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SAFe 導入、最初の1年を振り返って(1/2)

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僕が所属する製品開発部がSAFe(Scaled Agile Framework)を導入してからちょうど丸1年が過ぎました。300人以上の部員たちが一斉にその新しい製品開発フレームワークに乗り換えるという一大イベントは、良い面と悪い面、期待と混乱、建前と本音、規範と泥臭い衝突など、そのすべてが僕の30年近い製品開発歴の中で、もっとも興味深い"変化"の経験となりました。その新鮮な体験が色あせてしまう前に、備忘録とし2回に分けてここに残しておきたいと思います。これはその第1回目です。

1. SAFe とは、

ご存知のように、エンタープライズ・アジャイルは大きく2つフレームワークに分かれます。一つはディシプリンド・アジャイル・デリバリー(Disciplined Agile Delivery、通称 DAD)、そしてもう一つがスケールド・アジャイル・フレームワーク(Scaled Agile Framework、通称 SAFe)です。米国ではフォーチュン100企業のうち70%の企業がSAFeを採用しており、米国でエンタープライズ・アジャイルと言えばSAFeを指すと言っても過言ではないと思います。SAFe.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/#

70%という数字はSAFeをビジネスとして展開している本部、Scaled Agile, Inc.が発表している数字です。実際はどうなのかと思って、僕の非常に限られた半径20Kmの交友範囲に尋ねたところ、Jonson Control、GE Health Care 、FIS、Northwestern Mutual など、フォーチュン100 ではありませんが、フォーチュン500企業に勤める友人たちは口を揃えたように「SAFeのこと?もちろん使ってるよ」と100%近くの回答を得ました。案外「フォーチュン100企業のうち70% の企業がSAFeを採用している」というScaled Agile, Inc.発表は、僕の実感と照らし合わせても正しいのではないかと思いました。

"SAFe をビジネスに・・・"と書きましたが、SAFeは単なる"フレームワークの定義"だけではありません。SAFeはトレーニング、教材、コンサルティング業務、資格認定など、Scaled Agile, Inc.によって管理・運営されているとても大きなビジネスです。どれほど儲かるのかは知りませんが、世界中の大小様々なコンサルティング会社がScaled Agile, Inc.と提携してSAFeをビジネスとして展開しているようです。

SAFeはビジネスになっているので、そのサービスを利用した場合、導入にはかなりのお金がかかります。でもそれは悪いことばかりではありません。トレーニング体系や教材などの品質が高く保たれている、という良い面があります。

フレームワークとしてのSAFeの情報は書籍やウェブサイトを通じて公開されているので、もし安上がりに始めたいのであれば、自分たちだけで試行錯誤しながらでも始められるでしょう。しかし「企業としてすぐにでもSAFeを使って実績を上げたい」のであれば、高いお金を払ってでも、トレーニングやコンサルティング・サービスを受けた方が遥かに成功率が高いのではないか、というのが僕のSAFeに対する印象です。

2. SAFe導入のきっかけ

僕が所属する部署は、ソフトウェア開発、ファームウェア開発、ハードウェア開発、機械設計、規格認証テスト、製造設備開発などが複雑に絡み合った製品を開発していました。また新製品のリリースを決められた納期に合わせようとして、それらの開発作業が平行して進められるため、事情がさらに複雑なものになっていました。一番の問題は、部門間の依存性の高さを起因とした工程管理の乱れや、複雑で困難な意思疎通・意思決定などでした。

それぞれの開発チームが車両として一つの列車(Agile Release Train、通称 ART)として編成され、同期しなから進んでいくというSAFeは、それらの問題を解決してくれるものとして期待されました。(実際は、約10両編成の2つのARTを運行しました。2つの列車が同期しながら運行表に従って運転されているような感じです。前述のNorthwestern Mutualは10以上ものARTを運行していると言っていたので驚きです)Agile Release Train.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/agile-release-train

SAFeはソフトウェア開発だけでなく、ハードウェア開発にも使えると宣伝していますが、僕の意見ではSAFeはソフトウェア開発だけを前提に定義されているように思えました。それでも僕が所属する部署ではその製品の性質上、ハードウェア開発チームや機械設計チームなどを別にすることができないため、そのようなチームも車両としてARTに編成しました。それはすべての部門を同期し、新製品のリリースを決められた納期に間に合わせるためのものでした。

3. SAFe導入方法

契約したコンサルタントの指導のもと、いわゆるコッターの8段階のプロセスと同じようなSAFe導入ステップに従って、全員をトレーニングし、ARTを編成し、SAFeを構成する要素を一つずつ着実に導入していきました。

僕にはSPC(SAFe Program Consultant)という役割が与えられたので、SPC のトレーニングを受け、認定試験に合格し、契約したコンサルタントの手足となって、SAFeの導入に携わりました。(他にもSAFe Agilistのトレーニングと試験を受けました)

SAFeは現在8種類のトレーニングとその認定資格を用意していますが、チームの全員が、その役割に応じて、なんらかのトレーニングを受けました。またトレーニングは段階的にゆっくりと行われたのではなく、2か月程度の短い間に、まだ皆のSAFeへの期待の熱が冷めないうちに、一斉に 行われました。まさに一気に教育、一気に導入といった感じでした。SAFe Implementation.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/implementation-roadmap/

この続きはまた近いうちに・・・

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