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"エンジニアとしての生き方"の感想

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"エンジニアとしての生き方"を読んで感想です。著者の中島 聡氏は有名な方で、改めて説明する必要もないと思いますが、ブログなどを参考になるかと思われます。

本書を一言で評価するならば、"すごくおもしろい"です(あほっぽい評価ですが、シンプルな表現で)。文字数がそれほど多くないため、数時間程度で読み終わります。また、若ければ、若いほど本書に向くいいと思います。出来れば、大学生もしくは就職したばかり方のほうが本書で伝えたいことがダイレクトに通じると思います。

ソースの書き方に関するアドバイスがありますが、至極全うで驚きました。一度とりあえず、作ってそれからはリファクタリングを勧めていますが、私も今作っているものに関して、一度作ってから、作り直してしています(3回ぐらい直した)。すこしずつ機能追加も行いますが、やはりまずは全体像やネックになるところを見つけるためにも、一度ある程度動作するものがないといけませんね。そのほうがトータルコスト的に良さそうに思えます。

Intelの作成方針の話は初めて聞きました。「ある開発プロジェクトに対する社内評価は、どれだけ最終製品をいくらで出荷したかが判断基準になる」は、非常に合理的です。最近の開発はテクニカルすぎるため、分業制です。このため、製品の極一部しか携わらないものです。

ですが、製品をトータルで見なければ自分が受け持った機能は仕様通りで問題ないのかが実質見えません。また、上流工程で、後は下流工程に任した的な先送り傾向が見えるのもトータルで製品を見ない癖のあらわではないかと思われます。このあたりに責任分担が、分業制の弊害でしょう(コストを考えると分業制の方が効率的)。このため、Intelの方針はこの問題を解決する一つの方法だと思われます。このあたりは、他のグループも見習うべきだと思います。

”勝てば官軍、負ければガラパゴス”と表現は、競争原理を最もうまく表現しています。この競争原理の表現は、現在の日本の携帯電話がその象徴ですが、もっと昔のApple(Mac)を思い出すと、この逆転現象からこの表現が適切だと分かります。

スティーブ・ジョブズ氏が復帰する前のAppleは倒産するか、買収されるかのどちらかと言われていました(Sunによる買収の一歩手前まで来ていた)。この当時のMac OSのシェアと閉塞的(このとき、ライセンスしていましたが)ライセンスから、ガラパゴスと呼んで差し支えないでしょう(ワールドワイドに展開していてもシェア的な意味合いで)。

ですが、ジョブズ氏の復帰を境にApple復活劇は、鮮やかです。現在のクローズドなMac OS Xのライセンス形態は以前と同じ(Mac OSはライセンスはしなくなったので、同じではないですが)ですが、シェア回復やiOSのシェア(2011.4でMac:5.40%、iOS:2.24%)を考えると、Appleの製品を誰もガラパゴスと言う人はいません。勝てば、どれだけクローズドでもガラパゴスと言う人はいないのです。

”好きこそ、もののなりにけり”に関して、マラソン選手の高橋尚子選手が紹介されていますが、指導者の小出監督も、有森選手(バルセロナ銀、アテネ銅)と高橋選手(シドニー金)の差が好きか・そうでないかの違いであると評していました。やはり、苦痛な作業と好きな作業では、作業効率と継続は違うものです。

知識量・記憶量と適応力・応用力に関する考察は、非常に面白いと思います。私も以前から、WEBで調べる量が多くなると数学の公式とかなんで覚えたんだろうかと思うことがあります。確かに、知っていれば調べるよりも早く作業開始は可能です。ですが、膨大な量を覚えることは実質不可能です。

ならば覚えることは最低限にして、それ以外はどこかにまとめておくか、調べることにしておけば効率的です。同じ情報を知っても、流用できるかどうかは違います。例えば、Google MapのAPIを知っても、時系列の地震分布マップを作ることはなかなか難しいでしょう。このあたりは、やはり同じ情報を持っても、用いた方が違うのです。

MBAの授業において企業が持つ最も価値の高い差別化要因のゴールは、組織だって作り出す能力そのものとなっています。この反論として著者が、Appleのジョブズ閣下の話を切り出すと、議論になり最後は”ジョブズが本当に偉大なCEOであれば、彼がいなくなっても引き続きすばらしいデバイスをつくり続けることができる組織を作ってから引退するはず”と結論になっていますが、これは面白いことです。

人は、金を残すのは3流、物を残すのが2流、人を残すのが1流と言う言葉がありますが、それが現在でも通じることになっています。

上記の感想は書くパラグラムのつまみ食い的な感想で、本書の良さをうまく伝えることが出来ていません。本書は、人に勧めたいと思えれるレベルの本です。ぜひとも若い人には手にとってほしいものです。

久々に、人に勧めたい本に出合えました。

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