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やがて訪れる「新ローマ時代」への覚悟はできているだろうか

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2018年秋、みずほ銀行の新システムが稼働する。同システムの稼働にともない、みずほ銀行を含むみずほフィナンシャルグループは人員を19,000人削減できると試算している。

みずほ銀行だけではない。メガバンクのひとつである三菱UFJFGも店舗数2割削減を表明し、1万人削減を予定している。三井住友銀行も同様で、全体で3万人を越えるとされている。

これは低金利政策による収益の悪化や地方都市の過疎化による経済基盤の縮小が背景にあり、地方銀行もまた人員削減を余儀なくされている。

ただ、このような銀行の経営環境の悪化が人員削減の背景にあるとは言え、それを可能にしているのがITによる代替だ。その代表としてRPA(Robotic Process Automation)への注目が集まっている。RPAとは、簡単に言えばキーボードやマウスの操作を人間に代わってやってくれるソフトウェアだ。例えば、コピペやクリックなどの単純作業を人間よりも何倍も早く、しかも休むことなくやってくれる。もちろんこれだけで何万人にも及ぶ人員削減ができるわけではないだろうが、銀行がこぞって導入を進めている背景には、このような仕事に携わっている人が相当数いたと言うことでもある。

RPAはいまでこそ定型化された単純作業を代替するに過ぎないが、機械学習や言語解析などの技術を組み入れて、人間の判断が必要とされる「高度な単純作業」にも対応できるようになれば、何年もその業務に携わってきた「ベテラン」と言われる人たちの仕事も置き換えてゆくだろう。

RPAが特別なわけではない。「手順が決まっている仕事」は、これまでも人間から機械に置き換わってきた。例えば、銀行のお金の引き出しや駅の改札などに、もはや人間は不要だ。Amazon Goのようにコンビニやスーパーのレジの仕事も代替されてゆくのは時間の問題だろう。

単純なものから複雑なものへ、ITによって「手順が決まっている仕事」が置き換えられてゆくのは、過去も現在も未来も歴史の必然であり、人工知能に関わる技術がこれを加速する。そして、「ベテラン」を必要とした「知的力仕事」は、急速な勢いで代替されてゆく。

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そうなったとき、人間の仕事はどうなるのだろう。「誤解だらけの人工知能」に面白いことが書かれていた。古代ローマのような「奴隷と市民」で成り立っていた社会のようになるのではないかと。つまり、ITという奴隷が生産的な仕事をこなし、それを使いこなす市民が日々哲学し、芸術を育み、豊かな生活を謳歌する。働かなくてもITが富を生みだしてくれる。ITにより劇的な生産性の向上がすすめば、リフキンがその著書「限界費用ゼロ社会」で語るようなコストのかからない社会になるだろうから、生活で困窮することはない。そんな社会がやってくるかもしれない。

ただ、過渡期の混乱は避けられないだろう。かつて産業革命にともなう機械使用の普及により、失業のおそれを感じた手工業者・労働者が起こした機械を破壊する活動「ラッダイト運動」のような、過激な反発も起きるかもしれないが、歴史の大きな流れを変えることは難しい。

また、ITの発展により会社の規模は縮小し、個人事業者が増えてゆく現象が進んでゆくだろう。会社に雇われ一生をそこで過ごす時代はもはや終わった。その証拠に転職需要は拡大しているし、兼業や副業が当たり前の世の中になろうとしている。自分のスキルで生きてゆく時代が、「奴隷と市民」の時代よりもずっと早く到来する。いや、到来している。

そんな時代に、社会的価値のあるスキルを持っているだろうか。先にも述べたように長年の経験だけに頼った「経験値」すなわち「ベテラン」では簡単にITに置き換えられてしまう。そこに社会的価値はない。そうではなくて、「経験値」から得た教訓から理論を導き、それを他へも転用して様々な物事をつなぎ合わせて新たな価値を創造する「クロスオーバー人材」が必要とされる。ITの価値を正しく理解し、使いこなし、それを新しい価値の創造につなげられる人材だ。これはそう簡単に機械に代替されることはないだろう。

あるいは、ホスピタリティが必要な介護や看護、創造性がもとめられる芸術や芸能など、見た目だけならITでもできそうだが、「人間がやることに意味がある」職業もまた、なくなることはない。

これらはいずれも個人の社会的価値であって、会社の価値でもなければ看板でもない。それを持っているかどうかが、これからの社会では問われることになる。

江戸時代以前の日本には、長屋に左官の熊さんや大工の八っぁん、かんざし職人の寅さんが居た。大店(おおだな)はあったが、彼らは個人事業主であり、そういう人たちが社会の需要を満たしていた。限られた地域での共同体であり、シェアリング・エコノミーである。

明治からの近代以降、大量生産と資本主義の発展と共に会社という組織が必要とされてきたわけだが、もはやそんな時代も終焉を迎えようとしている。そして、江戸時代のような個人を基盤とする社会へと先祖返りすることなのかもしれない。ただしITが、その規模や範囲を拡大してくれることにはなるだろう。

いずれにしろ、個人の時代へと向かっていることは確かだろう。100年人生の時代、私たちはそれと向き合い続けなければならない。その心構えはできているだろうか。そろそろ考えておいた方がいい。

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