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UXデザインに興味ある人必読の書「EXPERIENCE VISION」

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今回は、昨年出版された書籍「エクスペリエンス・ビジョン: ユーザーを見つめてうれしい体験を企画するビジョン提案型デザイン手法」を紹介したい。

ビジョン提案型のデザインアプローチ

 ユーザエクスペリエンスデザイン(以下、UXデザインと略)が注目されるようになって久しいと、そろそろ表現しても良いかもしれない。ユーザエクスペリエンスデザインは、単にユーザインターフェースが使いやすいとかそういうレベルではなく、ユーザの潜在ニーズまで考え抜いて、うれしい体験を企画し、体験してもらうデザイン手法である。

 本書は、元日本IBMでThinkPadシリーズのデザインを担当されたことでも知られる、千葉工業大学の山崎先生を中心にしたグループが共同執筆したもので、顕在化した問題からスタートする「問題解決型」ではなく、ユーザの潜在ニーズや「本質的な欲求」に気づき、ビジョン提案型のデザインアプローチをとる、UXデザインの一手法を、大変実践的に紹介したものである。

 著者: 山崎 和彦, 上田 義弘, 高橋 克実, 早川 誠二, 郷 健太郎, 柳田 宏治 
 出版社: 丸善出版 (2012/7/13)
 ISBN-10: 4621085654 ISBN-13: 978-4621085653
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「そうだよ、こういうのが欲しかったんだよ」をデザインする

 たとえば、サービスや製品のデザインの現場でよくあるのは、顧客の困りごとを調査し、それを解決することで、仕様を決めているデザインプロセスである。これはこれでプロセスとして間違いではないが、できあがったものが顧客にとっては当たり前の価値と捉えられてしまう場合もあり、現代のように高度化したサービスがしのぎを削る業界のなかにあって、魅力度が際立つレベルに設定するのはなかなか難しい。

 これからの製品やサービスのデザインに求められるのは、より心に響く感動や、体験を提供するアイデアやビジョンである。ユーザ自身が気づいていない「潜在ニーズ」にまで思いをめぐらせ、「そうだよ、こういうのが欲しかったんだ」と言ってもらえる企画、デザインが求められているのだ。

 本書はそんな理想のデザインを現実のものにするための、いくつかの手法を紹介している。本書で紹介されているデザインプロセスは、日本人間工学会アーゴデザイン部会ビジョンデザインワーキンググループにより開発されたものだそうだ。すでに数多くのワークショップが開かれ、この手法を学んで実際にデザインプロセスに反映させている企業も数多いと聞く。


ビジョン提案型デザインプロセスの概略イメージ

 本書の提案するデザインプロセスをかいつまんで解説してみると、まず最初に、プロジェクトの目標を確認する。それも、「使いやすさ」のレベルではなく、デザインするサービスや製品の提供する「価値」に視点を置くことが重要だ。

 次にユーザ調査を行い、ユーザを理解し、ユーザの本質的欲求を探っていく。本書では、行動観察やインタビュー、フォトエッセイ法など、数多くの手法のなかからいくつかを簡単に紹介するにとどめている。ここは、本当に多くの手法があり、たくさんの書物も発行されているので、詳しくはそちらをというスタンスのようだ。

 実は、本書で紹介されているUXデザインプロセスで特徴的なのは、このあとである。

 ユーザの本質的欲求を把握した後、顧客に提供する価値をシナリオとしてまとめ、徐々に具体的な細部までデザインを進め、最終的に企画提案書にまで落とし込むプロセスとして、「構造化シナリオ」のプロセスという考え方を導入している。

 具体的には、サービスや製品の提供する価値に着目する「バリューシナリオ」、サービスや製品の機能や活動に着目する「アクティビティシナリオ」、操作レベルのことに着目する「インタラクションシナリオ」の各段階に分けて、徐々に具体的なシナリオに落とし込んでいき、サービスや製品の細かな仕様(デザイン)を決定していくのが構造化シナリオのプロセスである。


UXデザインの教科書~競争力のあるサービスや製品を開発するためにお薦め

 特に本書では、この構造化シナリオを使ったデザインプロセスについて、具体的な事例とともに紹介されているので、とてもわかりやすい。
 この手法を身につけるには、何度かワークショップに参加するような機会があると理想だが、そのためにも本書は良い教科書であると思う。また、ワークショップになかなか参加できない方にも、十分の手法の基本的な考え方がわかりやすく伝わると思える、良書である。UXデザインに興味のある方にはぜひお薦めしたい。



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