アジャイルや機械学習、リーンシックスシグマなど、日々の仕事の中で見て聞いて感じた事を書き留めています。

トライアスロンとリーンシックスシグマ

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定期的にリーンシックスシグマのクラスで教えています。今週もそうでした。一日中しゃべりっぱなしのクラスを5日間連続で続けると、さすがに体に堪えますが、それでも人に教える機会が与えられ、それを聴いて喜んでくれる人がいるということは嬉しいものです。また教えることは学ぶことでもあり、何度リーンシックスシグマを教えても、そのつど新しい発見があります。

ほとんどのクラスで受講生は積極的かつ真面目に参加してくれるのですが、時々扱いが難しい生徒がいます。今回のクラスでは、上司から薦められて嫌々クラスに参加したためなのか、始めから斜に構えている生徒が一人いました。とにかくリーンシックスシグマのような問題解決のフレームワークが気に入らないのです。

リーンシックスシグマに限らず、問題解決のフレームワーク(最近はシステム・シンキングとかシステム思考とも呼ばれているようですが)は、正しい、または科学的とされる考え方の順序が決められています。そのフレームワークに沿って問題を解決しようとすることで、誰でもバラツキの少ない範囲で解答に辿り着くことができます。リーンシックスシグマ(DMAIC)などは大きな問題を考える時のフレームワークですが、その中で使われる数々のツール類は、細分化した小さな問題を考える時のフレームワークとも言えるでしょう。いずれにせよ、フレームワークに沿って問題を解決しようとすることで、誰でもバラツキの少ない範囲で解答に辿り着くことができるのです。それが問題解決のフレームワークの良いところです。

ところが、斜に構えている彼はフレームワークのそこが気に入らなかったようです。つまり彼から言わせれば、「考え方を強制されることに我慢ができない。もっと自由に考えたい。新しいアイデアや発明は自由な考え方からしか生まれない」ので、「リーンシックスシグマは役に立たない。従ってこのクラスは時間の無駄である」と、いうことでした。

これはリーンシックスシグマ(またはその他のフレームワーク、システム思考)に対する典型的な反論だったので、僕はその反論に丁寧に答えてみました。

彼が言うことにも一理あります。「革新的なアイデアや発明」は、確かに自由な発想や自由な考え方から生まれるものでしょう。

もし彼が、例えばスティーブ・ジョブズのような天才なら、リーンシックスシグマは必要ありません。むしろリーンシックスシグマは害になるでしょう。自分の直観や美意識を重視すべきです。先にも書いたように、リーンシックスシグマのような問題解決のフレームワークは「誰でも」使える、つまり「凡人による凡人のための」フレームワークだからです。彼はまず、自分が天才なのか、それとも天才でないのかを知っておく必要がありました。

「革新的なアイデアや発明」ではなくて、「新しいアイデアや発明」、つまり特許レベルのアイデアや発明のことを彼が意味したのだとすれば、話が違います。

リーンシックスシグマでは、矛盾した問題を解決するために、例えば「TRIZ」というツールをを使うことが良くありますが、TRIZを開発したアルシュラー(Genrich Altshuller)による4万件以上の特許の解析から、95%以上の特許は既存技術の変更や組み合わせであることが分かっています。

多くのビジネスはこの95%の範囲で成り立っているため、5%の革新的な特許を「偶然」見つけるよりも、95%の汎用的な特許を他社よりも「少しでも早く」開発する方が重要になってきます。「問題解決の確率」を野球に例えて言えば、リーンシックスシグマのようなフレームワークは、時々ホームランを打つかもしれない気まぐれな打者では決してなく、むしろいつも確実にバントで塁を獲る堅い打者のようなものです。また「問題解決の速度」は、トライアスロンとオリンピック・プールの競泳に例えることができます。

僕は若いころトライアスロンをやっていましたが、あの水泳はいつも大変でした。泳いでいて人とぶつかって怪我をするし、ゴーグルが人に蹴られて壊れてしまったり、浜の浅いところでは砂が舞い上がって何も見えなくなり、深さも距離も方向も何も分からなくなってしまうことばかりでした。もし「何でも自由にやらせて欲しい」という人がいれば、トライアスロンの水泳を是非お勧めします。

それに比べて、オリンピック・プールでの水泳は何と泳ぎやすいことでしょう。半分の力でトライアスロンの水泳の倍のスピードがでます。色々ルールが厳しくて自由ではなくても、早く楽に泳げるオリンピック・プールの方が絶対に快適です。それに新しい発明(泳法や水着)はいつもオリンピック・プールから生まれます。規制があっても発明は生まれるのです。

自由に考えて仕事がしたい彼はトライアスロン選手(頑張ってください)、リーンシックスシグマのトレーニングを受けて、それをマスターした生徒はオリンピック・プールの競泳選手、そのくらいの違いは出てくると思います。

僕もかつては彼のように、リーンシックスシグマに対して斜に構えていましたが、その快適さを知ってからは、リーンシックスシグマに限らず、フレームワークに沿った考え方が大好きになりました。きっとそのうち彼も分かってくれると思います。

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