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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】海から見た、、 / 『マハン海上権力論集』

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 2012年9月末に閉店してしまった「松丸本舗」で見かけて、気づいたらカゴに入っていた一冊。題材となる「マハン」は、海上からの戦略(シーパワー&シーレーン)についての研究者になるのでしょうか、19世紀に生まれたアメリカ海軍軍人でもあります。司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』でも取り上げられていて、また2009年から2011年にかけて放映された同名のドラマにも出てきていますので、ご存知の方もいらっしゃるかと。

 こちらはそのマハンの出した論文などからの抜粋集となります。エッセンスが丁寧に押さえられていて、マハンの提唱した理念への導入として触れるには手ごろかなと感じました。

 『マハン海上権力論集』(麻田貞雄/講談社学術文庫)

 “平和は、われわれの直面している状況を無視することによって達成されるものではない”

 非常にスルッと落ちてきた言葉で、今の時代にも通じる真理をついていると思います。特に昨今の、日本の周辺にある大陸国家のあからさまな動きを見ていると、なおさら。そして、海洋国家である日本が他の「海洋国家」とどう連動して、どのような生存圏を構築していくべきかを考えるための一助になると、そう感じます。

 マハンの生きた19世紀から20世紀にかけて、アジア圏で最初の“西欧化”したのは日本であって、その次に来るのは「支那(china)」になるだろうとは、マハン自身の言になります。ここで言う西欧化は、当時の国際水準での普遍的な価値、すなわち、民主主義、自由、人権、法の支配、市場経済を、どの程度実現しているかとの視座になりますか。

 “野蛮状態とは、わが文明に内在する精神を吸収することなく、
  その物質的進歩のみを摂取するのに汲々たる人びとの文明のこと”

 今の価値観で振り返ると傲慢ともとれる言い方に感じますが、当時の状況を鑑みればごく普通の感覚で、そのエッセンスは今の時代でも通じるものではないでしょうか。ちなみに、初読時にちょうど『自由と繁栄の弧』の再読と並行していたこともあって、どちらとも本質的には同じことを言ってるなぁ、、と感じたのを覚えています。

 さて、日本が連動すべき「海洋国家」としては、、アメリカやオーストラリア、インド、台湾、その他、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシアなどのASEAN諸国が入ってくるのではないでしょうか。そして、中東やトルコを経て、イギリスやイタリア、デンマークなどのNATOへと「弧」がつながっていくのであれば、そこには日本の生存圏も乗ってくると思います。

 ちなみに、この「弧」にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が描こうとしているラインを重ねると、意外なほどに日本の「権益」がつながってくるんですよね、、経済的な視点だけではなく、安全保障的な側面でも。日本の安全圏が普遍的な価値観に基づいて確立されるのであれば、喜んで「伴走者」となりたいところです、なんて。

 大げさかも知れませんが、旅行にせよビジネスにせよ、日本の外に出る機会を考えているのであれば、日本の外交状況がここ3年程で危険水域に押しやられてしまった、そのことを認識する意味合いからも目を通しておいて損は無い、そんな一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『海の都の物語』(塩野七生/新潮文庫)
 『破壊外交』(阿比留瑠比/産経新聞出版)
 『坂の上の雲』(司馬遼太郎/文春文庫)
 『自由と繁栄の弧』(麻生太郎/幻冬舎)
 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ/講談社)

【補足】
 マハンは“国家の海上権力を左右する主要な条件として、次の諸要素を挙げることができよう。”として、「1)地理的位置」「2)地勢的形態(これと関連して天然の産物と気候をも含む。)」「3)領土の規模」「4)人口」「5)国民性」「6)政府の性格(国家の諸制度を含む)」を上げています。これ、19世紀位から現在まで連綿と続くアメリカの国家戦略にも影響を与えているような気がします、、なんて。

 個人的には、本編となる『海上権力史論』の方も読んでみたいなぁ、、と。いろいろと書き込んで「基本書」の一つにしたいので若干値は張りますが、購入して手元に置いておきたいところです。

 ちなみにこちらは、お世話になっている「東京朝活読書会(エビカツ読書会)」にて、【テーマ:海!】の回で紹介しました。海を舞台にした小説や写真集などとも悩んだのですが、あえて歴史的な視座からのこちらを、、他の皆さんは憧れのリゾートやブルーオーシャン戦略なども取り上げられていたので、ご興味を持たれましたら、是非こちらから覗いてみてください~

  >>> エビカツ!~東京朝活読書会の本棚(ブクログ)

 

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