オルタナティブ・ブログ > ITソリューション塾 >

最新ITトレンドとビジネス戦略をわかりやすくお伝えします!

「おまえは、営業なんだから」という責任放棄

»

「営業なんだから、しっかりやってくれよ!」

あるSIerの営業会議で、そんな声が響く。大丈夫と踏んでいた案件失注の報告を担当営業より受けて、怒り心頭に発した営業部長の声は、抑え気味ながらもドスが効いていた。

kaisya_okorareru.png

私は、この案件について、以前より担当営業から話を聞いていた。そして、きっとだめだろうと思っていた。その理由はいろいろある。お客様の言われるままに、資料や見積もりを出しているだけ。意思決定者に行き着いていない。競合の有無もわからないにも関わらず、「頑張ります!」と言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなり、営業部長に無用な期待を持たせてしまったようだ。

私は、彼にまずは、フォーキャストの確度を下げることと、以下の3つの点を確認するようにアドバイスした。

  • いつまでに意思決定するつもりなのか
  • 意思決定の基準は、価格なのか、内容なのか、何をクリアすれば、採用されるのかを確認する
  • よりよい提案をさせていだくためにユーザー部門の責任者に合わせてほしいと依頼する 

これに対して、次ような報告があった。

  • 意思決定の期日については、すんなりと教えてもらえたようだ。しかし、これだけの案件にしては、期間が短すぎる。
  • 意思決定の基準については価格も内容も両方という、あいまいな回答。
  • ユーザー部門の責任者に合わせてほしいというと、自分にまかされているから、その必要はないと断られた。

この報告を受けて、これは当て馬ですよと指摘した。この会社から購入する意思はない。しかし、手続き上、あるいは、本命との駆け引きの材料として使われているだけだろうと合点がいった。

とにかく、その窓口の人だけではなく、他の人にそれとなく聞いて御覧なさいと促したところ、予想通りだったとの報告。先に勧めたフォーキャストの確度を下げることについては、頑張るといってしまった手前切り出せないまま確認を先行することにしたそうだが、結果はこのとおり。結局、部長の期待を裏切ることになって、怒りが倍加してしまったようだ。

営業の現場にいると、このような状況は、日常茶飯事だ。なぜ、おかしいぞ、何か裏にありそうだと感じないのだろうか。彼なりに言い訳もある。それは、エンジニアから営業になって間がないからスキルがないというもの。しかし、そんなことは、営業職であろうが、エンジニアであろうが、お客様を相手にする仕事である以上、基本として持つべき感性だ。

営業部長にしても、なぜこの状況を見抜けなかったのかと思う。あたりまえの確認を怠り、部下の報告を自分の都合のいいように解釈し、あるべき論と精神論を語るだけだ。そして、部下を指導し励ましたつもりになっている。部下を叱るのは、お門違いだ。自分の無能を嘆くのが先ではないか。

営業力を強化しなければならないというSIerの経営者は多い。そして、エンジニアを配置転換し、営業の肩書を与えている。そして、「きょうから、あなたは営業だから頑張ってくれ、期待しているよ」と言う。以上である。これで営業力を強化したことになるのだろうか。

営業力というと、多くの人は、「営業職の人の能力」をイメージするだろう。しかし、わが国のSIerの現実を見ると、実際に営業が案件を取ってくるというより、お客様を担当するエンジニアが仕事を取ってきて、その後始末の事務処理を担当するのが、営業である場合も多い。

加えて、営業は新規顧客の獲得を期待される。これは相当に大変なことで、経験やスキルだけではなく、何を売るか、そして、魅力的な提案なくして、きっかけさえつかめない。それを「営業だから」という理由だけで期待され、任され、自分もそう思って戦いに挑むが、見事に撃沈する。営業は、なかなか成功体験を得られず、モチベーションを下げ、売り上げに直結する既存案件の事務処理に時間を割くようになる。そして、そちらが忙しいからと言い訳し、新規顧客開拓への機会を作ろうとしない。そんな悪循環が生まれている。

このような状況の中で、いくら営業職を鍛え鼓舞しても、ビジネスを拡大することはできないだろう。営業職の人間を増やすだけでは、営業力の強化などできるはずはない。

私は、「営業の仕事」と「営業職の仕事」を分けるべきと考えている。「営業の仕事」は、全社を挙げて取り組むべきものだ。特に、わが国のSIerは、エンジニアがその役割の多くを担っている。それが、良い悪いという議論ではなく、この現実をうまく活かしてゆく道を探るべきではないのか。

営業の仕事は、精神論や感性だけでこなせるものではない。営業活動はエンジニアリングできるものであり、プロセスとして整理できる。これは、むしろエンジニアの感性に受け入れられやすい。また、お客様の課題を発掘し、案件に結びつけるには、技能と知識が大いに助けになる。それは、営業職だけが必要なものではなく、エンジアも含め、会社全体として、その能力を高めてゆくことこそ、営業力の強化なのではないかと思う。

会社として、この能力を育てることもせず、営業職という肩書を与え、あとは本人の自助努力に任せるだけでは、営業力の強化などできるわけがない。これでは、まるで、「営業職への配置転換」という体のいいエンジニアのリストラではないか。

「営業職の仕事」ではなく「営業という仕事」ととらえ、営業もエンジアも含めた会社としての総合力としての営業力をどのように高めてゆくのか。そんな視点での取り組みを始めてみてはいかがだろう。

【募集開始】新入社員ための最新ITトレンド研修

freshman1day.png

IoT、AI、クラウドなどのキーワードは、ビジネスの現場では当たり前に飛び交っています。デジタル・トランスフォーメーションの到来は、これからのITビジネスの未来を大きく変えてしまうでしょう。

しかし、新入社員研修ではITの基礎やプログラミングは教えても、このような最新ITトレンドについて教えることはありません。

そんな彼らに「ITトレンドの最新の常識」と「ITビジネスに関わることの意義や楽しさ」についてわかりやすく伝え、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと「新入社員ための最新ITトレンド研修」を昨年よりスタートさせました。まだ8月20日(月)の講義にはご参加頂けます。

参加費も1日研修で1万円に設定しました。この金額ならば、会社が費用を出してくれなくても、志さえあれば自腹で支払えるだろうと考えたからです。

社会人として、あるいはIT業界人として、厳しいことや頑張らなくちゃいけないことも伝えなくてはなりません。でも「ITは楽しい」と思えてこそ、困難を乗り越える力が生まれてくるのではないでしょうか。

  • ITって凄い
  • ITの仕事はこんなにも可能性があるんだ
  • この業界に入って本当に良かった

この研修を終えて、受講者にそう思ってもらえることが目標です。

よろしければ、御社の新入社員にもご参加いただければと願っております。

詳しくは、こちらをご覧下さい。

【募集開始】ビジネス・リーダーのためのデジタル戦略塾

スクリーンショット 2018-06-29 7.01.08.png

  • 8月2日(木) 第1回 最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略
  • 8月29日(水) 第2回 ビジネスを戦略的に動かす実践データサイエンス
  • 9月14日(金) 第3回 未来創造デザインによる新規事業の創出
  • 10月3日(水) 第4回 デジタルサービスの機敏な提供ーVeriSM

対象者は次のような方です。

SI事業者やITベンダーではない事業会社のリーダーや管理職、部門長、経営者(ITやデジタル・テクノロジーについての前提知識は不要)

  • 事業企画や経営企画にかかわっている
  • 新規事業開発にかかわっている
  • 情報システム部門で企画や戦略に関わっている

次のような課題をお持ちの皆さん

  • 最新のIT知識や実践で活かすためのノウハウを手に入れたい。
  • デジタル戦略の実践でリーダーシップを発揮したい。
  • 事業計画にデジタル戦略を織り込みたい。

もはやデジタルを味方にしなければ生き残れない時代です。しかし、加速度を増すテクノロジーの進化についてゆくことは大変なことです。また、それを実践に活かすとなるさらに高いハードルが待ち受けています。

そんな課題を克服し、自分たちのデジタル戦略を前進させたいと考えている方に、テクノロジーについての最新の知識をわかりやすく伝え、実践のためのノウハウを学んで頂きます。

SI事業者やITベンダーの皆さんへ

お客様のITに関わる予算の7割は、情シス部門以外の部門が意志決定に関与しています。ここに営業力を直接的に行使できれば、営業目標の達成にも大いに貢献できます。「デジタル戦略塾」は、この取り組みを支援するものです。

いま、お客様の事業部門は、自らの事業の差別化を図り競争力を強化するためにITを積極的に活用していこうとしています。「攻めのIT」や「ビジネスのデジタル化」、あるいは、「デジタル・トランスフォーメーション」といった言葉が、注目されているのはそのような背景があるからです。一方で、彼らはITについての知識は乏しく、それを活かす方法を知りません。

ITを活用して事業の競争力を高めたいが、それを実践に活かす知識もノウハウもない

このギャップを埋めることに積極的に貢献できれば、事業部門との信頼関係を強固にすることができます。そうすればその先にビジネスのきっかけを見つけることができるようになるはずです。

情報システム部門の皆さんへ

情報システム部門の中には、このような事業部門の取り組みの蚊帳の外に置かれているところもあるようです。「攻めのIT」は事業部門の主導の下で行われ、自らの存在意義を問われています。

「デジタル戦略塾」を事業部門にご紹介いただくことは、「攻めのIT」への取り組みにおける自分たちの存在意義を、事業部門や経営者にアピールする有効な手立てとなります。また、ご自身も一緒にご参加いただき、「攻めのIT」への取り組みを二人三脚で取り組むための知識とノウハウを共有して頂くこともできます。

  • AIやIoT、クラウドやアジャイル開発などの最新のテクノロジー
  • ビジネスをデータで理解するためのデータサイエンス
  • ビジネスにイノベーションをもたらすデザイン思考
  • 新しいビジネスをいち早く実践の現場に展開するためのVeriSM

digist-juku_banner_300x90.png

ご参加ならびにご紹介をいただければ幸いです。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA

LiBRA 7月度版リリース====================
ITソリューション塾・第28期の最新教材を掲載
メモリー・ストレージ関連のチャートを拡充
AI専用プロセッサーについてのチャートを追加
=====================================

ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.22

インフラとプラットフォーム編
【新規】メモリーとストレージの関係 p.216
【新規】速度と容量の違い p.217
【新規】ストレージ構成の変遷 p.217
【新規】新章追加・不揮発性メモリ p.238-242  
  メモリ階層
  コンピュータの5大機能
  記憶装置の進化
  外部記憶装置が不要に!?

サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTビジネスとはどういうことか p.43
【新規】IoTビジネス戦略 p.45

サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
【新規】AIやロボットに置き換えられるものと残るもの p.111
【新規】皆さんへの質問 p.131
【新規】求められる人間力の形成 p.132
【新規】新章の追加・AI用プロセッサーの動向 p.133-146
  急増するAI 専用プロセッサ
  人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係
  深層学習の計算処理に関する基礎知識
  AI = 膨大な計算が必要、しかし計算は単純
  学習と推論
  GPUはなぜディープラーニングに使われるか
  データセンター向けGPU
  GoogleがAI 処理専用プロセッサ「TPU」を発表
  TPUの進化
  クライアント側でのAI処理
  Apple A11 Bionic
  ARMのAIアーキテクチャ

開発と運用編
【新規】VeriSM p.6
【新規】早期の仕様確定がムダを減らすという迷信 p.13
【新規】クラウド・バイ・デフォルト原則 p.17

クラウド・コンピューティング編
*変更はありません

サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません

テクノロジー・トピックス編
*変更はありません

ITの歴史と最新のトレンド編
*変更はありません

【ITソリューション塾】最新教材ライブラリ
 第28期の内容に更新しました。
  ・CPSとクラウド・コンピューティング
  ・ソフトウェア化するインフラと仮想化
  ・クラウド時代のモバイルデバイスとクライアント
  ・IoT(モノのインターネット)
  ・AI(人工知能)
  ・データベースとストレージ
  ・これからのアプリケーション開発と運用

Comment(0)