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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

コピペ論文の予防と発見法

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一、はじめに

コピペ論文(1)は、先行論文のデータをパソコン上で切り貼りして論文を作成したり、他論文の画像をコピーしたりして、自作論文に使用するという方法である。プロの研究者が行ってはならない手法と言えるだろう。

 論文の盗用・剽窃をチェックするソフトはすでに複数存在する。たとえば「コピペルナー」は、「学生が論文などを作成する際に、インターネットなどからの剽窃が社会問題となっていることから、考える力や表現する力を養ってほしい、という願いのもとに金沢工業大学知的財産科学研究センター長の杉光一成教授がしくみを考案」した(2)

「主に大学など、学校でのレポートや論文のチェックの他、一般企業での社内論文や出版社での原稿のチェックなどの用途(3)」に使用可能とのこと。コピペルナーは有料である。

本稿では、学生のコピペ論文を予防するために、論文の盗用・剽窃を発見するためのIT活用法を紹介したい。

二、引用された部分を判別するdifff

 論文の盗用剽窃を診断できる無料ソフトとして話題になったのが、difff(4)である。左右の枠に比較したい文章を入力し、比較するボタンをクリックすると、二つの文章の異なる部分に色がつく。

difffを使うと、引用元と考えられる論文と盗用の疑いのある論文の差分は、どの程度の量なのかを数量化できる。そのため、故意に盗用・剽窃を行ったのか、引用元を書き忘れたミスなのか判別しやすくなる。

 疑わしき論文とインターネット上に公開されている論文をdifffで比較することにより、コピペ論文かどうか判別しやすくなる。

 GoogleやYahoo!Japanなど各種検索サービスや、Cinii(5)の「全文検索」を利用すると、本文で自分が研究している作品のデータを探しやすい。GoogleやYahoo! 検索を利用する際は、正式な作品名だけでなく、ひらがなやカタカナでも検索を行うと良い。

 たとえば、筆者が『稚児今参り物語』を研究した際は、「稚児今」「稚児いま参り」「稚児いま参り物語」「稚児今参物語絵巻」「ちごいま」「ちごいままいりものがたり」等、複数の表記で検索を行った。ニューヨークで『稚児今参り物語』の研究発表が行われたことや、2011年のツイートでは「名古屋大学で翻刻作業が進行中である」との記載が見つかった。

 インターネット上には、学術データベースには載っていない有益な情報も掲載されている。学生が先行研究の盗用・剽窃を行っていないかどうか。引用元を示し忘れていないかどうか、教員もCiniiの「キーワード検索」や、Google・Yahoo!Japan等の検索をして確認すると良いだろう。

三、SNSのコミュニティを確認する

 筆者が学校法人でJava・ウェブプログラミング科の講師をしていた際、日本企業が運営するSNS経由で、匿名の学生から「大学の課題を代わりに解いてほしい」「OJT先の課題を代わりに解いてほしい」というメッセージが複数回、届いた。メッセージには、発信元が匿名であり、大学の先生が出した課題と締め切りが記載され、末尾に「困っています。よろしくお願いします」と記載されているのみであった。

 筆者はそのような依頼に一切、応じなかったが、SNSのコミュニティ掲示板に課題を掲載し、他の参加者にヒントまたは代わりにソースコードを掲載してもらう、という行為を行っている人が一部いた。

 先輩講師は授業の際、生徒に向けて「SNS(6)のコミュニティに参加しており、課題を他の人に丸投げするなどの不正がないかチェックしている」と告知していた。「教員が監視している」「不正をすると見つかる」という意識が生徒に芽生えると、生徒は不正を行こなわないようである。意識しておきたい点である。

四、Q&Aサイトのカテゴリーを確認する

 筆者はあるQ&Aサイト(7)の公式アドバイザーをしている。プロフィール欄に「ライフワークとして、国文学研究も行っている」と記載したためなのか、古典文学の課題を「代わりに解いてほしい」という回答リクエストが複数回、届いた。

 匿名での回答リクエストの例としては、「大学で課題が出て困っています。明日までで急ですが、『源氏物語』の若菜の現代語訳をお願いします」「『源氏物語』の●●の巻の乳母の言葉の解釈を一一〇〇文字程度で、なるべく具体的にお願いします」という類いのものであった。

 Q&Aサイトの参加者は、明らかに大学の授業の課題であるものには、回答しないか、「参考になるサイト、訳が載っている本を調べるように」とヒントを出して諭す人が多い。

知的好奇心を装った質問の場合は、回答してしまう参加者がいるだろう。学生のレポートで疑わしい回答があった場合は、各種Q&Aサイトを確認するのも良いだろう。

五、有料のレポート販売サイトを確認する

 日本にも有料で資料を販売できるサイトが存在する。有料のレポート販売サイトでは、資料の保存や有益な資料を共有・販売することができる。このようなサイトを利用すると、論文作成時に役立つ資料を検索することができる。

その中には無料と有料の資料があり、教育実習先へのお礼の手紙の文例、レポートの書き方など、有益な資料は多い。サイトには著作権法を違反した資料・利用者を通報するフォームがあり、「該当資料の情報及び掲載内容の不法利用、無断転載・配布は著作権法違反となります。」と記載している。だが、有料レポートを購入して単位認定レポートを提出した学生がいないとはいえない。

 大学の通信教育学部の単位認定レポートを、外部に公表・公開する行為は禁じられていると考えられる。したがって、教員の側も各種有料レポートサイトを利用した不正が行われていないか、確認する必要がある。不正があった場合はサービスへの通報や、厳正に対処する必要があるだろう。

六、おわりに

本稿では学生の論文の盗用・剽窃を発見するために、無料で利用できるサービスを私見で紹介した。その他、大学教員によるブログで、「レポート丸うつしを見破る方法」(8)という記事が掲載されていた。

「レポート丸うつしを見破る方法」には、素人編「インターネットのサイトをコピーしたのでURLがはいっている」中級編「内容がテーマと合致しない」、上級編「特徴的なフレーズがある」など、ワープロソフトの特徴や文章の整合性などに着目した発見方法が紹介されている。

本稿とは異なる着眼点で考察されている。読者の皆様のニーズに合わせて、様々なツールをご活用いただけたら幸いである。

 なお、「Twitterはバカ発見器」というネットスラングがあるように、学生が悪ふざけをインターネット上に公開し、炎上する事例が複数起きている。インターネットに公開した投稿は全世界に丸見えである。

そのため、情報が拡散した場合は、すべての関連データを削除することは難しい。SNS上での仲間が少ない場合でも、問題がある投稿は「炎上職人」と呼ばれる人たちによって拡散される事例が後を絶たない。学問という閉じられた場で発表されていた論文は、インターネット上のサービス・SNS等によって盗用・剽窃が指摘され、明るみに出るようになった。

デジタル・ネイティブな子どもたちが登場し、ウェブやケータイなどITは小学生の時点で使用するようになってきている。教員も学生たちのITスキル経験に相応するだけの知識を身につけ、学生たちがコピペ論文を制作しないように心配りを行いたいものである。

【注】

(1) コピペはCopy&Pasteの訳で、パソコンやインターネット上のデータを「切り貼り」する動作を意味する。

(2) http://www.ank.co.jp/news/news20130214.html より引用。開発は、株式会社アンクが行った。

(3) http://www.ank.co.jp/works/products/copypelna/より引用。Microsoft Office製品やAdobe PDF等に対応している。

(4) difffの日本語表記は、半角で<<デュフフ>>。http://difff.jp/から利用できる。

(5) Ciniiの全文検索は、http://ci.nii.ac.jp/ から利用できる。

(6) ICT総研によると、「日本のSNS利用者は4965万人(普及率52%)、2015年末に6321万人へ」とのこと。「SNSの利用頻度についての回答では、比較的利用頻度の高いサービスはLINE、フェイスブック、ツイッターである。(中略)逆に利用頻度の低いものは、スカイプ、Google+、mixiである。SNSの場合、知人や友人などの利用者が多くなるにつれて自分も利用する頻度が増えるため、利用者数の多いLINEやフェイスブックなどの利用頻度が高くなっていると思われる。」とのこと。http://www.ictr.co.jp/report/20130530000039.htmlから引用。

(7) 代表的なQ&Aサイトとして、教えてgoo、ヤフー知恵袋、質問・疑問に答えるQ&AサイトOKWave、人力検索はてな、楽天みんなで解決Q&A、等がある。NAVERまとめ「質問と回答 (Q&A)サイトおすすめ一覧(http://matome.naver.jp/odai/2133965235826151701)」に代表的なQ&Aサイトのリンク集がある。

(8)「レポート丸うつしを見破る方法」で検索していただくと、さまざまなブログで対応が紹介されている。ご参照いただきたい。


編集履歴:2014.6.27 22:33 題名に「予防と」を追加しました。difffの段落に「様々な」を追加。同段落で、「に」→「より」 に訂正。同日 22:43 二、の最後の段落の「利用して」を削除。同日22:51 二、3段落目 冒頭の一文を削除。22:55 一、冒頭から「理化学系研究発表の盗用・剽窃疑惑のニュースをきっかけに、引用や著作権法、コピペ論文 という手法に注目が集まった。」のを削除。無料で→無料ツールでも 、することは可能である→できるに修正。一、から ITを活用することによって、を削除。一、から 「「コピペルナー」は有料であるが、無料ツールでも学生のレポート・論文が盗用剽窃を行っているのか確認できる。」「が著名である。このソフト」を削除。同日 23:15 存在し、→複数存在する。たとえばに修正。

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