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「アウトサイド戦略」と「インサイド戦略」

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従来型のSIビジネスが難しくなることについては、何度か申し上げてきましたが、改めてその要点を整理する。

  • クラウドや自動化の範囲が拡大し、工数需要は減少に向かう。
  • 仮に工数需要があっても、オフショアやクラウド・自動化との価格競争となり、人月積算を前提とした収益構造は売上拡大と利益確保が難しくなる。
  • 求められるテクノロジー・スキルや開発・運用スキルが大きく変わるため既存人材の持つスキルとの不整合が拡大する。そのためにはスキルの転換が求められるが、低利益体質が定着している企業は、稼働率を極限まで上げなければコストをまかなえないことから、そのため収益の上がらない教育や短期的には利益を見込めない新規事業に投資できない。なお、このような状況に置かれた優秀な人材は、自らの可能性を求めて転職する可能性が高く、仮にスキルチェンジを図ろうとしても、中核となる人材を失い何もできない悪循環に陥る。

このような状況から脱却するための3つの戦略と9つのシナリオを、拙著「システムインテグレーション再生の戦略」で述べているが、それとは違う切り口から整理してみたのが、「アウトサイド戦略」と「インサイド戦略」だ。

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アウトサイド戦略

ビジネスは、お客様の「困った」や「新たな御用」を解決することで成り立っている。それをお客様の外側から提供しようというのが、「アウトサイド戦略」だ。この戦略には3つのシナリオがある。

シナリオ1:テクノロジーを使った・ビジネス・サービス

これまで、SIビジネスは、「お客様にITを使わせるサービス」を提供し収益を得てきた。インフラやプラットフォームの構築、アプリケーションの受託開発や運用保守などが、これに相当する。この発想を転換し、「自らがITを使うことで、お客様の御用を担うサービス」で、収益を得るビジネス・シナリオだ。

その典型的な事例として、新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)のNsxpressIIという文書管理サービスがある。

このサービスは、クラウド・サービスとして、電子および紙媒体の文書を一元管理し、そのデータを自社のデータセンターで管理している。これだけでは、一般的なSaaSと大差ない。彼らの特徴は、もともとの紙媒体の文書を入力し、必要であれば、印刷配送するための人手による「入出力センター」を持ち、さらにその文書、すなわち原本を保管する倉庫業務「トランクルーム」を併せて提供していることにある。つまり、ITシステムとBPOを一体化し、お客様の「紙も含めた全ての文書を一元管理したい」という御用を解決している。

これまでなら、SI事業者の仕事は、「文書管理システム」を使わせるシステムを提供してきた。しかし、「文書を一元管理したい」御用は、そのシステムだけでは解決しない。それに付帯する業務があってこそ解決する。

そんな「御用の一部の機能をシステムとして提供する」システム・ソリューションではなく、「事業者がシステムを使って、御用のすべてを提供する」ビジネス・ソリューションを提供することへと転換するシナリオだ。これは、文書管理に限らず、広範なお客様の業務ニーズに適用可能だ。

シナリオ2:テクノロジーを使いやすくするサービス

ITを使う人の負担を減らし、テクノロジーを容易に使えるようにするサービスで収益を得るシナリオだ。一般的には、アプリケーションをサービスとして提供する場合はSaaS、開発実行環境であればPaaSと区分されるが、このように、エンドユーザーやサービス事業者が、ITの価値を容易に引き出し、活かせるためのサービスだ。

例えば、BoxやDropbox、Force.comやkintoneなど、汎用的な機能をサービスとして提供することが考えられる。また、Salesforce.comやGoogle G-suite 、Concurは、エンドユーザーがこれをそのまま使うこともあるだろうし、サービス事業者がこれを使ってITを活かしたサービスを提供することも可能だ。人工知能やIoTなどの最新のテクノロジーを使ったシステムを高度な専門性を持たなくても、あるいは、膨大な開発投資を自ら負担しなくても容易に利用できる環境を提供することもできる。

ただ、このような汎用的なサービスは規模の経済が競争優位を大きく左右するので、ここでの勝負はよほどの投資を覚悟しなければならない。そこで、汎用性を追求せず、あえて自分たちが得意とする業務領域に特化してサービスを提供することが現実的だろう。

ITをより一層活用したいユーザーに、それを容易に使えるようにするためのサービスを提供するビジネスは、テクノロジーの多様性が拡大する中、需要を拡大してゆくと考えられる。

シナリオ3:高度な専門性を提供するサービス

ひとつは、テクノロジーそのものを開発するビジネスだ。人工知能のアルゴリズム、IoTの要素技術やプラットフォーム、様々なOSSやフレームワークの開発に貢献することなど、高度な専門的知識を必要とする。例えば、金融デリバティブに関連したシステムを開発する場合は、高度な金融工学の知識やGPUの利用技術が求められるだろう。

これを自らの製品やサービスとして提供することも可能だが、このような高度な専門性を求めるシステム開発を受託することができれば、例え人月積算ビジネスであっても高い単金を得られ、利益率は高まる。

もうひとつは、アプリケーション・システムやITインフラの企画・設計などのコンサルティングだ。ビジネス規模を大きくすることはできないが、高い利益率は期待できる。また、アウトサイド戦略のシナリオ1と2、および、後述するインサイド戦略にビジネスを拡げるきっかけを掴むことができる。

インサイド戦略

グローバル化の進展、ビジネス・ライフサイクルの短期化、顧客嗜好の多様化といったビジネス環境の変化は、スピードや俊敏性を経営に求めている。ITは、この要請に即応できなくてはならない。それには、開発や運用の内製化がひとつの選択となる。しかし、開発や運用の仕事は、これまでは外部に依存してきた。そのため社内には、スキルも人材もない。また、間接要員と見做されている情報システム部員を増員するという経営判断は、なかなか難しい。

そう考えれば、ここにビジネスのチャンスがある。具体的には、3つのシナリオが考えられる。

シナリオ1:お客様の内製化を支援する

お客様の人材を育成し、内製化を支援する。そのために、お客様をSI事業者に出向させ、スキル移転をおこなっている企業もある。

確かに内製化が進めば、全体としてのアウトソーシング需要は減り、これまで開発に従事していた事業者は淘汰されることになる。しかし、だからといって、全てを内製化できるわけではない。むしろ、内製と外注の役割の分化が最適化され、全体としての生産性を高めてゆくことになるはずだ。そのときに、切られる側に立つか、残る側に立つかがはっきりする。

このような状況を自ら創り出すことで、「残る側」に立ち、お客様のシェアを拡大させるシナリオだ。

シナリオ2:IT部門の機能を代行する

中小企業に向いているシナリオだ。中小企業は、ITの専門家もいなければ、CIOも不在だ。IT部門さえない。こういう企業のCIO、開発、運用を代行する需要はあるだろう。

例えば、ソニックガーデンの「納品しない受託開発」は、このようなサービスだ。お客様の経営者や業務部門の方と必要なシステムは何かを徹底して議論し、本当に経営や業務に貢献できるシステムのみを開発する。

支払いは月額定額、いうなれば顧問料のような位置づけだ。その範囲であれば、必要な追加や変更、新規開発を行う。必要かどうか分からない、あったらいいは開発しないことで、効果を最大限に引き出し品質の向上を図る。開発はアジャイルで、そして運用や開発の基盤は、クラウドを使うことによってコストとスピードを担保する。

このようなやり方は、そのための人材を容易に増やせないことが課題だ。また企業の規模も小さなところや大企業でも特定の事業部門との直接契約になると考えられる。そのため、事業規模の拡大は容易ではないが、安定した収益と利益の確保が期待できる。

継続的、安定的にお客様との信頼関係を築き、なによりも工数ではなく、効率やスキルを高めることで収益に貢献できるから、エンジニアのモチベーションを高めることもできる。

シナリオ3:アジャイル型請負開発

アジャイル型請負開発は、アジャイル開発の思想を請負開発に持ち込もうという取り組みだ。

アジャイル型請負開発では、ビジネス価値、つまり、「業務を遂行するうえでなくてはならないプロセス」に絞り込んで開発すべき対象範囲を決めてゆく。「必要かどうかわからない」、「あったほうがいいかもしれない」というものは、対象から外す。そして、おおよその工数と期間の見通しを立てて金額を決め、請負契約を締結する。

そのうえで、ビジネス価値で優先順位を決めて、ひとつひとつ完成させてゆく。ひとつのプロセスを完成させる期間(反復/イタレーション)は1〜2週間となり、この期間は仕様凍結される。ただ、ウォーターフォール型のように長期の仕様凍結は不要だ。そのため、期間途中でこの優先順位が変われば、合意した工数と期間の範囲内で入れ替えることができるので、ユーザーの変更要求に柔軟に対応できる。

重要なところから完成させ、反復ごとに、それ以前のプロセスも含めてユーザーの検証を請けるので、期間後期になるほどに重要なプロセスが多くの検証をうけ、バグは徹底して潰される。また、後期に開発されるほど重要度の低いプロセスになるので、たとえそこで問題が生じても全体に及ぼす影響は少なく、結果的に期間内に出来上がるシステムの完成度は高いものになる。

また、請負契約を締結し、金額を確定しているので、日々改善に努め、生産性を高めていけば、原価を低減させ、利益を拡大させられる。これは働く現場のモチベーション向上につながる。

このようなやりかたで、次の3つの狙いを実現します。

  • ユーザーが本当に使うシステムだけを作ることで、ムダな開発投資をさせない。
  • ユーザーからの変更要求にも柔軟に対応し、ユーザーが納得して使えるシステムを実現する。
  • ユーザーが納得できる予算の中で最善の機能を実装し、約束した期間の中で最高の品質を実現する。

「アジャイル型請負開発は、この3つの狙いを実現することで、「顧客満足」という顧客価値を提供すると同時に、「幸せな働き方の実現」と「利益の拡大」という事業者価値の享受を両立する受託開発のビジネスモデルといえるだろう。

ポスト SIの戦略やシナリオは、他にもあるだろうが、いろいろと考え、試してみることで、自分たちにとっての最適解を見つけるしかない。

人月積算型受託開発、運用・開発要員の派遣だけでは、いずれ厳しくなることは明らかだ。早く手を打たなければ、手遅れになることは、いうまでもない。

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LiBRA 10月度版リリース====================
・新たに【総集編】2018年10月版 を掲載しました。
「最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略」研修に直近で使用しているプレゼンテーションをまとめたものです。アーカイブが膨大な量となり探しづらいとのご意見を頂き作成したものです。毎月最新の内容に更新します。
・アーカイブ資料につきましては、古い統計や解釈に基づく資料を削除し、減量致しました。
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ビジネス戦略編
【更新】UberとTaxi p.10
【更新】もし、変わることができなければ p.16

人材開発編
*変更はありません

サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】モノのサービス化 p.34
【更新】モノのサービス化 p.37

サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【更新】AIと人間の役割分担 p.12
【更新】自動化から自律化への進化 p.24
【更新】知的望遠鏡 p.25
【更新】人に寄り添うIT p.26
【更新】人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係 p.64
【更新】なぜいま人工知能なのか p.65

サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません

サービス&アプリケーション・開発と運用編
【新規】マイクロサービス ・アーキテクチャ p.62
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの6つのメリット p.63
【新規】マイクロサービス・アーキテクチャの3つの課題 p.64
【新規】FaaS(Function as a Service)の位置付け p.68

ITインフラとプラットフォーム編
【更新】Infrastructure as Code p.78
【新規】Infrastructure as Codeとこれまでの手順 p.79
【更新】5Gの3つの特徴 p.235

クラウド・コンピューティング編
【更新】クラウドの定義/サービス・モデル (Service Model) p.41
【更新】5つの必須の特徴 p.55
【新規】クラウドのメリットを活かせる4つのパターン p.57

テクノロジー・トピックス編
*変更はありません。

ITの歴史と最新のトレンド編
*変更ありません

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