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なぜSFAはうまく使いこなせないのか/日米のビジネス環境の違いとITビジネス

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クラウド(ここでは、IaaSについて話をします)は、ITエンジニアの7割がユーザー企業に所属する米国で生まれた情報システム資産を調達する仕組みです。

クラウドは、リソースの調達や構成の変更など、ITエンジニアの生産性を高め、コスト削減に寄与するものです。とすると、ITエンジニアを社内に多く抱える米国では、クラウドはユーザー企業の生産性を高めることに直結しています。

一方、我が国のITエンジニアは、7割がSI事業者やITベンダー側に所属しています。従って、このような仕事は、システムの構築や運用を受託しているSI事業者側に任されています。ですから、クラウドは、SI事業者の生産性を向上させます。しかし、これはSI事業者にとっては、案件単価の減少を意味し、メリットはありません。また、調達や構成の変更はリスクを伴う仕事です。米国では、そのリスクをユーザーが引き受けていますが、我が国ではSI事業者が背負わされています。

このことから見えてくることは、SI事業者にとってクラウドは、案件単価が下がりリスクも大きくなることを意味し、利益相反の関係にあるという事実です。我が国のクラウド・サービスの普及が、米国ほどではないと言われていますが、その背景には、このような事情があるのかもしれません。

エンジニア構成の配分が、このように日米で逆転してしまっているのは、人材の流動性の違いが背景にあるからです。米国では、大きなプロジェクトがあるときには人を雇い、終了すれば解雇することもさほど難しくありません。必要とあれば、また雇い入れればいいわけです。一方、我が国は、このような流動性はなく、この人材需要の変動を担保するためにSI事業者へのアウトソーシングが広く行われているわけです。

ところで、クラウドを使う場合、リソースの調達や構成の変更は、「セルフ・サービス・ポータル」と言われるウエブ画面を使って行われます。必要なシステムの構成や条件を画面から入力することで、直ちに必要なシステム資源を手に入れることができます。

従来、このような作業は、業務要件を洗い出し、サイジングを行い、システム要件を決め、それにあわせたシステム構成と選定を行うことが必要でした。そして、価格交渉と見積作業を経て、発注に至ります。その上で、購買手配が行われ、物理マシンの調達、キッティング、据え付け、導入作業、テストを行っていました。この間、数ヶ月かかることも珍しくはありません。このような作業を必要とせずウエブ画面から簡単に行うことができるわけですから、生産性は大いに向上します。

しかし、我が国のユーザー企業は、先ほどの理由から、このような作業の多くをSI事業者に依存してきました。従って、いまさら自分でやれと言われても、簡単に対処できることではありません。SI事業者も受注単価が下がり、人もいらなくなるわけですから積極的にはなれません。ここに、暗黙の利害の一致が生まれており、これもまたクラウド利用の足かせとなっていると考えられます。

このような現実があるわけですから、我が国においては、米国と同じシナリオでクラウドの価値を訴求することは困難といえるでしょう。

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SFA(Sales Force Automation)やERP(Enterprise Resource Planning)についても、日米の企業文化の違いを理解しておく必要があります。欧米の経営者と従業員の関係は、羊飼いと羊の関係に似ています。彼らは、何百頭、時には何千頭の膨大な数の羊たちを効率よく統制し、牧草の生い茂る場所を巡回して、羊たちを育ててきました。その仕組みをうまく動かすためには、組織を階層化して、指揮命令系統をひとつにした、中央集権型の組織を作る必要がありました。また、現場の末端に至るまで、迅速・正確に情報を収集する術を必要としました。その伝統が、企業や国家の経営の根底にあります。

また、米国では「横へのキャリアパス」が受け入れられている。「横へのキャリアパス」とは、ある会社で経験を積み、スキルを身につけ、ほかの会社へ転職して、さらに高い地位を手に入れるというキャリアの作り方です。米国ではそれが当然のことであり、むしろ高く評価される傾向にあります。

したがって、社員は高い報酬と地位を得るために会社に尽くす一方で、その機会が満たされなくなれば、いつでも他の会社に移り、さらに高い地位と報酬を求めます。一方、経営者もそのことは承知しており、きめ細かく徹底した業務管理と、それに基づく公平な評価を心がけます。また、営業プロセスをリアルタイムで把握し、適正に業務を行っていること、あわせて会社への不正や不利益が生じないかどうかなど、組織の末端まで監視しなくてはなりません。

SFAやERPは、このような欧米文化を背景に生まれてきたITソリューションといえるでしょう。つまり、営業や業務の末端を徹底して見える化し、経営者が現場を統制するとともに、適切な指揮命令を迅速に行うために作られたものなのです。

一方、日本はどうでしょうか。日本では「横へのキャリアパス」はあまり快く思われていません。昔ほどではないにしても、「同じ会社の中で出世していくことがキャリアパス」と考えられています。そのため、従業員は、一生勤め上げる会社を我が家のように考え、会社のために貢献することを当然と考えます。その一方で、キャリアアップを図るには大きな失敗は許されません。何事も「ミニマムスタート」でリスクを最小限に抑え、失敗を許さず、小さな成功を積み上げてキャリアアップしていく企業文化です。

経営者は、そんな社員を信頼しています。現場が「使えない」というものを、経営者は無理矢理使わせることはしません。「現場の判断にまかせる」ことを大切にする傾向にあります。そのため、欧米のような絶対的主従関係は育ちにくいのです。

このような思想的背景の違いがあるにもかかわらず、欧米方式の製品をそのまま現場に持っていくと、「こんな帳票や操作画面じゃ使えない」と反発に遭うのは当然です。「ならば現場に使えるように」と、業務プロセスに対応させるべく、徹底したカスタマイズを許容します。欧米ではあまりないことです。

これは、「現場の主体性に大きく依存し、現場を信頼する」日本と、「現場は管理・統制の対象と考える」欧米との文化的な違いです。善悪や優劣の問題ではありません。ただ、この違いを理解せず、システムの選定を進めることは、結果として大きな失敗を招くことになります。

ITに関わる製品やサービスが、欧米生まれであると言うことは、作られた国の文化やビジネス環境を前提にしていることを忘れてはなりません。だから、「欧米の製品は使えない」という短絡的な話しではなく、そういう違いを理解して、うまく付き合うことを考えるべきでしょう。

SFAが導入されてもなかなかうまく使いこなせないという話はよく聞きます。しかし、それは、営業の考え方ややり方が日本と米国では大きく違っているからです。背景にある文化や思想に関わる違いを考えず、表層的な機能や性能だけで選んでしまって失敗する典型的な事例といえるでしょう。

いずれにせよ、製品やサービスは、その前提となる課題やニーズがあるから存在価値があるのです。その前提が異なるのであれば、例え優れた機能や性能であっても使えません。その当たり前を十分に確認しないままに選定することは厳に慎んだ方が良いでしょう。もちろん、ITベンダーもそのことを正しく伝える責任を負っていることを忘れてはいけないのです

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目次

  • 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
  • 第1章 クラウドコンピューティング
  • 第2章 モバイルとウェアラブル
  • 第3章 ITインフラ
  • 第4章 IoTとビッグデータ
  • 第5章 スマートマシン

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