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SIビジネスの不都合な真実

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「日本のソフトハウスの大半はSIビジネスを核とし、大手SIerのゼネコン構造の中に組み込まれ、技術力やソリューション、営業力の不足を補ってきた経緯があります。技術力や何がしかの商用Package等、それなりの強みを持ったソフトハウスはPrime-Projectを受託することができますが、規模が小さいため、Primeを取れない現実も有ります。それでも、特徴あるソフトハウスは良い方です。しかし、これは数多有るソフトハウスの5%未満ではないでしょうか? 95%はゼネコンの階層構造の一角を占めて、SIビジネスで食べているのが実情です。」

「(大手SI事業者の場合、)経営層がProject Managementに長けた人達で占められており、ビジネスソリューション創出の投資を行う=一定のリスクを取る、という発想が極めて薄いということです。彼らはProject Managementを通じて、如何にリスクを回避するかを若い時から徹底的に叩き込まれています。こうした人達は、試行錯誤を伴い、お金も人も時間もかかるビジネスソリューション創出、といったリスクが大きな取り組みを本能的に回避しようとします。」

「彼らは商談毎の採算計算に長けていますが、商談に含まれているビジネスソリューションの萌芽を嗅ぎ取って、これの可能性を広く市場調査によって確認し、ソリューション創出に結び付ける、といった取組みは全く発想外、浮かびません。」

SI事業者での事業責任者や情報システム部門長として、現場の実務に長年携わってこられた方ならからこんな話を伺った。改めてこの業界のおかれている問題の根深さを実感する。

創意工夫や生産性の追求といったSI事業者の努力を反映できない人月単価の積算の見積構造、自助努力なきリスク回避のための根拠なき原価の積み増し、お客様への提示金額を低く抑えるための多重下請け構造など、お客様から見られたくない不都合な真実がそこにはある。

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表向きは、「お客様の立場に立って」、「お客様のために」といいながらも、結局は駆け引きの相手としての「客」という存在でしかない。この現実の背景には、ご指摘頂いたような事実があるのかもしれない。

この事実は、お客様の不幸であり、SI事業者の不幸でもある。この相互不幸の構造を破壊することが、ポストSIビジネスではないか。ただ、ここには大きなふたつの壁が立ちはだかっている。

そのひとつは、SI事業者の収益構造を大きく変えなければならないという壁だ。名著「イノベーションのジレンマ」の中でクリスチャンセンは、次のように述べている。

「イノベーションにより、既存事業が破壊されるほどの脅威にさらされるとき、既存事業で成功している企業は、そのイノベーションを取り込むことではなく、既存事業を強化してイノベーションに抵抗することで、自らの存続を模索する。」

それは、イノベーションがもたらす技術的革新にだけに着目し、それがもたらす人々の価値観の転換を無視してしまうためだ。

イノベーションが出現した当初は、既存の価値基準からみれば、取るに足らないものと見做してしまう。しかし、その恩恵を受けてこなかった人々から見れば、「十分に使える」。それがある領域で受け入れられ、いずれ既存の価値基準の領域をも犯すまでに機能や性能を高めてゆくことで、既存の事業領域を置き換えてしまう。

メインフレームが、オフコンやミニコンへ、そして、PCへ、さらにはモバイルやクラウドへと置き換わってきた歴史は、この考えを裏打ちする事実となっている。

もうひとつの壁は、ユーザー企業の壁だ。かつて、情報システムは、業務の劇的な生産性の改善をもたらし、各社がコンピューターの導入を競い合った。しかし、それは同時に膨大な情報システム資産を築き上げ、運用、管理、保守といった巨大な負債を溜め込んでいったともいえる。この負債を少しでも減らそうと、SI事業者へのアウトソースを進めてきた。その結果、ユーザー企業は、構築や運用、保守の実践ノウハウを失ってしまった。

SI事業者の仕様や見積の中身を厳密に評価できないばかりか、テクノロジーもベンダーの言いなりになり、自らのリスクを回避するためにベンダーの保証を前提とするようになった。

このようなベンダーのリスク回避とユーザーのリスク回避による縮小均衡の構図が、イノベーションを妨げている。

「ユーザーが求めないものは売れません」

そんなユーザーの壁が、イノベーションを妨げているともいえる。

この状況を解消することは容易なことではないが、いつまでも続けていていいはずもない。

解決の糸口は、もしかしたら小さなことにあるのかもしれない。例えば、SI事業者は、既存の業績評価基準にとらわれない小集団を独立させる。そして、自分達だけで新しいことを考えさせるのではなく、ベンチャー企業との協業を促し、外部からの知恵を利用して新しい取り組みを始めるという方法もある。これを業績が伸びているとき、あるいは、キャッシュのストックがあるうちに、試行錯誤のチャンスを与えること。クリスチャン線はこんなことを言っている。

「新事業が成功する条件は、成功するまで試行錯誤を繰り返す資金余力があること」

また、ユーザー企業も小さなリスクに挑むことだ。例えば、セキュリティ対策と称して、モバイルを使わせないという思考停止の愚行でリスクを回避するのではなく、利便性を活かすために新しいテクノロジーを積極的に試してみることだ。あるいは、ビッグーデータを使うためのテクノロジーを自ら学び、社長ダッシュボードや情報ポータルといった業務の現場や経営者に見えるアウトプットを提示し、自らの存在をアピールする努力をしてみてはどうか。そういうところから、イノベーションを取り込む土壌を育ててゆくことはひとつの方法かもしれない。そして、イノベーションをSI事業者やITベンダーに求める機会を増やしてゆくべきだろう。

コスト削減の努力の成果をこのようなチャレンジに充当することと、社内へのマーケティングやプロモーションという発想を組み合わせる。コストを下げるためだけの努力から、エンドユーザーの価値拡大を積極的に遡及し、予算の積み増しを促す努力を積極的に行ってゆくことも必要だ。たとえば、情報システム部門の中に営業担当部門を設置し、ノルマを課して自社内への売り込みを行うというのはどうだろう(笑)。

いずれにしても、既存の構造を一気に破壊することは、残念ながら現実的とはいえない。ここにあげたような小さな破壊工作を地道に積み上げることだろう。

「それができる人材なんかうちにはいないよ」

そんな決まり文句がかえってきそうだ。しかし、決断をしなければ、いつまで経ってもそういう人材を育てる切っ掛けは生まれない。

いま大きなパラダイム・シフトが起こりつつあるのです。メインフレームがダウンサイジングしたような、あるいは、集中処理がクライアント・サーバーに置き換わったような、わかりやすい構造変化ではない。クラウド、モバイル、IoT、モバイル、ソーシャルと言ったひとつひとつが、人々の価値観に大きな影響を与えるような変化が、同時に折り重なり、お互いに影響を及ぼしあいながら、世の中の常識を塗り替えつつある。これを「ビッグ・シフト」という人もいるが、明らかにこれまでのパラダイム・シフトとは異質な変化が起こっている。

パラダイム・シフトは常識が変わることだ。これまでの常識は非常識となり、非常識は常識として受け入れられる、そんな価値観の転換を意味する。

「イノベーションにより、既存事業が破壊されるほどの脅威にさらされるとき、既存事業で成功している企業は、そのイノベーションを取り込むことではなく、既存事業を強化してイノベーションに抵抗することで、自らの存続を模索する。」

しかし、それが長続きしないことは、既に歴史が語っている

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目次

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  • 第3章 ITインフラ
  • 第4章 IoTとビッグデータ
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【定員となり締め切らせて頂きます】ITソリューション塾【第18期】

2月4日より始まる「ITソリューション塾・第18期」に、多くのご応募をいだきありがとうございました。結果として、予定を上回る79名/26社のご参加となりました。「異なる会社の皆様が、志を同じくしながら時代の変化について考えてゆく。」そんな機会にしたいと思っています。次の第19期は、5月連休明けを予定しています。どうぞ、改めてご参加をご検討いだければと存じます。

最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました

ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。

【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。

「テクノロジー編」(182ページ)

  • ストーリー展開を一部変更しました。
  • 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
    • Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
    • パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
  • 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
    • M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
    • ドイツのIndustry 4.0について追加しました。

「ビジネス戦略編」(49ページ)

  • ストーリー展開を一部変更しました。
  • 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
  • 人材育成について
    • 生き残れない営業を追加しました。
    • エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。

トップ10に選ばれした!

拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」のトップ10に選ばれました。多くの皆様にご投票頂き、ほんとうにありがとうございました。2月19日(木)のデベロッパーズサミットにて、話をさせて頂きます。よろしければお立ち寄りください。

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「システムインテグレーション崩壊」

〜これからSIerはどう生き残ればいいか?

  • 国内の需要は先行き不透明。
  • 案件の規模は縮小の一途。
  • 単価が下落するばかり。
  • クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。

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