄のオールド・ストリート駅から少し歩くと、倉庫街があって、そのワン・フロアーをオフィスに使用しています。

London_078左の写真は、LastFMの創設メンバーの3人で、左から、リチャード、フェリックス、マーティン。フェリックスとマーティンが激論をしているように見えますが、これは、もちろんヤラセです(笑)。そもそもLastFMは、ドイツ人のフェリックスとオーストリア人のマーティンが、ロンドンのコンサート会場で出会ったことが設立のきっかけだったそうです。

2001年に彼らが出会った頃は、フェリックスはパンク・バンドで演奏していた経験があり、また、マーティンは、小さなレコード・レーベルの運営に携わっていたそうです。そして、音楽好きの二人は意気投合した後に、「無名のミュージシャンをプロモートするためのウェブサイトを作ろう」と考えて、LastFMを2002年に設立しました。LastFMは、「音楽好きにとっての最後のラジオ局」という意味で、このサイトにアクセスすれば、自分のテイストにあった音楽を見つけることができるラジオ・サイトをめざしているそうです。

そして、彼らの目標である「無名のミュージシャンをプロモートする」ためには、どんな音楽がよく聴かれているか、についてのデータを収集することが重要である、と考えました。そして、イギリス人のリチャードが2003年に開始した"Audioscrobbler"というサービスに注目し、リチャードもLastFMに参加することになりました。別々に発生した2つのプロジェクトが、ここで1つになったわけです。"Audioscrobbler"というのは、パソコンで再生された音楽のデータをインターネット経由で収集するシステムで、あるユーザーの音楽の趣味をパターン化し、それと同じような嗜好を持つユーザーを紹介しうというものです。

私は、この取材をする前の時点では、なぜ「よく聞かれる音楽のデータが重要である」のか、いま一つわかりませんでした。しかし、いろいろと話を聞いているうちに合点がいきました。たとえば、音楽の好きな人が初めて出会った時に、次のような会話をしますよね。

A「君は、どんな音楽良く聞くの?」
B「aaaa(アーティスト名など)とか、bbbbも好きかな」
A「ふーん。ccccなんかどう?」
B「うーん、ccccは、ちょっと・・・。でも、ddddは好きですよ」
A「あ、ddddも好きなんだ。それだったら、eeeeも気に入ると思うよ。今度コンサート行こうよ・・・」

というような。これって、読書とか、映画鑑賞とか、美術鑑賞とか、そういった趣味を持っている人同士が初めて出会った時に、かならず探り合うようにする会話ですよね。「コイツとは、友達になれそうかな?」と思いつつ。で、LastFMは、それを押しつけがましく無いようなやり方で、スマートに行える場として機能していると。

彼らが、LastFMを設立した2002年というと、iPodやiTunes Music Storeも無い頃で、もちろんWEB2.0などという概念もありませんでした。それでも現在のLastFMは、WEB2.0的な要素を、たくさん取り込んでいて、WEB2.0サービスの代表格と言えるかもしれません。それで、COOのマーティンに聞いてみました。「WEB2.0という概念について、どう思うか?」と。そしたら、マーティンの返事は、「うーん。よくわかんない」でした。

LastFMは、2002年の発足当初から、音楽好きのためのコミュニティ主導(Community Driven)のサイトの構築をめざしてきました。その過程で、いろいろな技術が持ち込まれ、結果としてWEB2.0的な要素をが、色濃くなったのだと思います。彼らは、決して、WEB2.0企業になることをめざしていたわけではないし、逆に言えば、めざすところがはっきりしていなければ、どんな技術を盛り込んでも、ユーザーに見放されてしまうのだろうと思います。

London_079(LastFMのオフィスでは、プログラマーを中心に22人のスタッフが働いていました)

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