アジャイルや機械学習、リーンシックスシグマなど、日々の仕事の中で見て聞いて感じた事を書き留めています。

インダストリー4.0の心地悪さ

»

「インダストリー4.0」が産業界やメディア上で注目されてから久しくなります。この ITmedia でも毎日のように「インダストリー4.0」の新しい記事が掲載されているようです。それを目にするたびに、何とも言えない心地悪さを感じます。「日本人なら、そしてモノづくりに誇りを持つ技術立国日本なら、欧州に媚を売りことなく正々堂々と"コネクテッド・インダストリーズ"で戦え!」と、つい思ってしまうのです。

日本の産業界やメディアの多くが「インダストリー4.0」を単に「第四次産業革命」という意味で使っていることは僕も知っています。しかし、もし「第四次産業革命」について書きたいのであれば、ちゃんと「第四次産業革命」と書けばよいのに、なぜ覇権を狙う欧州に媚びて「インダストリー4.0」という言葉を使うのでしょうか。正直、心地悪さを通り越して、日本の将来に対する危うさすら感じます。

インダストリー4.0とは

今更「インダストリー4.0」について説明するまでもないと思います。一言で言えば、欧州の産業用オートメション会社(スイスのABB社、ドイツのシーメンス社、デンマークのダンフォス社など)が、同じく欧州のソフトウェア会社(ドイツのSAP社など)と共に、世界で産業用オートメーション業界の覇権を握るための戦略です。

ご存じのように、産業用オートメションの市場シェアは、世界順位トップ4社で多くが占められています。日本では大手である安川電機や三菱電機は名プレーヤー(名選手)ではあっても、世界市場では残念ながらメインプレーヤーではありません。

  1. ABB(スイス)
  2. シーメンス(ドイツ)
  3. ダンフォス(デンマーク)
  4. ロックウェル・オートメション(米国)
  5. その他諸々

長い歴史の中でABB社、シーメンス社、ダンフォス社が産業用オートメーション業界で確実な地位を築いてきましたが、覇権を握るための最後の一手、「チェックメイト」に当たるのが「インダストリー4.0」だと僕は思っています。

すべての顧客を囲い込む

産業用オートメーションは階層的な構造になっていて、最上部のコンピュータ(ソフトウェア)システムから始まり、ネットワークを通じてPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)や末端のモーター制御装置、センサーにまで裾野が広がっていきます。そのため独自のコンピュータシステムや独自のネットワーク規格、独自のPLCを持つことで、顧客を囲い込むことができます。顧客が一旦ある規格で作られたシステムを導入してしまうと、他社のシステムに切り替えることが難しいからです。

産業用オートメーション業界への新規参入が難しかったり、市場でのメインプレーヤーが簡単に変わらない理由は、この独自規格による顧客の囲い込みが働いているためです。

ABB社、シーメンス社、そしてダンフォス社などは、これまで独自に顧客の囲い込みをしてきましたが、「これからは欧州連合として一緒に顧客を囲い込みましょう、ついでにSAPも仲間に入れてね!」というのが「インダストリー4.0」正体だと僕は思っています。

チェックメイトに至るまでの筋道は用意周到です。ABB社は米国バルドー社(米国リライアンス社を含む)を買収し、最近はなんと米国GE社の産業用オートメション部門までも買収し傘下に収めました。ダンフォス社はフィンランドのベーコン社を買収しました。買収された各社が持っていた多くの顧客のオートメーション・システムを、今後は自社のシステム(インダストリー4.0準拠)に順次置き換えていくことで、包囲網を築くことができるからです。

IIoT は儲からない

産業用オートメーションで一番儲かる所は階層構造の上位部分、つまりソフトウェアやネットワークなどのシステム部分です。もちろん大型モーターやその制御装置はそれだけで数千万円することもありますが、それが受注できるのもソフトウェアやネットワーク・システムがあってのことです。つまりソフトウェアやネットワーク・システム部分の受注に成功すれば、あとは末端の装置やセンサーも受注できる確率が格段と上がり、儲けに繋がります。

産業用 IoT (IIoT)も話題になっていますが、末端のIIoTだけでは儲かりません。IIoTで集めたデータを加工して、顧客に「価値」として提供できるソフトウェアやネットワーク・システムを持つ企業だけが、この産業用オートメーション市場では儲かります。「インダストリー4.0」のメインプレーヤー達はそれを良く知っているので、

  • 儲かるシステムの上位部分は私たちが
  • 儲からないシステムの末端部分は君たちが

と、日本に向かって言っているように僕には見えるのです。

日本の産業用オートメーション業界もメディアも IIoTばかり注目していると、知らない間に「インダストリー4.0」の餌食になってしまうような気がします。

米国や中国は「インダストリー4.0」を脅威と捉えている

「インダストリー4.0」に対抗するために、米国ロックウェル・オートメーション社は独自に「コネクテッド・エンタプライズ」を推し進めています。その一環として先日も産業用プラットフォーム・ソフトウェアの大手、米国 PTC 社を1千億円で買収しました。また「コネクテッド・エンタプライズ」を一層強固なものにするために、米国シスコ社、米国マイクロソフト社とタッグを組んでいます。

すでに出遅れ感があるものの、欧州連合に「チックメイト」だけは取らせないよう、必死になって巻き返しを図ろうと頑張っています(米国GE社はすでに欧州連合に飲み込まれてしまった、無念)。その姿はまるで映画スターウォーズの中で帝国軍に対抗するレジスタンス軍のようです。

中国も国策として「中国製造2025」を提唱して、「インダストリー4.0」への警戒を露にしています。

一方、日本では経済産業省が「ソサエティ5.0」の一環として「コネクティッド・インダストリーズ」という"概念"だけは提唱しているようですが、あまり緊張感や危機意識は伝わってきません。なぜなら日本の産業用オートメーション業界が「コネクテッド・インダストリーズ」で一致団結した、などという記事を目にしたことがないからです。むしろ日本は「インダストリー4.0」を喜んで受け入れているようにさえ僕には見えます。

このままでは日本の産業用オートメーション業界は欧州連合の下請けになってしまうでしょう。下請けになるだけではなく、日本の工場などが欧州のシステムで構築され、ネットワークで接続されてしまっては、機密情報の漏洩にもつながりますし、何よりも国防上の問題にまで発展する可能性があると思うのです。日本の産業界やメディアはこのまま呑気に「インダストリー4.0」を唱えていても良いのでしょうか。

「コネクテッド・インダストリーズ」で一致団結しようよ

日本の強みは何と言っても産業機械です。そして安川電機や三菱電機など名選手もたくさん揃っています。ソフトバンクやNTTなど、ソフトウェアやネットワークに強い企業もたくさんあります。モノづくりのノウハウもあります。日本の産業界が「コネクテッド・インダストリーズ」で一致団結すれば、とてつもなく大きな勢力になるはずです。さらに世界に名立たる日本の自動車産業や鉄鋼産業が、日本独自の「コネクテッド・インダストリーズ」でシステムを構築したとなれば、世界に大きなインパクトを与えるだけではなく、日本が世界の産業用オートメーション業界をリードできると思うのです。それだけの力がある国なのに、そうしないことは本当に勿体ない気がしてなりません。

米国やインドとの協調

以下のチャートは Google Trends を使って、

  • Connected Industries
  • Industry 4.0
  • Connected Enterprise
  • Made in China 2025

というキーワードの検索動向を示したものです。Industry 4.0 が「第4次産業革命」と同義語として使われていることを差し引いたとしても、すでにチェックメイト状態です。

地域ごとの検索状況を見ると、欧州、日本、米国、そして中国は予想した通りの結果となりました。しかし面白いと思ったのがインドです。インドはどのキーワードでも上位に出てきています。もしかしたらインドではまだ日本の「コネクテッド・インダストリーズ」が広まる可能性があるのではないでしょうか。インドと日本が協調して「コネクテッド・インダストリーズ」を広めれば面白いなと思ったりします。

日本の産業用オートメーション業界が「コネクテッド・インダストリーズ」で一致団結できないのであれば、米国の「コネクテッド・エンタープライズ」陣営側について、米国と協調してインド市場を狙っても良いのではないでしょうか。

いずれにせよ、日本が輝きを取り戻すために、「インダストリー4.0」はほどほどにして、日本の産業界が日本の「コネクテッド・インダストリーズ」で一致団結し、世界にその存在感を示してもらいたいと願うばかりです。

Next Industry Generations 1.PNG

Next Industry Generations 2.PNG

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する