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マーケティングのはじめの一歩は消費者を理解することから。変化する消費者動向をとらえるためには仮説が大事。このブログでは消費者理解のための様々な仮説をデータに基づいてご紹介。商品開発・ブランディングのコンサルタントとして、あらゆる市場のイノベーションを目指して日々格闘している大久保惠司がお届けします。

「ソニー♡おにいさん」について-データから見るペルソナ図鑑(11)-

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 今年の4月に相次いで発表された日本の大手電機メーカーの2011年度の決算。まさに総崩れという状況でした。その中でもソニーは過去最大の5200億円の赤字を計上するという厳しいモノになりました。この発表を受けて、ここ一ヶ月くらい、多くの方々がソニーの再生について語っています。ソニーは多くのファンに支えられる、日本を代表するブランドです。しかし、ポータブルミュージックプレイヤー市場でアップルの後塵を拝してから、そのソニーファンの質も変貌してきたのではないでしょうか?と、いうわけで今回は「ソニー好き」な人々のペルソナを追ってみたいと思います。


【10代〜20代の男性に「ソニー好き」が多い?】

 クラウド型消費者分析ツール「ぺるそね」の29,093人に「好きな家電メーカーは?」と聞いたのが以下のグラフです。複数回答なので重複はしていますがトップが「パナソニック」二位が「ソニー」でした。女性に限ると二位はシャープとなります。1990年代から2000年代の始め頃までは、最も好かれている家電メーカーは「ソニー」だったと記憶しています。マクロミルが提供している「ブランド・データ・バンク」では好きな家電メーカーのランキングを2004年から時系列で見ることができますが、当初ずっとトップだった「ソニー」が「パナソニック」に逆転されたのは2008年前後でした。

 好きな家電メーカーブランド
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 年代別に見てみると、ちょっと様相が変わってきます。10代〜20代の男性に限れば「ソニー」はトップに立ちます。そして全体では10位に入っていた「アップル」が5位に入ってきます。20代の男性の好きな家電メーカーのグラフでは、比較対象として男性全体のデータを表示しています。興味深いのはソニーとアップルを除くと、男性全体の数値より上回っているメーカーブランドはないということです。これは、若い人々の家電製品に対する興味が失われていることの現れなのでしょうか?いずれにしてもソニーの未来を支える20代の男性に絞って見ていくことにしましょう。

 20代男性の好きな家電メーカー
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【好きと答えているけれど...】

 ぺるそねの29,093サンプルの内、20代の男性でソニーが好きと答えている人は965人いらっしゃいます。この人達を「ソニー♡おにいさん」と定義します。「ぺるそね」ではポータブルミュージックプレイヤー、デジタルカメラ、パソコン、液晶・プラズマTV、ゲーム機、携帯電話について所有しているブランドを聞いています。ソニーが好きと答えていながら本当にソニー製品を買っているのか?を調べてみました。比較対象として「アップルが好き」と答えている同世代の男性(470人)を設定し、見ていくことにします。こっちは「アップル♡おにいさん」としましょう。グラフはSONY好きな人がSONY製品を購入している率とAPPLE好きな人がAPPLE製品を利用している率を表しています。(携帯電話はソニーエリクソン製をソニーの製品としてカウント)

 それぞれが好きなメーカーのものを所有しているか?
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 「ソニー♡おにいさん」が選んでいるブランドは「液晶プラズマTV」「携帯電話」を除いてソニーがトップに来ています。(ちなみにその二つのカテゴリーでトップに来たのは「シャープ」でした)。ところが、これが圧倒的というわけではありません。過半数を超えているのは「ゲーム機」だけでした。ウォークマンですら、3人に1人しか所有していません。

 これは「アップル♡おにいさん」についても同じで、アップルが販売しているカテゴリーで見てみると、携帯電話を除いてアップル製品がトップになっています。しかし、過半数を超えているのは「ポータブルミュージックプレイヤー」だけです。携帯電話ではこちらもシャープが僅差でトップでした。

 これを見る限り、SONY好きな20代男性の多くは「プレイステーション」によってSONY好きになり、APPLE好きな20代男性の多くは「iPod」によってAPPLE好きになっていると言えます。つまり、最近のソニーを代表してきた製品とは「プレイステーション」であり、アップルを代表してきた製品は「iPod」であるということです。アップルの次の主軸がiPhoneになっていくことは予想がつきますが、ソニーの次の主軸は一体何になるのでしょうか?


【「ソニー♡おにいさん」 VS 「アップル♡おにいさん」】

 それでは、「ぺるそね」を使って「ソニー♡おにいさん」と「アップル♡おにいさん」を見てみたいと思います。

ソニー♡おにいさんの特徴
    • 売れ筋ランキングを参考にして買い物をすることが多く、自分が周囲からどのように思われているか気になっている。
    • 「かっこいい」とか「ユニーク」と思われたいと考えている
    • 趣味はテレビゲームがダントツで、漫画、カラオケ
    • 興味・関心事はアニメ・漫画、ゲーム、ファッション、恋愛・結婚など

アップル♡おにいさんの特徴
    • 売れ筋ランキングを参考にして買い物をすることが多く、自分が周囲からどのように思われているか気になっている。(ここはソニー♡おにいさんと同じ)
    • 「センスがよい」とか「頼りがいがある」と思われたいと考えている
    • 趣味は音楽鑑賞、漫画、テレビゲーム、ショッピング、カラオケ、音楽演奏
    • 興味・関心事はアニメ・漫画、ゲーム、ファッション、雑貨・インテリア、語学、恋愛・結婚、デザイン、ライブ・イベント、アートなど

 年代的な特徴からか似通った部分はありますが、例えば趣味では、「ソニー♡おにいさん」の方はゲームがトップになっているのに対し、「アップル♡おにいさん」は音楽鑑賞がトップに来ている。興味・関心事では「アップル♡おにいさん」の方が幅広い領域に関心を持っており、特に、雑貨・インテリア、語学、デザイン、ライブ・イベントなどの興味が高くなっている。また、ファッションでも、「アップル♡おにいさん」の方が、セレクトショップ系のブランドや流行のブランドの好みが鮮明で、おしゃれなイメージが強くなっている。といったところがめだちます。いつものようにペルソナ・イラストにまとめましたのでご参照下さい。

 ペルソナ・イラスト
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【どうなる「ソニー♡おにいさん」の今後】

 ブランディングコンサルタントのマーティー・ニューマイヤーは「ブランドの内容は、企業が定義付けすることではなく、消費者が定義することです。」と言っています。であれば、今回のゲームが大好きな「ソニー♡おにいさん」は今のソニーを象徴したペルソナかもしれません。

 今までソニーが提供してきた製品、ポータブルオーディオ、デジタルカメラ、ゲーム機などのことを考えてみると、そのほとんどがスマートフォンやタブレットなどのアプリケーションやサービスに、とって変わられてしまう時代がすぐそこに迫っています。前述の通り、次のアップルを代表する製品は「iPhone」になるでしょうが、次のソニーを代表する製品は一体何になるのでしょう。消費者は製品やサービスの利用(ブランド体験)を通してそのブランドのファンになっていきます。ソニーは早急に次のブランド体験をデザインする必要性に迫られている、と言えるでしょう。

 さて、最後に私の大好きなスティーブ・ジョブズの言葉を引用して終わりにしたいと思います。瀕死のアップルに復帰したとき、ジョブズはこういいました。


「アップル社再建の妙薬は、費用を削減することではない。現在の苦境から抜け出す斬新な方法を編み出すことだ。」


*データは全て2011年9月「ぺるそね」調べ。n=29,093
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