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MYUTA事件の判決文が公開されました

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裁判所のWebサイトにアップされました(判決文, 別紙1

ゆっくり読んでる時間がないのでまずは気になった点だけ。

1. 争点は複製と自動公衆送信の主体が誰であるか(ユーザーかサービス業者か)のみであり、私的複製か否か(コメント欄の指摘により追加: ストレージ・サービスが30条1項1号の自動複製機器にあたるのか否か)は争点となっていません

2.CDのアップロードと携帯電話形式への変換の専用ソフトが業者側から提供されている点が、サービスが業者の管理下にあり業者が複製・送信の主体であると判断された点で大きいようです

3.このサービスはパスワードを他人に教えれば他人の携帯でも音楽ファイルをダウンロードできてしまうというダダ漏れサービスではなくしっかりと認証処理を行なっているようです。しかし、それでも裁判所の判断では、「本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。」と結論づけています。これはかなり違和感を感じてしまいます。

時間ができたの続きを書きますが、ポイントとなる部分は以下だと思います。

複製行為の主体がサービス・プロバイダー側である(ユーザーではない)と判断された理由(判決文p30より)
1.サービスに不可欠な行為として複製が行われている
2.サーバはサービス・プロバイダーの所有である
3.サービス・プロバイダーが専用かつ必須のソフトを提供している
4.そのソフトは複製を行うべくサービス・プロバイダー側が設計したものである
5.ユーザーが自分でCDの音楽を携帯電話で利用できるようにすることは相当に困難
6.ユーザーの複製操作は、サービス・プロバイダーの設計に基づいたものである

ということですが、一般的なサービス・プロバイダーであれば、3と4と5以外の条件は当てはまるでしょう(そして、3と4は実質同じ条件です)。うかつに、専用ソフトを提供したりして専用サービス化し、ユーザーの利便性を高めようとすると、著作権侵害のリスクが高まるということになります。また、5の「相当困難」の判定条件にも難しい点があるのではと思います。

自動公衆送信の方について主体がサービス・プロバイダーとされた理由は以下の通りです(判決文p33)。
1.サービスに不可欠な行為として送信が行われている。
2.サーバはサービス・プロバイダーの所有である
3.送信機能はサービス・プロバイダーの設計である
4.ユーザーが個人レベルでCDの音源データを携帯電話で利用することは相当困難
5.ユーザーの行為はシステムの設計に基づく

ここでは、一般的なサービス・プロバイダーでは4以外は全部当てはまってしまいます。ここでも、「相当困難」の具体的判断条件が気になります。

私見ですが、この判決はMYUTAだけに関するものであって副作用は少ないのだとはちょっと言い難い気がします。たとえば、自宅のHDDレコーダーに録画した番組をブロードバンド経由で携帯電話や携帯ゲーム機で自分が観られるようにするサービスも実装次第ではひっかかりそうです。まねきTV式に市販の機器をユーザーが買ってそれをハウジングする形態にすれば回避できるかもしれませんが、このように技術的には非本質的な解決策を取らなければならない可能性を含めて、副作用が大きいと思います。

また、将来を考えると自明な技術動向として以下があります。
1.今までユーザー側で行っていた機能がサービス・プロバイダー側で行われるケースが増える(梅田望夫言うところの「あちら側」、SaaS、"Web as a platform")
2.複数のサービス・プロバイダーのサービスを組合わせて活用することが一般的になる(マッシュアップ)
3.パソコンだけでなく、携帯機器がブロードバンドに常時接続され、それを前提としたサービスが普及する

たとえば、iPodに無線ブロードバンド機能が搭載されて自宅のiTunesライブラリの曲がどこでも聴けますなんてサービスは当然に考えられます。こういう技術動向を考えると、外部的には私的複製に見える行為(自分の所有物を自分が操作して自分が使用できるようにすること)が、サービス・プロバイダー側の内部の実装によっては著作権侵害になってしまうリスクが存在することは、やはり副作用が大きいと言わざるを得ないと思います。

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