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コア・バリュー経営: スモール・ジャイアンツから学ぶ採用のコツ

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採用ミスは会社に多大な損失をもたらします。一方、採用を賢く行うことができれば、会社に合った人を仲間に迎え入れることができ、それはとてもエキサイティングなことです。このように、採用というのは、会社において良くも悪くも広範な影響をもたらすものなのです。コア・バリュー経営導入の重要な一歩でもあります。

今日は、近年アメリカで注目を浴びている「大きくなることではなく、偉大な会社になること」を目指す小・中規模企業(=『スモール・ジャイアンツ企業』)の経営者へのインタビュー記事から学んだことをまとめてみました。インタビュー対象になった会社は業界、そして規模とともに多岐にわたります。個人経営の小さな会社もあれば、年商35億円規模、従業員350人を抱える企業など様々です。大きい会社、小さい会社、設立からまだ数年の会社や長い歴史をもつ会社など・・・、ひとつのタイプに偏ることなく、多様な事例に基づくものになっています。

small giants

賢い採用の掟その1:己を知る

これは、単純すぎることのように聞こえるかもしれません。しかし、それでいて、多くの会社が理解できていないことです。自分の会社のことを明確に理解する。これが会社にあった人材を雇うための第一歩になります。特に、自分の会社の価値観(以下コア・バリュー)を理解することです。自社の事業内容や方針を説明できても、応募者に対して自社のコア・バリューを説明できず、またコア・バリューを基準に人を雇うことができなければ採用の成功はありえません。

スモール・ジャイアンツ企業の中には、自社の企業文化について小冊子にまとめ、従業員に配布するとともに応募者にも読んでもらい、自社に対する理解を深めてもらうようにしているところもあります。自社のコア・バリューに共感してくれる人を雇う工夫のひとつです。

賢い採用の掟その2:身近なネットワークを活用する

多くの会社が求人広告などを利用して大量の志願者を募る傾向にありますが、このような「数撃ちゃ当たる」方式はスモール・ジャイアンツ企業の採用には適さない方法です。上の「掟その1」で述べたように、会社のコア・バリューに合った人材を探すには、身近なネットワークをあたるのが一番。社内での募集、社員の紹介、または会社のソーシャル・メディア・チャネル(フェイスブック、ツイッターなど)でつながっている人をあたることが、会社のコア・バリューに共感し、共通の目的に向かってチャレンジしたいと心から望む人材を見つける近道になります。

スモール・ジャイアンツ企業の中には、求人広告を一切出さないという会社もあります。イリノイ州でケータリング業を営むT社では、もう20年以上も求人広告を出していないそうです。この会社は、業界誌の賞を受賞したり、「イリノイ州で最も働きたい会社」などの賞を受賞したりしており、それがフードサービス業でのキャリアを志す若者たちの関心を集めているそうです。また、社員の中には業界カンファレンスなどのイベントに赴き、会社を代表して講演を行う人たちを数人抱えています。講演のトピックには環境保全、リーダーシップ、企業文化、起業、ブランディングなどがあるそうですが、この会社のことを知ってもらう効果的な広報活動になっているといいます。

また、この会社は地元の大学や高校、その他の団体などとも積極的な関わりあいをもち、地元の優秀な若者をリクルートするなどの取り組みも行っています。在学中は学生アルバイトとして働いていても、長年社内に籍を置くうちに愛社精神が芽生え、卒業後も正社員として働き続けるというケースが少なくないそうです。同社の充実した教育プログラムは地元で広く知られ、尊敬されており、働きながら自分を磨き、成長できる就労機会を求める若者が進んで門戸を叩くということです。

賢い採用の掟その3:コア・バリューに基づいて採用する

一にも二にも、会社のコア・バリューに基づいて採用の判断を決めること。そうすることによって、コア・バリューを共有して共通の目的に向かう同志を得ることができます。ひとつ心に留めておくべきことは、「即戦力になるから」というそれだけの理由で採用しないということです。仕事をこなす能力があるからといって、あなたの会社の目的の実現に貢献してくれるとは限りません。

スモール・ジャイアンツ企業は皆、採用に時間や人など並々ならぬ資源を費やします。そうして、応募者の人間性を探っていくのです。能力のあるなしだけでなく、「人間そのもの」を知ることに注力します。面接ではなるべく多くの質問を投げかけ、長い時間をできるだけ多くの人と交流して過ごしてもらいます。また、オフィスの外で会うなど、環境を変えて応募者の「ありのまま」を把握するように努めます。

これらのプロセスは、会社が応募者の人となりを理解するばかりではなく、応募者が会社のことをよく理解し、「本当に自分にあった環境なのか」をよく考え、正しい決断を下してもらうことにもつながっています。

賢い採用の掟その4:会社に合わない人には、お互いに納得して辞めてもらう

これまで述べてきたように、「会社のコア・バリューを共有できる人」を選別し、仲間に入れることが採用の目的ですが、「会社のコア・バリューに合わない人」、「会社が望む貢献ができていない人」にいかに対処するか・・・、それを考え、正式なプロセスをもつことも同様に重要です。

人を解雇するのはあまり気持ちのよくないもの。法的な難しさも伴います。スモール・ジャイアンツ企業の経営者の多くが心がけているのは、「双方が納得する方法で行うこと」。

相手がどういう状況にあるのか理解すること。また、会社が何を期待しているのかを伝え、十分に理解してもらうことが大切です。職場においてうまく活躍できていない相手と心から話し合い、是正可能な問題があるのならそれをよく理解すること。いつまでに、何を改善して欲しいのかを明確に相手に伝えるのがポイントだといいます。

理想的なシナリオは、「相性の合わない会社で働くのは自分にとってもマイナスだ」と納得してやめてもらうこと。次の仕事を探す余裕が持てるように、当座の生活費をカバーするのに足る退職金を払うなどの配慮ももちろんしているそうです。


今日、この記事でお話した要点を整理すると、次のようになります。

賢い採用のための4つのポイント

  • 己を知る
  • 身近なネットワークを活用する
  • コア・バリューに基づいて採用する
  • 会社に合わない人には、お互いに納得して辞めてもらう

もし、あなたの会社が明確な目的、コア・バリュー、そして情熱を持っているのなら、賢い採用を実現するカギは、あなたの会社の哲学に則った採用システムをつくることです。その一語に尽きます。

それが実現できれば、会社の全員が団結して、同じ目的に向かって突き進める会社、楽しく、生産性の高い会社ができることでしょう。

*本記事は米スモール・ジャイアンツ・コミュニティ、Glenn Burr氏の執筆記事をもとに作成したものであり、スモール・ジャイアンツ・ジャパンにも掲載されています。

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