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これからの『プレゼン』の話をしよう

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このエントリーは2011年11月11日に行ったオルタナティブ ブロガーズミーティングの講習第二部、プレゼンの配信方法に関する話の原案です。講習では伝えきれていない部分やムダ話も含まれていて読み応えがあるのか、時間の無駄なのかはわかりませんがそういうエントリーです。

まえがき

ここのところuStreamやニコニコ動画などを使ったリアルタイムの映像配信による商品発表やプレゼンテーションが盛んである。動画配信による発表は臨場感やイメージの伝えやすさもあり、好評なのだろう。

そして、現在ではネットワーク環境も充実しており、モバイルデータ通信でも動画を楽しむこともできる。

しかし、ネットワーク環境が整い、動画の配信も無理無く行なえる状況ではあるのだが、果たして製品発表やプレゼンテーションを行なうにあたって、動画配信がベストな選択なのだろうか。今日はあえて、問題を提示したいと思う。

なお、本日の講習では便宜上、製品発表や講習会などもひっくるめてプレゼンテーションと呼ぶことにする。状況によってプレゼンテーションということばを別のものに置き換えていただければ幸いである。

プレゼンの過去と未来

プレゼンテーションはかつて、同じ空間に人が集まり、プロジェクターで映像を映すことで行なわれていた。そのもっと前は会議室で紙の資料をもとに行なわれていた時代もあった。

そのプレゼンテーションが現代では映像配信を使って行なわれるようになり、発表者の意図がよりリアルに、臨場感を持って受け手に伝わるようになっている。しかも、必要な機器は安価に手に入るようになり、誰でも行なうことができる。クオリティにこだわらないのであればiPhoneひとつで実現することも可能である。

しかし、だからといって安易に使うと痛い目を見ることになるであろう。

華と罠

ここからは動画のストリーミングが持つ魅力とそこに潜む罠について考えて行く。

○人々を魅了する動画配信

動画のストリーミングの最大の魅力はやはり臨場感だろう。話し手の映像がそのままネットワーク越しの聴衆にも伝わることで、発表者の伝えたいことを文字、声、身振り手振りを交えて伝えることが可能となった。

これまでは同じ空間に同席しなければ伝わらなかったことが、ネットワーク環境の進歩で場所を選ぶことなく伝わって行くのである。

同じ空気感を共有できる、この最先端のプレゼンテーションに人々は魅了され、我も我もとのめり込んで行くのであった。しかし、個人が趣味で行なうならともかく、ある程度の規模で行なう場合には実は、大きなリスクが潜んでいるのである。

○KDDIがハマった罠

先日、KDDIがuStreamを使って製品発表を行なった。

ご存知の方も多いだろうがその内容たるや散々なものだった。製品が、ではない。プレゼンテーションそのものが成立しなかった。

音声のトラブルに見舞われたのである。

配信中の映像では音声が乱れ、ほとんど内容を聞き取ることができないような状況だ。そしてこのトラブルは製品発表が終わるまで回復することはなかった。あれだけの規模の企業が、もはや誰にでも手軽に行なえると思われた動画配信でトラブルに見舞われるとは、誰にも予想できなかったのではないだろうか。

動画配信とはネットワークの技術だけで成り立っているのではなく、その他様々な技術で構成されている。発表会の規模が大きくなればなるだけ、トラブルの要因は増えてゆく。

音声だけとっても、マイクの予備、ハウリング対策、人が入ることによる音響の変化、適正な音量調整といった要素がある。これらをクリアした上でなおかつネットワークやPCを正常に保たなければならない。

これだけのリスクをとっても、映像による伝達効果を必要とするのか、それともリスクを抑えて文字だけで伝えるのが適するか。発表者は状況にあった手段を柔軟に選択しなければならないのだ。

動画配信ということでいうと、同じ携帯電話キャリアのソフトバンクは一歩抜きん出ている印象がある。いち早く動画配信の時代が到来することを予見し、uStreamへの出資や自社スタジオの構築など、かけるべきコストをかけ、環境とノウハウを堅実に蓄積してきたのである。

現在、ソフトバンクの製品発表や孫正義社長の講演など、多数の動画配信を行なっているがトラブルらしいトラブルを目にすることはない。適正なコストを払い、数々の実践を重ねてきた強みであろう。

○コストとリスクとバランス感覚

現在では何をするにも手段が多様で、しかもコストが低くなっている。その分企業としてはあらゆる手段を選択することが可能となる。

このような状況ではどうしても派手なもの、より機能的に優れたものに目がいってしまうのも無理はない。このような状況だからこそ、冷静に、正確に適切な手段を判断することが求めれている。

先のKDDIの話であれば、事前に動画配信のリスクをふまえた上で機材や人材を手配し、入念なテストを行なった上で本番に挑まなければいけなかった。それだどころか、動画配信以外の選択肢がなかったかという根本的な部分を検討する必要があったはずだ。

前項で述べた通り、ソフトバンクは動画配信の隆盛を予見し、コストと手間をかけて自社内での文化と経験を育ててきた。こうした積み重ねがあるからこそ安定した配信を行なえるのであって、思いつきや後追いで行なっても成功確率は低くなるのである。

文字の可能性・可用性

ここからはプレゼンテーションにおける動画配信の代案として、テキストによるリアルタイム配信について話していく。動画配信ほどの臨場感や細かな部分の伝達力はないが、動画配信にはないメリットも多くある。ぜひとも活用して欲しい方法である。

○リスクの小さい文字情報

文字情報によるリアルタイム配信の一番大きなメリットはそのリスクの小ささだろう。

動画配信は映像と音声の2つを配信するため多くの機材とネットワークが必要である。しかし、文字情報による配信で必要なのはPCとインターネット、この2つだけである。PCにしてもインターネットにしてもトラブル時に簡単に代替が用意できることが強みとなる。

また、配信の準備の手間が少ないことも、配信者にとってはありがたいことだ。リハーサルを行う際、動画配信を行なうならば本番と同じ会場、同じ設備で行なう必要もある。また、トラブルを想定して、音声や映像の回線切り替えなども行なっておく必要があるだろう。

しかし、文字情報の配信であればこのほとんどの作業を省略することができるのである。音声のチェックについては当日にリハーサルを行えば事足りる。文字の投稿では投稿間隔と演者の発表のペースをあわせる作業行なう必要があるが、これは自宅でも行なえる。プログラムにより自動投稿も同様、場所を選ばずに行なうことができるのである。

さらに、文字情報をTwitterでつぶやく方法では投稿を自動化するプログラムをレンタルサーバーなどに配置して行なうことができる。この方法であれば本番を行なう際に一切インフラを用意する必要もなくなる。

環境に左右されやすいネットワーク環境を使うこともなく、クラウドからクラウドへ情報を受け渡せるので本番時の負担はほとんど無くすことが可能だ。

○煮て焼いて、まとめて旨し

次に、文字情報による配信のコスト以外のメリットを考えて行く。

文字情報であるということは映像に比べて編集が容易に行なえるということである。例えばTwitterで配信した場合の、配信中から配信後のシナリオはこうだ。

プレゼンや製品の発表中にはハッシュタグによる情報の共有とディスカッションを行なうことができる。その上、タイムラインを遡れば過去の発表内容を確認できるため、一度見逃したとしても議論の概要を即座に確認が可能である。動画配信の場合には生中継が終わってからアーカイブを視聴することになるためタイムラグが大きい。

一方TwitterであればあらゆるOSからアクセスできるため、より広範囲に情報を伝達することが可能だ。さらに、テキスト情報の通信であるため、通信回線の状態に影響を受けにくい。動画配信の場合、古い携帯端末ではパワー不足で処理しきれなかったり回線速度が遅くて閲覧できないことがある。そもそも携帯電話が動画のストリーミングに対応していないということも多くあり、閲覧に大きな制限がある。

さらに、Twitterで配信した場合には配信内容をTogetterでまとめておくことでいつでも閲覧可能になる。しかも、まとめる際にはハッシュタグやユーザー名などで抽出するつぶやきを選択できるため、多彩なまとめ方ができる。発表者の発言だけをまとめれば発表資料、ハッシュタグでまとめれば議論のまとめとして保管しておくことができる。

動画配信の場合、閲覧者の投稿をまとめることは可能だが、動画のどの部分について発言しているかは、投稿内容から推測するしかない。その点で、Twitterでの配信は有利である。ただし、ニコニコ動画であればTwitterの配信にひけを取らないくらい動画とコメントの時間軸の整合性がとれる。あとから資料として振り返るということを優先するならばuStreamよりもニコニコ動画の方が適しているだろう。

○究極のバリアフリー

もうひとつ、文字情報の大きなメリットとして聴覚障害者への対応がある。

動画配信であれば文字起こしををリアルタイムで行なうために大きなリソースが必要になる。事前に話す内容が決まっているような発表会、講演会であれば、台本をもとに話をして、それをさらに文字に起こすというのは二度手間になる。このような場合にはTwitterでのリアルタイム配信を活用するとよいだろう。

さらに、視覚障害者に対しても動画配信と同等のメリットを提供できる。

テキストで配信された発表内容はテキスト読み上げ機能を使用して音声にできるので、視覚障がい者にも無理なく伝えることができる。それどころか、雑音を排除できるのでより明確に内容だけを伝えることができる。

こうした障がい者にとって都合の良い配信には健常者にとってもメリットがある。

例えば勉強会のような場所では講演者と質問者のディスカッションが活発に行なわれることが多いだろう。そのような状況ではしばしば複数の人の声がかぶって内容を聞き取りづらく感じることがある。しかし、Twitterなどの文字情報はそれぞれの発言が完全に分離されているので議論の様子がはっきりと把握できるのである。

ここまで話してきたように、文字情報での配信にはたくさんのメリットがある。少ないリソースでの配信、文字ならではの操作性、発言の明確さ。映像に頼らなくとも多くの人に、伝えるべき内容を的確に伝えることができるということがわかっていただけるだろう。

動画のストリーミングは現在プレゼンのトレンドとなっており、積極的に採用したいということはあるだろう。しかし、本当に伝えるべきことを確実に相手に伝えるためには動画もひとつの手段と割り切って、要不要を検討する必要がある。

今後もネットワークインフラの発達と技術革新により、情報を伝えるための多くの方法が現れることだろう。しかし、そのような中でも世間に流されず、主体性を保って行くには不要なものを切り捨て、本当に必要なものだけを選択して行くことが大事なのである。

未来へいくなら捨てる勇気を持て

本当に大事なことが、多くのノイズに埋もれないよう、不要なものを整理することが変化の中で生き続けるために必要なことなのではないだろうか。

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