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ソフトバンクのVodafone買収の分析のパネルを聞いてきました

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テックバイザーと協力関係にある渡辺聡さんがやっているEmerging Technology研究会とグロービス共同主催のパネル「ソフトバンク、ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」を聞きに行ってきました。

さすがに、ホットなトピックだけあって、年度末、金曜夜という条件にもかかわらず会場は超満員。渡辺さんをモデレータとして、株式会社シンク代表取締役の森祐治さん、日経ビジネスアソシエ副編集長の降旗淳平さん、アスクドットジェーピー社長兼CEO塩川博孝さんという強力パネリスト。現場で丁々発止やりつつ、かつ、当事者としてのしがらみもそれほどはないというメンバーであり、通常のイベントよりもはるかに突っ込んだ議論を聞くことができました。

自分は実はこの領域はそれほど専門というわけではないのですが、自分が当初思っていた疑問であり、パネルの論点にもあがっていた「なぜ、ソフトバンクは水平分業が進行しつつある市場で垂直統合を目指すのか?」については明確な答は得られませんでした。シスコのジョン・チェンバースが言うように「(テクノロジー業界では)ホリゾンタルはバーチカルに勝つ」のが原則なわけです。そうでないのは、バーチカル(垂直統合)により明らかな相乗効果が得られる場合に限ります。たとえば、ゲーム機みたいにハードウェアやAPIが完全にオープンではない市場では垂直統合による囲い込みはまだ有効です。

しかし、基本的にオープンなネットの世界で、サービス(コンテンツ)とデリバリ・チャネル(ネットワーク)を垂直統合して有効だったケースはないのではないでしょうか?Yahoo BB!については、あの当時はまだブロードバンド・アクセス自体が超成長市場だったので、Yahooのブランド力を生かして新規顧客獲得、また、Yahoo側でもブロードバンド需要拡充という相乗効果がありました。しかし、同じような相乗効果を成熟しつつある携帯市場で得ることができるのでしょうか?

「このコンテンツはVodafoneユーザーしか見られませんよ」みたいな戦略を取ると「このコンテンツは携帯キャリアに関係なく見れますよ」というコンテンツ・プロバイダーとの競合が著しく困難になります。Yahoo! Japanの井上社長は「T字型のサービス展開」つまり、一般に広く浅いサービスを提供しつつ、Vodafoneユーザーに対してはより深いサービスを提供する戦略をとることで対応すると言われたようなんですが、これは、Yahoo! Japan!の市場での地位が不動であって初めて成り立つ戦略であり、たとえば、Googleが「うちはロ字型サービスで携帯キャリアにかかわらず深いサービスを提供できますよ」と言ってきた場合に対抗できるかという懸念があります。

また、Vodafoneとのパートナーシップによる海外展開の可能性についても、そもそも、米Yahoo!の日本国内のフランチャイズであるYahoo! Japanブランドで海外展開できるわけもなく、規模の経済が本当に実現できるかみたいな話も出てました。

以下、私見になりますが、孫社長は、単に市場をひっかき回して競合を刺激したかったんじゃないのかなと思ったりします(まあ、もちろんしかるべき利益は上げるとして)。それで2兆円使うというのも何ですが、既得権とか競争の不在を最も嫌う人だと思うので。そういう意味ではどんどん引っかき回して、価格破壊は今回は厳しいにせよ、サービス向上競争を喚起してもらいたいものです。なんだかんだ言って、Yahoo BB!で市場を引っかき回してくれたおかげで日本のIT市場は良い方向に向かったと思います。

ところで、今日は昼頃起きて部屋を掃除してからおもむろにブログ書いたりしているわけですが、渡辺さんのサイトを見るとCNETでもう総括してます。早っ。打ち上げで終電でそ帰ってその足で書いてるわけですね。やはり、フリーランスでやる以上、これくらいのバイタリティとスピード感は必要と言うことでしょう(自分のことは棚に上げて論評)。

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