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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】一流の定義。/『外科医 須磨久善』

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 東京への五輪招致が決まった日の夜、ふと思い出した一冊。卓越した外科医として文字通りに世界を股にかけて活躍されている“須磨久善先生”の半生を、『チーム・バチスタの栄光』の著者・海堂尊さんがご本人の談話をもとに綴ったカタチとなっています。

 須磨先生、日本で初めてバチスタ手術を行った外科医として「プロジェクトX」などでもとり上げられていますので、ご存知の方も多いかと思いますが、、私は寡聞にしてこちらで読むまで存じ上げませんでした。

 『外科医 須磨久善』(海堂尊/講談社文庫)

 自分がこうと決めた“仕事”に社会的な有用性を見出しつつ真摯に立ち向かっていく。そしてそのためであればどんな“逆境”をも厭わない、、純粋なプロフェッショナルとはこういうものかと、ガツンと叩きのめされました。

 “この手術にはふたつの命がかかっていた、患者の命とバチスタ手術の命だ”

 自らのプリンシプルを曲げずにただ実践を重ねる、言うは易く行うは難しと思います。外科医としてだけでない、一人の人間として尊敬に値する、そんな方なのだろうと強く「こころ」を引き込まれました。

 “本物の外科医は背中で語る。それができなければ一流の外科医とは言えない”

 文中でしばしば“破境者”という言葉が出てきます。その意味するところは「国境を越え、仲間にその方法を伝授することで、多くの人々を引き連れてその国境を破壊していく」、自分が越えるだけの越境者ではなく、世界そのものを変えてしまうような光跡を残すといった、イメージでしょうか。

 “一流になるには、地獄を知り、その上で地獄を忘れなくてはなりません。”

 そしてこの言葉の意味するところは、、今の私ではこの真意は想像がつきません。人は挫折と、底辺を知ってこそ輝ける、信念を貫ける、なんて使い古された内容ではないでしょうし、、うーん、深い。。

 “大人は子どもにカッコいい姿を見せればいい”

 人を教え育むということの本質をついた言葉と、思います。身体を張っているのか、本気で事にあたっているかどうかは、子どもはすぐに見抜きます。その純粋さからくる“本物”を感じとる嗅覚はけっして侮れない、その事をあらためて認識させてくれた言葉でした。

 ん、『チーム・バチスタの栄光』の桐生先生にも、この須磨先生の影響が投影されていると思いますが、テレビドラマにもなった『医龍』の朝田先生もこの須磨先生をモデルにされてるとのことです。その全ての“境”を破っていくかのような生き方にどこか共通点を感じたのも、道理で。

 機会があるなら是非一度お会いしてみたい、背筋を伸ばして、、そんな風に感じた一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊/宝島社文庫)
 『医龍』(乃木坂太郎/ビッグコミックス)
 『知の逆転』(ジャレド・ダイアモンド&ノーム・チョムスキー&オリバー・サックス&マービン・ミンスキー&トム・レイトン&ジェームズ・ワトソン/NHK出版新書)
 『イチロー・インタヴューズ』(石田雄太/文春新書)
 『甲子園への遺言』(門田隆将/講談社文庫)

【補足】
 ちなみに、『チーム・バチスタの栄光』も『医龍』もどちらも映像化されていますが、須磨先生はそのどちらともの医事監修を務められているとのこと。ついでに言うと、この本自体も2010年にドラマ化されていたそうです(水谷豊さん主演)、、CATVで再放送とかしてないかなぁ、残念。



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