日々の「ハッ、そうなのか!」を書き留める職遊渾然blog

「一昨日の晩ご飯を思い出す」ことができると、どういう能力が高まるのか

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「重要なことを忘れないためには忘れることが重要」という記事を読みました。これは、スタンフォード大学の研究者が発表した学術論文の解説。

Forgetting helps you remember the important stuff, researchers say

彼らが発見したのはこういうことです。

脳は無関係な記憶を抑制することで、本当に重要なものを記憶することを容易にしている

For the first time, Stanford researchers using functional magnetic resonance imaging (fMRI) have discovered that the brain's ability to suppress irrelevant memories makes it easier for humans to remember what's really important.

ちょっと分かりづらい?ではこちらはどうでしょう(はしょった訳で恐縮です)。

何かを覚えようという行為は、脳内の記憶の重み付けの見直しを伴います。次からはもっと容易に覚えられるように適応していくということです。このとき、ある記憶を強化する一方である記憶を弱めてもいるのです。

According to Wagner, the findings demonstrate the brain's ability to discard irrelevant memories. "Any act of remembering re-weights memories, tweaking them to try to be more adaptive for the next time you try to remember something," he said. "The brain is plastic—adaptive—and one feature of that is not just strengthening some memories but also suppressing or weakening others."

つまり脳(の前頭葉)は、重要なことの記憶を高めるために、矛盾する・あるいは関係ない記憶を(積極的に)削ってしまうらしい。

そして文中に「一昨日のランチ」という言葉を見つけてハッとしました。一昨日の食事を思い出すというのは、脳科学者の間では定番のクイズなのかな。

The act of remembering is a complex cognitive activity because memory is associative, Wagner said, meaning that when someone, for example, thinks about what they ate for lunch the day before, it's likely to tap into memories of other lunches. "In order to remember, we need a set of mechanisms that allows us to select and target the memories we want, and allow them to win out over competing but irrelevant memories," he said. "So, initially, any act of retrieval is very resource intensive and places heavy demands on attention mechanisms in the prefrontal cortex." But when the competing but unimportant memories are successfully suppressed, fewer demands are placed on the frontal lobes to remember the relevant memories.

つまり、一昨日のランチを思い出そうと繰り返し努力すれば、関連する記憶の見直しが行われ、「ランチを重視する脳」になります。ですから徐々にランチを思い出すのは容易になるでしょうね。ただ、これは前頭葉が元々持っている機能で、記憶力が高まったわけではなさそうです。一方で、ランチのことを覚えておくために退場させられる記憶もあります。とすると、本人が重要と思っていない事柄をやみくもに覚えようとすることで、本来記憶しておくべきことを忘れてしまうという皮肉な結果になったりして。

今週は一昨日のランチを、来週は一昨日会った人の顔を思い出す、というように、「重要とは思っていないことを無理矢理重要視して思い出す訓練」を積んでいけば、記憶の重み付けを見直す(re-weights memories)能力は高まるかもしれません。その能力にどういう意味があるのはさておき。

…なんとなく、一昨日の晩ごはんを思い出せない自分の自己弁護を懸命にしているような気になってきました。そもそも「脳力」の定義も知らなければ「脳を鍛える」と称するゲームの目的も効果も知らないので、この辺にしておきます。

この記事でほんとうにハッとしたのは、「その対象を重要と見なすことで、記憶しやすくなる」ということ。
個人や組織の意思決定に決定者の主観がどのように寄与するかを考えるうえで、参考になる記事でした。

で、「この記事は重要!」と脳に教えるためにblogを書いている次第。

 

▼ネタ元
Bob Sutton: Stanford Study: Forgetting Helps You Remember The Important Stuff

▼参考
情報収集が先か、決断が先か - @IT自分戦略研究所

Comment(2)

コメント

mohno

昔、刑事ドラマなどで「先週のX曜日の夜、どこにいた!」と詰問されるシーンを見るたびに、自分だったら絶対思い出せなくて怪しい人物と思われるのだろうなあと感じてました^_^;
家族で出掛けるときも、妻と子供が何色の服装であるかを“意図的に”覚えておかないと、はぐれたときに大変困ります^_^;;

> 家族で出掛けるときも、妻と子供が何色の服装であるかを“意図的に”覚えておかないと、
分かります。見失ってから「アレどんな服を着ていたっけ」となります…。
その他のことも、自分としては興味を持って「傾聴」していても、ぜんぜん覚えていないので後で叱られたりします。そういうメカニズムがよく分かる気がして、この記事は面白く読みました。

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