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ザッポスCEOトニー・シェイから学ぶ:「己を知る」ことはリーダーの条件

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近年、アメリカのビジネス界では、企業が自社の文化をなりゆきに任せるのではなく、戦略的に設計して育成するという「戦略的企業文化」の取り組みが注目されています。全社員のベクトルを合わせることによってもたらされる結束力の向上や現場での意思決定の実践などが、企業力の増強という成果にもつながっています。

『戦略的企業文化』を組み立てる上での基盤となるのは、企業の社会的存在意義である「コア・パーパス」「コア・バリュー(中核的価値観)」です。戦略的な企業文化を築こうという際には、まず、「わが社は何のために存在しているのか(どんな価値を社会にもたらすのか)」、そして、「会社全体でどういう価値観を共有して意思決定や行動のものさしとしていくのか」を会社ぐるみで考え、定義する必要があります。

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「会社ぐるみで」考えることはもちろん重要ですが、コア・パーパスやコア・バリューには所詮、創設者や経営者の思いが色濃く投影されるものです。ですから、企業のリーダーがまず今一度我が身を振り返り、自身のコア・パーパスやコア・バリューを明確に定義することが第一歩になります。

アメリカのビジネス界で「企業文化」や「コア・バリュー」という言葉を一般化するきっかけをつくったのが靴ネット通販(昨今ではアパレルなどにもカテゴリーを広げていますが)のザッポスであり、CEOであるトニー・シェイの貢献が大きいといえます。そのトニーは、2013年10月に控えた本社移転を機に、ラスベガスのダウンタウンを「情熱のコミュニティ」によって活性化するというまったく新しいタイプの都市計画/町おこしに取り組んでいますが、このメガ・プロジェクトについてリサーチをしていた際に、偶然、トニー自身のパーソナル・コア・バリューに行き当たりました。

以下がその8項目です。

1. 一人では達成できない大きな目標に皆で取り組む
2. 共同体のつながりを育む
3. 情熱をもって生きる
4. 常にビジョンをもつ
5. 自分らしくある
6. いつ何時も意義を考える
7. PLUR(ピース、ラブ、ユニティ、リスペクト)
8. 経験は物よりも尊い

皆さんならこの中のどれがご自身のコア・バリューと重なりますか。
私なら、「情熱をもって生きる」でしょうか。
トニーというのは本当に飾り気のない人で、普段はたいてい、ザッポスのロゴ入りTシャツにジーンズといういでたちですが、物にこだわらない反面、人を「びっくりさせたり、驚かせる」のが大好きで、ザッポスが取引先や社員を集めて年一回行う盛大なパーティではいつも奇想天外なサプライズを用意しています。これは、「経験は物よりも尊い」の反映であるといえるでしょう。

あらためて紙を前にし、自分の価値観を言葉にして表そうと取り組むと、明確な定義ができ、自己認識が深まると思います。そして、一度言葉にしてみると日常生活の随所でそれが思い出されて、より一層コンシャス(意識的)な意思決定ができます。

ソーシャル時代のリーダーの条件はセルフ・アウェアネス(自己認識)だといわれています。より日本風にいうと「己を知る」ということになるでしょうか。

石塚

会社というのは「個」の集まりです。価値観のはっきりした会社をつくるためには、会社の中の「個」がそれぞれ自分の価値観をしっかりと持ち、しかもそれが会社の価値観と一致していることが必要になります。リーダーが明確な価値観を持っていることは勿論ですが、これはリーダーだけに限らず、会社の構成員すべてについても言えます。自分なりの価値観を明確にもっている人が多い組織こそ、強い組織になると思います。

トニーのパーソナル・コア・バリューを見ると、それがザッポスという会社のコア・バリューにも色濃く反映されているのがわかりますし、また、彼がこれまでしてきたこと、今取り組んでいることすべてがコア・バリューとぴったり合致していることがわかります。きちんと筋が通っていて、ぶれがない。それが、トニーが魅力的なリーダーである所以だといえるでしょう。

皆さんも是非、特別な時間をつくり、あらためて紙の前に座って、ご自身のコア・バリューというものを書き出してみてください。実際にやってみると意外と難しいものですが、そこから得られる自己洞察の実りはきっと大きいと思います。


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