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日本の電子書籍、普及はいつ?

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今回は日本における電子書籍について考えてみたい。

●なかなか本格化しない日本の電子書籍の普及
 2010年にはAppleがiPadを発売。その後も各社からGoogle Android搭載の機種を含め、電子書籍の閲覧に向くタブレット端末が人気を集めている。昨年2012年にはAmazonが電子書籍コンテンツ販売のkindleストアを開始し、日本の電子書籍市場に本格的に参入した。
 このところ毎年のように、今年こそ電子書籍元年になるだろうといわれているが、なかなか電子書籍の本格的な普及が始まらない。いったいなぜなのだろうか?本格的な普及はいつになるのだろうか?

●従来型の電子書籍市場は携帯電話向け特殊コンテンツが牽引
 まずはこれまでの電子書籍の市場がどんな具合になっているのか調べてみた。昨年の市場調査レポートから見てみよう。


ICT総研は7月10日、2012年度電子書籍コンテンツ需要予測に関する調査結果を発表した。

 同社の調査によると、2011年度の電子書籍コンテンツ市場規模は671億円で、同社が予測していた700億円を下回った。スマートフォンやタブレット、電子書籍専用端末向けの電子書籍市場がまだ活性化しておらず、2012年度以降の市場成長も当初想定されていたものより鈍くなるとしている。

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電子書籍コンテンツの市場規模(出典:ICT総研)

  このレポートで、2011年度の電子書籍市場規模671億円という数字は、一見大きな規模を獲得しているように見えるが、実はこの大部分が従来型携帯電話向けで、若者向け、マニア向けのコミックなどが中心である。すなわち、一般の書籍コンテンツではなく、日本の従来型携帯電話の環境で育った独自コンテンツであることに注意したい。一般の書籍が電子化された電子書籍をイメージする場合、従来型携帯電話向けコンテンツは、一旦除外して考えた方が良い。

 そうすると、従来型携帯電話向けを除外した日本の電子書籍の市場規模は、2011年が96億円。すなわち、若者向け、マニア向けの特殊なコンテンツを除き、日本では電子書籍の本格的な普及は本当にまだこれからといえそうだ。


●電子書籍を売るプラットホームの乱立
 それではなぜ、日本の電子書籍の本格的な普及が遅れているのだろうか。ひとつの原因に電子書籍を売るプラットホームの乱立があると思う。
 ここでいうプラットホームとは、ユーザがWebやスマートフォン、タブレット、専用端末などを使って電子書籍を購入し、ダウンロードし、読書を楽しめる仕掛けのことである。
 電子書籍を売るいわゆる"電子書店"は、それぞれ独自のプラットホームを用意している。このプラットホームごとに用意される電子書籍のデータ(コンテンツ)は、プラットホームが異なると利用できない。つまり、たとえばAmazonの電子書籍と、楽天のkoboの電子書籍の間には互換性がなく、お互いに他の電子書店の書籍を読み込んで端末に表示することができない。
 ここ数年、以下の表に示すようにいくつもの電子書店がサービスを開始しており、ユーザとしてどこを選んで良いのか混乱してしまいそうな状況だ。それぞれのプラットホームごとに使える端末も異なる。専用端末を先に選んでしまうと、読みたいコンテンツが他の電子書店にあっても読めないことになる。電子書店とプラットホームに関する知識なしで電子書籍を選べないのが、残念ながら今の現実である。


電子書店
運営会社

対応端末(注)

iPhone, iPad,

iPodtouch

Android PC Mac 専用端末、ほか
Kindleストア Amazon Kindle
ReaderStore SONY × × SonyReader,  PSVita
GALAPAGOS 

STORE

シャープ × ×
koboイーブックストア 楽天 × × × × kobo
紀伊國屋書店

BookWebPlus

紀伊國屋書店 SonyReader, 

Panasonic UT-PB1 ほか

honto トゥ・ディファクト ×
BookLive! BookLive × Lideo
  2013年1月現在   注: △は海外では対応済みだが、日本では未対応 

 このほか、現時点ではコンテンツの充実度が低く、読者にとって欲しい本が電子化されていないという現実もある。


●今年こその期待

 そんな日本の電子書籍市場であるが、ようやく大きな変化が起きそうな予感がする。

 一番大きいのはスマートフォンやタブレット端末の普及だろう。

 これまでの電子書籍は専用端末(Amazon kindle、 SONY Readerなど)で利用するイメージが強かった。従来の携帯電話の画面は小さく、細かい文字を表示するには厳しいものがあり、電子書籍の普及はマニア層など一部のユーザにとどまったと考えられる。

 しかし最近では、より大きな画面をもち、電子書籍にも向いたスマートフォンやタブレット端末で電子書籍コンテンツが楽しめるようになってきた。今後はどの電子書店のコンテンツでも、どのスマートフォンやタブレットでも利用できるのが当たり前になるだろう。そうなると、プラットホームの乱立の問題はかなり解消される形になりそうだ。

 また、スマートフォンなら、従来の携帯電話独自コンテンツだった電子書籍の読者にも、より一般的なジャンルのコンテンツに乗り換えやすいのもメリットだ。

 このエントリーを書き始めたところでタイミング良く、MMD研究所の調査レポートが発表になった。2カ所ほど引用しよう。


 次に、「電子書籍を読んだことがない」と回答した人のみ(N=244)を対象に、電子書籍を読んだことがない理由について調査したところ「電子書籍を読める端末を持っていないから」が50.0%と最も多く、次いで「紙の書籍のほうが好きだから」が33.6%、「電子書籍は読みづらそうだから」が27.9%という結果となっている。



 電子書籍利用意向者(N=132)を対象に電子書籍を読むならどの端末で読みたいかという質問をしたところ、「タブレット端末」が53.0%と最も多く、次いで「スマートフォン」が45.5%という結果となった。ちなみに、電子書籍専用リーダーは26.5%という結果となっている。

 このレポートを読むと、電子書籍に興味のある潜在ユーザが、電子書籍を読むためだけに専用端末を購入するのをためらっている姿が見えてくる。これまでよりも手軽にタブレットやスマートフォンで電子書籍が読めるようになることで、気軽に電子書籍とつきあうことができるようになり、普及はどんどん進みそうに思える。

 また、昨年のAmazonの日本における電子書籍販売の本格スタートも大きな出来事だった。Amazonの電子書店kindleストアは、電子書籍の普及を引っ張ってきた存在であり、専用電子書籍端末としてのkindleを販売するだけでなく、早くからスマートフォンやタブレットでも同じコンテンツを快適、便利に楽しめるのも特徴としてきた。しかも、複数の端末を持ち替えながら、続きを連続して読み進めることができる便利な仕掛けまで用意されている。このように利便性でも他の電子書店をリードしてきたのである。Amazonのもうひとつの武器は、出版社だけでなく、個人が簡単にコンテンツを執筆して出版できるシステム『kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)』を用意していることだ。このシステムにより、Amazonは書籍コンテンツを一気に充実させる可能性がある。そして、最大の武器は海外における電子書籍の圧倒的な提供タイトル数やユーザ数だ。これを背景に、同社が日本でどのように電子書店のサービスを拡充させていくか、注目したい。

 もちろん、既存の日本の電子書店も負けてはいない。日本の事情に合わせたやりかたで魅力的なタイトルをそろえ、Amazonを迎撃するだろう。従来型携帯電話向けコンテンツでこれまで成功してきた電子書店もその経験を生かし、一般書籍にも力を入れてくるだろう。また、AppleやGoogleも海外で電子書籍分野に既に参入しており、まだ本格的でない日本市場への今後の展開には目が離せない状況だ。

 日本における電子書籍の本当の普及元年は近いかもしれない。








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