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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

リブート第8回「学校へのタブレット導入事例 ~望月陽一郎先生のお話より~」

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現役の先生に教育現場のICT活用について伺いました(2014/10/15初公開分をリブート)

リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。

中学校で教諭をされておられる望月陽一郎先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。

【望月陽一郎先生・略歴】
大分市中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経て、現職。


【前回の概要】

前回(リブート第7回目)では、

  • 望月先生が校内研修(ICT利活用)に力を入れているのは何故なのか。どのような意図があるのか、
  • 具体的には何を実践されているのか

が気になり、取材をしました。

その理由として、

  1. 「校外より校内、長時間より短時間で効果的な講座を受けたい」というニーズに答えたいから
  2. 学校で求められる
    ・効果的な授業を行うこと。
    ・子どもたちの学力を向上させること。
    ・情報活用能力をつけさせること。
    http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2017/11/ict.html より引用)

の3点を実現するためには、先生方のICT活用能力の向上が必要であるから。

ということがわかりました。

今回(リブート第8回目)は、前回を踏まえた上で、望月先生が勤務されている中学校にタブレットを導入されてからの体験談・実践を中心に伺いました。

タブレットの導入

‐望月先生は、iPadやWindowsタブレットを授業で活用されているそうですね。導入までのお話を伺ってもよろしいでしょうか。

望月先生 私が勤めている学校がある市内では、昨年度(2013年)タブレットが各中学校に導入されました。以下、簡単にまとめてみました。

タブレットの導入状況(一校あたり)

  • iPadが10台・・・学校規模に関わらず同じ台数です。大規模校(900人)の場合、iPad1台あたりの生徒数は約90名となります。
  • AppleTVが1台・・・無線投影のため。WiFi環境(アクセスポイント)も同時に整備。
  • 充電庫兼収納庫が1個・・・鍵がかかる収納庫です。

導入時に問題と感じた点

  • 指導者が1台提示に使うと学習者用は9台となるため、グループでの活用しかできない。・・・1クラス30~40人なので、3~4人に1台。(1クラスに集中して使用するとして。その場合他のクラスは使えない。)
  • プロジェクターや大型テレビが職員室や理科室にあるものの(普通教室にはプロジェクター・テレビは常設されていない)、AppleTVが1台では同時に複数の授業で活用ができない。・・・例えば、指導者用として10クラスで同時に使うことは想定されていないと思われる。
  • 持ち運びが大変。10台集めるとかなりの重さになり不安定。・・・3代目iPad (652g)×10台=6.52kg 厚さ9.4mm×10台=9.4cm 隣の校舎の3階まで、重ねて運ぼうとして落としそうになることもありました。
  • アプリの追加不可。・・・当初入っていたアプリ(iWork、ロイロノートなど)以外は追加できないようになっていました。

望月先生 このように、タブレットをすでに使っていた(2013年当時)私としては、使いにくいなあと感じ、いくつかの工夫を始めました。

導入されてまず工夫を始めた点

  • 指導者が提示用として使う工夫から始めた。
  • 無線投影ではなく有線アダプタを導入して、テレビやプロジェクターに有線接続できるようにした。・・・無線機器(AppleTV・アクセスポイント)をはぶくことで接続が簡単になる。
  • 追加のAppleTVを購入。2箇所で無線投影できるようにした。(AppleTVとアクセスポイントをセットにした簡易パッケージを作り、バッグで持ち歩くことができるようにした)
  • 10台をまとめて運ぶためのケースを導入した。
  • アプリの追加は当初不可となっていたが、無償のものが追加できるように交渉した。・・・広告なしの無償アプリなら各中学校で追加できるようになった。Epson iProjection(無償アプリ 写真の拡大・書き込みができ、実物投影機・電子黒板が不要になる)などのアプリを導入。最初からインストールされていたiWork(Keynote・Numbers)など汎用アプリの活用を進めた。(フラッシュ型教材による小テストや授業進度表などに活用)

望月先生 このような工夫をすることで、まず先生方がiPadを使うための環境作りを進めました。

ちなみに今年度(2014年)は、市内の小学校にもiPadが導入されましたが、

  • 大規模校各12台。小規模校は各8台。
  • 前年度フィードバックしたアプリ、iProjectionなど最初からインストールされている

とのことです。

▼Epson iProjection
http://www.epson.jp/products/bizprojector/ipj/

▼Panasonic Wireless PJ(現在はこちらを使用)
https://panasonic.biz/cns/projector/download/application/ios/wirelesspj/

・・・Epson iProjection、Panasonic Wireless PJ は、プロジェクターを選ばず単体で動作することもできるアプリである。

タブレットの導入について

‐丁寧にまとめてくださり、ありがとうございました。iPadを導入する学校だけでなく、最近はWindowsタブレットを導入する学校の事例も多く見かけるようになりました。望月先生が勤務されている中学校にiPadが導入されたのは何故でしょうか?

望月先生 コンピュータ室の更新に伴い、普通教室での活用を想定してiPadが選ばれたのでしょう。導入年度の夏季休業中に学校に講師の方が来て、iPad活用について説明会も行われました。

それ以前の1学期中に、

  • 周辺機器整備
  • 貸出体制
  • 授業での活用
  • 無償アプリの導入

など、導入初期の段階はすでに終えていました。

有線アダプタ・追加のAppleTVについて

‐先生が「導入時に問題と感じた点」であげられているように、AppleTV1台では確かに使いにくい気がします。「無線LANのみ」で構築するという想定だったのでしょうか?

私が以前、勤務していた学校では、パソコンをすべて有線LANでつないで授業をしていました。無線だとネットワークが重くなるからと関係者から伺ったことがありますが。

望月先生 無線による「教室内を自由に動くことができる活用」を想定してだと思いますが、1台だけなので、iPadを10台まとめて使うイメージしかなかったのかもしれません。そこで、有線アダプタ(AppleTVより接続が簡単で安価)を複数導入し、複数クラスでiPadを使用できるようにしました。

また、追加のAppleTVを導入することで、「教室内を自由に動くことができる活用」ができる範囲を拡げました。

運搬ケースについて

‐私はかつてタブレットを10台程度、運んだときに落としそうになったことがありました。学校の授業でタブレットを使う際には、運ぶためのケース付きで導入した方がよいのではないか、と私見ですが感じました。

望月先生 導入検討の際、ケースが必要という想像ができなかったのかも。集まるととても重いので、やはり運搬ケースはあった方がよいですね。

アプリの活用について

‐「当初はアプリの追加不可」から「無償アプリ(広告なし)なら各学校で追加できる」ように変更になったそうですね。

「 Epson iProjection(無償アプリ:写真の拡大・書き込みができ、実物投影機・電子黒板が不要になる)」など、先生の活用は劇的な改善に思えます。電子黒板などのICT機器はとにかく大きいと場所を取りますし、それなりの予算が必要になりますから。

‐汎用的なアプリの活用について、具体的な事例を伺ってもよろしいでしょうか。

望月先生 当初から導入されていたiWorkの活用などを行っています。これらの実践例は、DiTT(デジタル教科書教材協議会)のサイトに、掲載していただいています。

参考記事:先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)

‐望月先生の事例で「振り返る・・・①小テストの取り組み」では、keynote で作成したフラッシュ型教材を小テストに使う方法を紹介されていましたね。

期待できる効果/ICT活用のねらい

  • フラッシュ型教材は、数操作(タッチパネル)で複製が可能。問題の文章を打ち替えるだけなので、ワープロ→印刷といった手間がかかりません。ワークシート(回答枠)は毎時間共通なので、子どもたちもすぐに問題にとりかかることができるようになっています。(問題作成時間 5〜10分)
  • 机間を回り、子どもたちの反応を確かめながら、コミュニケーションしながら問題を出すことができます。

http://ditt.jp/action/case/teacher.html?id=83&page=1 より引用

‐望月先生の取り組みは、難しい技術や特別な機器を利用するのではなく、すぐに授業に役立つ教材を作成したり、誰でもできそうなICTの活用をしたりしている所に共感しています。

多くの先生方が活用しやすいのではないか、と私見ですが感じています。

タブレットの貸し出しについて

‐望月先生の提案で、DiTTが「タブレット貸し出し」の取組を始めるようになったとお聞きしました。学校の先生方にとってありがたいことではないかと思います。

望月先生 「先導先生に支援する」という方針が示されていましたが、なかなか支援策が提示されなかったため、DiTT事務局に提案しました。せっかく多くのメーカーが会員となっていますから。

‐先生方が気後れしないで要望を伝えることは大事ですね。たとえば一学期間だけなど期間限定だとしても、とても有意義と思います。

望月先生 10台のiPadではとてもたりないため、タブレット貸し出しの取組をお願いしました。

 ・・・平成25年度3学期、DiTTより10台のiPadを借りだし。複数の教科でグループ活用。期間終了後は返却(他校へ貸し出し)。

やはり、台数が増えると、それだけで活用が拡がります。

今年度(2014年)は、日本Microsoft社にお願いしたところ、10台のSurfaceRTを借りることができました。(iPadとの併用や比較研究が目的)

‐設定に手間取ったという話もお聞きしましたが。

望月先生 初期化されていなかったためログインができず、メールで何度もやりとりをしたり機器の交換をしたりしました。学校への貸し出しということについては、メーカーもノウハウが積み重なっていないのでしょう(2014年当時)。

‐MicrosoftのSurfaceRTとiPadとの併用や比較をされたとの事。それぞれの端末のメリット・デメリットを教えていただけますか。

望月先生 今(2014年当時)検証しているところですが、

  • iPad(指導者)、SurfaceRT(グループ)と併用しても効果的である。
  • 無線投影は、「教室内を自由に動くことができる活用」にはとても有効である。SurfaceRTでは難しいため追加でSurface2を数台お借りして、無線投影を試行している。

などは言えますね。

‐現時点(2014年当時)で判明している具体的な検証結果を教えていただき、ありがとうございました。今後も差し支えがない範囲で検証結果を伺えましたら、大変ありがたいです。実体験に基づくお話を今回もありがとうございました。

[片岡より読者の皆様へ] 今回、DiTTや日本マイクロソフト社からタブレット貸し出しを受けた事例(2014年当時)について、ご紹介いたただきました。望月先生の実践とあわせて、この記事を読んでくださったみなさまのご参考になりましたら幸いです。

>>リブート第9回「教育現場におけるWindowsタブレット活用事例 ~望月陽一郎先生のお話より~」(12月1日公開予定)に続く

Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki

参考記事

先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。

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